テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「よし、京治。明日はパーティーに行くぞ!」
「……は?」
現在17:00。どうやら俺の嫌な予感は当たってしまったらしい。
俺は赤葦京治。26歳。次期社長だ。まだ社長でも無いので何かする権限は無いのだが、基本的に会社では自由にさせて貰っている。最近は仕事の引き継ぎもひと段落ついて、少し落ち着いたところだった。ところで、何故なんの取り柄も無い俺が次期社長となっているか、と疑問に思う人もいるだろう。それは、俺の親は製薬会社の社長だからということにある。たまたまとはいえ、社長の息子として生まれてしまったからには責務は全うしなければならない。社長になるのだから。だが、まぁ、社長といえど、俺の持つ会社は正社員96名、非正規社員280名とそこまで大きくも無い会社で、所謂、中小企業と呼ばれる会社である。
そして、どうして俺が冒頭の様な事になっているかというと、最近、会社の景気が良くなったのだ。と、いうのも元々、この会社は堅実で丁寧かつ、慎重な姿勢がそこそこ評判が良かったのだが、あまり知名度が無い為、目をつけられていなかった。それを聞きつけた、とある会社が俺の会社との大きな契約を結んでくれたのだ。
それがどうしてパーティーに繋がるのか、と思う人もいる事だろう。そう、それはパーティーとはつまり、金持ちの上流階級の人々が集まる社交場である。そこに行ける程お金が無かった会社が、その契約を結んだ今、行くことが出来るようになった事を意味するのである。
俺は、正直なところ、行きたくなかった。パーティー、それは誰もが憧れるものであろう煌びやかな大人の社交場。しかし、次期社長の今の俺がパーティーに行く目的は一つ。お嫁探しだ。もっと細かく言えば、出来るだけ金持ちの女性を捕まえて会社を成長させることだ。本当であれば、こんな事はするつもりではなかった。いや、正確には出来なかった。理由は簡単。パーティーに出れる程のお金が無かったから。俺も、俺の父もパーティーに出る機会なんて無い。そう思い込んでいた。だから、こんな事になるなんて思ってもみなかった。
言い訳と言われるかもしれない。でも、心の準備はおろか、女性経験などあるわけが無い俺にとって、突然のパーティー参加予告は死刑宣告とさほど代わりが無かった。女性に関わる機会なんて何年ぶりだろうか。学生時代だって、中高一貫男子校だ。辛うじて小学校の頃、関わった記憶が微かにあるが、そんなものでパーティーでパートナーを見つけるなんて聖徳太子でも無理だと言うだろう。知らないけど。
いっそ、時間が止まってしまえば良いのになんて、非現実的な事を考えてしまう。もしかしたら、だなんて淡い期待を持って、ちら、と壁に掛けてある古い時計を見た。やはり、時計の針は無慈悲にも止まってくれないらしかった。焦りと不安が俺の心を駆り立てる。刻一刻と迫り続ける明日にただ、絶望しているしか無かった。どうしようもない。気づけば夜になっていた。俺は諦めて、眠りについた。
規則的なアラーム音が響いた。朝だ。
「…………はぁ~〜〜……」
あの、悪夢のような時間が、いや、いっそ悪夢であって欲しかった時間がいよいよすぐそこにやってきた。
と、ドアの開いた音がした。
振り向けば現社長こと、お父さんが立っていた。
「おはよう!京治。もうスーツは用意してあるからね。行く時間までは自由にしていて良いからね。お父さん、京治をパーティーに参加させられて嬉しいよ。」
そんな事を言われてしまえば断ることも難しい。俺はもう完全に抵抗を辞めて流れに身を任せることにした。
ついに、来てしまった。
物凄く高そうな、黒塗りの車(運転手もいた)に揺られて、気がつけば、大きな会場のドア前に立っていた。
「……へぁ」
腑抜け声しか出なかった。庶民なりに煌びやかな会場を予想はしていたがここは更にそれを超えるような場所らしい。
そんな俺にもお構いなしに父は
「行くぞ、京治。」
と言って、スタスタと歩いていくものだから、俺も急いでついていった。
