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くろのわ

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くろのわ

1 - kzkn

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2025年08月16日

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「……なあ、くずは」


布団の中、隣の叶がぼそっと呼んできた。


寝返りを打って顔を向けると、スマホの明かりがふわっとシーツに映っていた。真っ暗な部屋の中で、それだけがやけに現実味がある。


「んー、なに。眠れねぇの?」


「うん。……ちょっと。」


その返事には、いつものふわっとした軽さがなくて。

代わりに、少し迷ってるような、照れてるような、そんな沈黙が続く。


しばらくして、叶がぼそりと言った。


「……ぎゅー、して?」


「……は?」


こっちの思考が止まった。


耳が一瞬で熱くなるのがわかった。

今、こいつ、なんて?


「いや……その、なんか……落ち着かなくて……。くずは、あったかいし……」


声は小さい。でも、ちゃんと聞こえる。

布団の中でお互いの距離は近くて──たぶん、あと30センチもない。


「バカかよ……」


そう言いながら、葛葉はゆっくりと腕を伸ばした。


叶の細い肩を引き寄せると、思ったより素直に、ふわっと抱きついてきた。

心臓が、どくんと鳴る。


(なにこれ、ヤバ……)


いつも通りの叶じゃない。

少し甘えて、少し頼って、それをこっちにだけ見せてる。


その事実が、どうしようもなく、葛葉の胸の奥に熱を残す。


「……あったけぇ……」


叶がぽつりと呟いた。


「……おまえなぁ、そーいうの……ズルいんだよ」


「ん、なにが?」


「なんでもねぇよ。もう寝ろ」


葛葉はそう言って、叶の髪をふわっと撫でた。


隣で小さな寝息が聞こえるまで、そう時間はかからなかった。


だけど葛葉は、ずっと目を閉じられないままだった。

叶の背中のぬくもりが、妙にくすぐったくて。


まるで今夜だけ、自分が特別に選ばれたみたいな──

そんな気がしてた。

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