テラーノベル
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「……なあ、くずは」
布団の中、隣の叶がぼそっと呼んできた。
寝返りを打って顔を向けると、スマホの明かりがふわっとシーツに映っていた。真っ暗な部屋の中で、それだけがやけに現実味がある。
「んー、なに。眠れねぇの?」
「うん。……ちょっと。」
その返事には、いつものふわっとした軽さがなくて。
代わりに、少し迷ってるような、照れてるような、そんな沈黙が続く。
しばらくして、叶がぼそりと言った。
「……ぎゅー、して?」
「……は?」
こっちの思考が止まった。
耳が一瞬で熱くなるのがわかった。
今、こいつ、なんて?
「いや……その、なんか……落ち着かなくて……。くずは、あったかいし……」
声は小さい。でも、ちゃんと聞こえる。
布団の中でお互いの距離は近くて──たぶん、あと30センチもない。
「バカかよ……」
そう言いながら、葛葉はゆっくりと腕を伸ばした。
叶の細い肩を引き寄せると、思ったより素直に、ふわっと抱きついてきた。
心臓が、どくんと鳴る。
(なにこれ、ヤバ……)
いつも通りの叶じゃない。
少し甘えて、少し頼って、それをこっちにだけ見せてる。
その事実が、どうしようもなく、葛葉の胸の奥に熱を残す。
「……あったけぇ……」
叶がぽつりと呟いた。
「……おまえなぁ、そーいうの……ズルいんだよ」
「ん、なにが?」
「なんでもねぇよ。もう寝ろ」
葛葉はそう言って、叶の髪をふわっと撫でた。
隣で小さな寝息が聞こえるまで、そう時間はかからなかった。
だけど葛葉は、ずっと目を閉じられないままだった。
叶の背中のぬくもりが、妙にくすぐったくて。
まるで今夜だけ、自分が特別に選ばれたみたいな──
そんな気がしてた。
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