中に入れば、ただでさえ煌びやかな外観よりも更にキラキラしていた。歩いている床のフローリングだって、埃一つ無い上に、とても綺麗な模様が施されている。きっと、高いどころの話では済まない値段をしているのだろう。電気はシャンデリアが下げられ、壁は大理石で出来ている箇所もあり、庶民の俺でも分かるほど豪華だった。流石金持ちは違うな。金持ち恐るべし。
そんな風に思考を巡らせていると、前にいた筈の父がいつの間にか消えていた。
周りを見渡しても父らしき人は見当たらない。
こんな人数で見つけ出す事は不可能だろう。とりあえず、壁際にはけて空気となることにした。
長らく、空気になってみて分かった事がある。それは、ほぼ全員が美男美女しかいないことだ。入ってすぐでは緊張して分からなかったが、あまりにも顔が良すぎる。きっと産まれた時から手塩に育てられてきたのだろう。造形どころか、肉付きから違うのだ。こんなところに俺が居て良いのか。帰って良いならば、今すぐにでも帰りたい。
それに、上流階級の婚活パーティー、誰だって玉の輿を狙うだろう。女性達は皆、自分よりもお金のありそうな人に近づいているみたいだ。こんな、パーティーすらやっと入れた、庶民に少し毛が生えたような人間では相手にもされないだろう。
自分より格式高そうな女性に猛アタックしている男性を数人見かけたが、相手にもされていなかった。
今ここにいる誰にも相手をされない俺はここにいる必要はあるのだろうか。大体こんなところ、来たく無かったのに。俺は、普通の女性を見つけて、普通の恋愛をして普通に生涯を終えたいんだ。こんなところで、それもお金しか見ていないような人の中から生涯の相手を見つけるなんてごめんだ。けれど、もし、俺がそんな理由でこのパーティーを抜け出したりなんかしたら、この会社を作ってくれたお父さんにも、取締役の皆さんにも、働いてくださる従業員にだって顔向けが出来ない。だからせめて、このパーティーが終わるまではここに居ようと決めたのだ。相手が見つからなかった事を聞かれたら「誰も会う人が居ませんでした」と話せば良いだろう。事実ではあるのだし。
そんな事を考えていれば、突然、ワッと会場に歓声のようなものが上がった。何かと思って、声の方に目を向ければ彼がいた。彼はこの会場にいるほぼ全員の視線が同じ人に向けられていた。俺は、息を呑んだ。それは、その視線の先にいるのが、あの有名財閥の御曹司の息子こと、木兎光太郎だったからだ。
信じられないと思った。都市伝説だと思っていた。存在していたのだ。「獣人」が。
やはり、噂の通り、木兎家は獣人一家のようだった。獣人なんて、存在する訳がないと思っていた、のに。CGでは無かったのか。
獣人とは何か。
その定義ははっきりとはしていないが、ほとんどは他の動物の特徴を併せ持った人間の事を指す。俺達が観測出来ないくらいに昔に人間と交配した動物の進化先と言われているがその真相はまだ分かっていない。
大昔、人間は獣人を飼い慣らし、獣人のその優れた聴覚や、嗅覚、視覚などを利用して搾取していた。だが、ある時、反乱が起こった。そして、獣人は人間に圧倒的な強さで勝ってしまった。その時、人間と獣人の立場が反転するかと思われたが、獣人は心優しき生き物であった。そうして、共生という道を選んだ獣人と人間は、獣人も人間も「個」として認め、尊重し合う社会を作る事になったとされている。それが、今の社会の基盤である。そう、習った。でも、俺は獣人など見たことが無かった。いや、都会の方の街で何度か見たことがあったかもしれない。でも、覚えていない。今、そんな事はどうでも良い。重要なのは目の前に幻だと思っていた獣人がいる事だ。そもそも、獣人は基礎能力が高いので、基本、大手の会社の社長であったり、地位の高い人が大多数である。あまりにもそのような所に勤めている者が多いので、あまり一般人の目の前で姿を顕すことは無い。なので庶民の俺が現実で見た事が無いのは当然といえば当然であった。でも近年では、獣人の人数が増え、普通の家庭育ちの獣人も増えてきている、らしい。俺は見た事が無いが。
