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#主にオリキャラ視点
#ヴィデク
推しを愛して止まない
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顔の熱がようやく引いてきたころ、予鈴が鳴るまであとわずかになっていた。
いつまでもここにいるわけにもいかない。
私は小さく息を吐き、洗面台から離れた。
鏡に映る自分の顔を、もう一度だけ確認する。
……よし。いつもどおり。
そう自分に言い聞かせてから、私は何事もなかったかのように教室へ戻った。
扉を開けると、教室のざわめきが耳に入ってくる。
友人と談笑する声。机を動かす音。くだらない話で盛り上がる生徒たち。
昨日と何も変わらない、雄英高校の日常。
その中で耳郎だけがこちらを見ていた。
……目が合った、気がする。
けれど、確かめるより先に視線を逸らしてしまった。
別に、避ける理由なんてない。
挨拶だってした。少し話もした。
それだけだ。
なのに、どうしてこんなにも気まずいのだろう。
私は何もなかったように自分の席へ向かい、椅子を引いた。
(……めんどくさ)
心の中で吐き捨て、机に鞄を置く。
今まで、こんなことで悩んだことなんてなかった。
公安では、与えられた仕事をこなせばよかった。
必要な報告をして、次の指示を待つ。それだけで一日は終わった。
人と仲良くなる必要もなければ、相手の何気ない一言を気にする必要もない。
そもそも、気にするような相手がいなかった。
それなのに。
たった一度、笑いかけられただけで。
たった一度、「好き」だと言われただけで。
どうして、こんなにも調子が狂うのだろう。
(……本当に、面倒くさい)
人付き合いなんて、もっと単純なものだと思っていた。
必要なことを話して、必要なときに協力する。
そうすれば、何の問題もないはずだ。
けれど、目の前にいる彼らは違う。
私が何を考えているのかも知らないくせに、平気で話しかけてくる。
突き放しても、簡単には離れていかない。
昨日、あれだけはっきりと拒絶したのに。
今朝あんな態度をとったのに。
……どうして、普通に接してこられるのだろう。
理解できない。理解できないからこそ、どう接すればいいのかもわからない。
私は頬杖をつき、窓の外へ視線を向けた。
こんなことなら、誰とも関わらないほうがずっと楽だ。
時刻は午後十二時二十分。
昼休みを告げるチャイムが鳴り響くと、教室は一気に騒がしくなった。
私は学食へ向かうため、机の上を片付けて席を立つ。
そのときだった。
耳郎「蛇神さん、一緒に昼食べない?」
『……え?』
思わず、聞き返してしまった。
振り返ると、耳郎がこちらを見ていた。
昨日、私がどんな態度を取ったのか。どんな言葉を口にしたのか。
まさか、忘れたわけではないだろう。
それなのに目の前の彼女は、まるでそんなことなど気にも留めていない様子だった。
昨日からずっと友達だったとでもいうような、あまりにも自然な顔で。
……理解できない。
私はしばらく、彼女の顔を見つめたまま固まっていた。
『……えっと、どうして?』
ようやく口から出てきたのは、我ながら呆れるほど単純な質問だった。
どうして、わざわざ私を誘うのか。
クラスメイトなら、ほかにいくらでもいるだろうに。
耳郎「んー?」
耳郎は少し考えるように視線を上へ向け、それから、あっさりと答えた。
耳郎「一緒に食べたいから。……だめ、かな?」
こてん、と首を傾げる。
その仕草に、特別な意味なんてないのだろう。
きっと、深く考えてすらいない。
ただ、一緒に昼食を食べたい。それだけ。
……だからこそ、厄介だった。
何か裏があるのなら、まだ対処のしようもある。
任務のための情報収集なら、こちらにも明確な目的がある。
けれど、理由がただの「一緒に食べたい」では、どう返せばいいのかわからない。
断ればいい。
それだけの話だ。
私は友達を作るために雄英へ来たわけではない。
ここにいるのは公安から命じられた任務を遂行するため。
それ以上でも、それ以下でもない。
だから、答えは決まっている。
断ろう。
そう思って、口を開いた。
『……』
……あれ?
言葉が出てこない。
耳郎は急かすこともなく、ただ私の返事を待っている。
その顔を見ているとなぜだか、断る言葉がひどく冷たいもののように思えてしまった。
馬鹿げている。
相手がどう思おうと、私には関係ないはずだ。
なのに。
『……いいですよ』
気づけば、そんな言葉が口からこぼれていた。
耳郎「!」
耳郎の目がぱっと輝く。
耳郎「ほんと? やった!」
……どうして、そんなに嬉しそうなのだろう。
私は自分の返事を、今さらながら後悔し始めていた。
これは任務のため。
クラスメイトと交流することも、彼らを知るためには必要だ。
そう。だから、別に。
別に、耳郎と昼食を食べたいと思ったわけではない。
……本当に。
コメント
1件
うわあ、この主人公の心の揺れ、すごくリアルで引き込まれました。任務目線で「関わらない方が楽」と分かっているのに、耳郎さんのあまりに自然な「一緒に食べたいから」に言葉が出なくなる流れ、そして自分に後付けで理由を重ねながらも誘いを受け入れてしまう……この人間くさい矛盾がたまらないです。設定面でも「公安からの潜入任務」という緊張感が、学園生活の何気ない日常の描写に深みを与えていますね。続きを読めるのが楽しみです。