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政治的意図はありません。
行為中の場面があります。
英日
冗談抜きでマジで見ない方がいいです。はい。
自分でも深い眠りについていた。
覚めるはずのない夢に__。
頭上から、電話が鳴っていた。
寝室で寝ていた筈の彼はもう居なく、ベットシーツの冷めた温もりだけが残っていた。
帰りを告げる電話か。
画面をふせ、電源を切った。
浅く息を出す。
頭の中には彼の甘く吐息を漏らす声がこびりつく。
いつもならば、忘れられる筈の情事も、空が黒に染まるまで忘れる事ができなかった。
「昨日ぶりですね。」
スプーンが皿の上で弧を描く。
冷めきった前菜のスープが静かに揺れる。
「そうですね。それと、この後予定はありますか?」
スプーンが皿に当たる音だけが響く。
「これで最後、といえばどうですか?」
唇が乾く。
彼は持っていたスプーンを置いた。
下を向いたまま、一拍置いて。
「……最後なら、いいですよ。」
その瞬間だけ、本当の彼を見れた気がした。
最後ということなので、家に招待することにした。
風呂あがりのバスロープを握りしめる彼に、私の頬は熱を帯びる。
彼は躊躇もせず、横になった。
バスロープを静かに脱がすと、静寂だけが流れた。
初々しく、彼は局部を隠す。
しっとりと湿っていく体と、息が少しずつ乱れていくのを感じる。
彼の温度が触れるたびに体内に言葉が募る。
触れた指先に、吐息が触れる。
「待って…」
彼が私の背中にしがみつく。
近づいた彼の首元はしっとりと汗ばんでいる。
彼の乱れる息が頬をかすめる。
しかし、その目は私を捉えていなかった。
私は視線を天井に向ける。
吐息が響く部屋の中で、
彼が一瞬だけ指先の力が強くなった。
彼はその後に、泥の様に眠りについた。
その顔はまだ幼く、青年の面影が輪郭をなぞっていた。
「……日本」
初めて、彼の名前を呼んだ。
部屋にこもる熱気が体に触れる。
彼は目を覚ますことはないだろう。
優しく唇が触れた。暖かく、湿っていた。
そして、視界が黒になった。
酷く穏やかな夢だった。
自分の手のひらで大事なものが滑り落ちいくのに、それを止めることができなかった。
夢の中の自分がうらめしそうにこちらにらむ顔で目を覚めた。
暖かく、春というのに、もう5月のような涼しげな風が顔を逆撫でした。
彼がよれた服を整えて、帰ろうとしていた。
初めて、彼が私を捉えていた。
その顔に暗い影が落ちた。
彼は寝室の扉も閉めずに、出て行った。
『一度逃がした蝶の足跡を辿る事は一生かけてもできることはない』
昔読んだ小説の1行が頭によぎる。
本の虫という訳でもなかったが、この小説だけは大人になるまでこよなく愛していた。
寝室の中で飛ぶ蝶は、冷めた風の上で静かに羽を震わせていた。