そして、そんな獣人が、今、俺の視線の先に存在した。薬品を作っている者としては、人間と体のつくりの違う獣人はとても興味を惹かれた。俺から彼までの距離は少し、いや結構遠いが、生憎俺は目が良い。今、拝めるこの機会に目に焼き付けておきたい。
……あれは…。兎と梟と人間のハーフ…?どう見ても羽からしてアレは梟なのだが、頭の上には長い耳があるのだ。なんとも珍しい。気になるには気になるが、近づきたくは無い。あんなに人に囲まれて、かつ、御曹司の男性なんて碌なことがない。近づかないのが1番である。とは言え、ずっと壁際から見ているのも怪し過ぎるので、目の前にあるちょっとした食事を食べることにした。先程まで、ここら辺にも沢山人はいた筈なのだが、全員、木兎家に群がっていったようだ。婚活とはいえ、男性であろうとも、格式高い家と人脈を作るのは家にとっては好都合だろう。あんな金持ちが入ればそちらに群がるのは当然の摂理である、といえばそうなのだが。まぁ、いずれにせよ、俺には関係ない。ん、このステーキ、うま。そうだ、どうせこちら側に人が居ないのならば今のうちに沢山食べておこう。こんなに良いところの食事なんて次味わえる機会は、ほぼ無い。契約を結んだとは言っても、いつ崩れるかなんて分からない。食べられるうちに沢山食べておこう。
少し時間が経って、人々の声がこちらに近づいてきた。木兎家を見に行った人達だろうか。絡まれたくは無いので、このステーキを食べたらまた壁際に退散することにする。
やっぱり、美味い。一生食っていたい。でも、ダメだ。そろそろ人混みが帰ってくる。
元の場所へ戻るか。そう思って顔を上げれば、目の前にあの獣人、いや、木兎光太郎の顔があった。
「っ!?!?っ〜〜…!!!」
急いで後ろに引き下がろうとしたが、木兎光太郎さんに群がる人達のお陰で後ろへ下がれ無かった。
「なぁ。」
彼が口を開けば、周りの女性達の声が上がる。こんなところに居たくない。一刻も早く、逃げなければ。そう思って、はしゃいでいる女性の隙間から逃げようとした時だった。
「なぁ、君だよ君。あ、名刺。あかしくん?ってゆーの?」
手首を掴まれて、俺の名前を呼ばれた。
周りの人の視線が痛い。俺だって、なんでこうなったのか分からない。逃げたい。帰りたい。一体どうしてこうなってしまったのだろうか。
「はい…。赤葦ですが……、。ぼ、木兎様程の御方が…俺、いえ、私に、な…んのご用意…でしょうか……?き、貴婦人達がお待ちですよ…。」
勇気を振り絞って出した声は弱々しかった。
「んー…。あかーしってゆーの?よし!決めた!俺!あかーしと結婚する! 」
少し緩んだ周りの視線が倍になって厳しくなった。ケッコン…?けっこん……。結婚!?!?
この人、何言ってるんだ…。殺意と好奇を含んだ視線を注がれている俺の身にもなってくれ。大体、男同士の結婚だなんて…。いや、立場を考えればいけなくも…?いやいや何言ってんだ、俺。そもそも初対面の人に告白するなんてネジが一二本ブッ飛んでないと無理だぞ。ああでも、御曹司ならこれくらいあるかもしれない…ってんな訳あるか!!ああ、そうだ。 今そんな事どうでも良いんだ。こんな事をしている場合では無い。この状況の打開策を練らねば。軽く手を捻ってみても力が強すぎる。いや、そもそもこの状況自体幻覚なのかもしれない。ここに居たくない俺の、最悪な事態を想定した、悪夢に近い、幻覚。そうだ。きっと、そうでしかない。だって、御曹司が俺に迫るなんてある筈が
「な、あかーし、俺と結婚して!」
「…………………え?」
幻覚では、無かったようだ。
「ダメ?嫌?」
御曹司にそんな事聞かれて断れる人間なんていない。
「嫌では……無い……………です……。」
嗚呼、一体、どうすれば……。
「ヨシ!分かった!ちょっと待ってて!姉ちゃーん!!」
目の前にいる彼こと、木兎光太郎はあろう事が俺の目の前で木兎光太郎さんの「お姉様」を呼んだ。
「何?いつもパーティーでは大きな声で私を呼ぶのはダメって言ってるでしょ!どうせ、聞いてないとは思ってたけど…。それで、何かあったの?」
すると彼はお姉様と呼ばれる人に対して一拍もおかず答えた。
「姉ちゃん!!俺!この子と結婚する!!!!!!!」
そう高らかに宣言したかと思えば、俺の手を持つ手を上に上げて俺がこの人と結婚する(らしい)事がこのパーティー中の全員に知られた。
「えっ、貴方、結婚相手見つけたの?あんなに渋ってたのに?一目惚れとか?」
「そう!ヒトメボレ!!」
「もしかして、手を繋いでいるその子? 」
「うん!あかーしって言うんだって。可愛いでしょ?」
「そうね。綺麗な顔立ちしてるわね。…でも、ずっとここで話している訳にもいかないし、色々と聞きたい事もあるから、別の部屋に移動しましょうか。あと、光太郎。」
「ん?なに?」
「その子の手、離してあげなさい?怖がってるわよ。」
「えっ、あっごめん!あかーし…!」
「…………ハッだ、大丈夫です……」
「ごめんね?ウチの光太郎が。とりあえず、ここじゃ大変でしょう?別の部屋でお話してもよろしいかしら?」
「あっ、はい…大丈夫です…」
「赤葦様のご家族はこちらにいらっしゃる?」
「あっ、はい、居ます。」
「分かったわ。執事!」
「はい。お呼びでしょうか。お嬢様。」
「この子のご家族をあの別室まで連れていって。」
「はい。お嬢様のご命令とあらば。」
「後は執事が赤葦様のご家族を連れてくるので大丈夫よ。行きましょうか。」
「えっ、あっ、はい。」
「赤葦様、赤葦君って呼んでもよろしいかしら?」
「あっ、はい。もうあの、全然大丈夫です。」
「赤葦君。貴方、多分、光太郎に迫られて断れなかったのでしょう?嫌なら今のうちよ。これ以上事が広がると本当に結婚しなくちゃいけなくなるわ。知らない人間と結婚して人生、後悔しない?大丈夫?」
お姉様の聞き方は本当に俺を心配しているように見えた。俺の人生が、知らない男と結婚だなんて。
「えっ!俺、迫ってなんか無いし!ちゃんと良いか聞いたもん!」
「黙らっしゃい。いっつもそう言って、なんでもかんでも我儘を通してたんだから!」
「えっと、俺は、大丈夫…です。」
どうしたって権力には逆らえない。何より、彼の射抜くような視線が、権力者特有の強さがあった。まるでそれは「俺に逆らうな」という傲慢さを持った王のようで、彼が下した命令に逆らうなんて俺に出来る筈もなかった。
「お嬢様、赤葦様のお連れ様をお連れしました。」
「ありがとう。下がって良いわよ。」
「はっ。」
「お父さん……」
「赤葦君のお父様ですね。好きな席にお座りになられて。」
「あ……はい。」
「事情は聞いていらしてますでしょうか?」
「はい。全て執事の方から聞いております。」
「光太郎。挨拶。」
「アッ…う…。……俺!あかーしと結婚したいんです!だから!あかーしを…!俺に、ください…!! 」
「光太郎…。挨拶って言ってるでしょ。アンタのソレはただの一方的な要求。挨拶も無しに突然貰う宣言なんて…。ハァ…。ウチの光太郎がすみません…本当に…」
「い、いえいえ!お顔を上げてください!」
「でもこの子も本気なんです。突然の申し出で失礼な事は重々承知しておりますが、どうか、どうか私の弟のお願いを聞いて頂けないでしょうか 」
「姉ちゃん…」
木兎さんにも考えがあるのは分かる。でも、俺は…女の子が好きなんだ。ゲイじゃない。神様。頼むから断ってくれ。俺は、権力に負けたけど、お父さんなら…
「あ、もう全然大丈夫ですよ。貰い手が居なくて…木兎家の方に貰っていただくならウチとしては本望です。 」
お父さん………。
こうして俺は交際0日婚、獣人御曹司との波瀾万丈すぎる人生の幕開けとなったのであった。
(おまけ)
「あ!ねぇあかーし見てこれ。」
「ああ、木兎さんが告白した時の2人で撮らされた写真じゃないですか。」
「やっぱさ、あん時から俺達ってうんめーだったんだなって。」
「いや、普通に怖かったです。」
「エッ!?!?!?!?じゃ、じゃあ…今の俺も怖いから一緒にいるって事……??」
「いえ、流石にそんな事は無いです。昔が怖かったってだけで、今は心も体も木兎さんのものなので。」
「ほんと…?」
「本当ですよ。そんなに疑うなら、今から、俺の体で試してみますか?俺の愛が本物か」
「………それ、誘ってンの?」
「なんだと思います?」
次の言葉はキスの間に消えた。