TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「そなた……、おお、エレノアではないか」


私が一歩前へ出ると、ブルーノから名を呼ばれる。

彼が私の名前を憶えているのは、お気に入りのメイドである証だ。


「私がオリバーさまの遺品整理をいたします」

「あ、ああ……。頼んだ」


オリバーの遺品を整理すると立候補すると、ブルーノは承諾してくれた。

言葉に詰まっていたのは、『他の者にやらせればいいのに』と心の中で思っていたからだろう。


「終わったら俺に報告に来るんだぞ、エレノア」

「かしこまりました」


分かりきったことを言う。

私はそんな考えを顔に出さず、服の裾を持ってブルーノに一礼した。

そして、新しい仕事に入るため彼を横切り、階段を上る。


「ちょっと! 窓ふきは!?」

「エレノアには俺が新しい仕事を与えた。彼女がやっていた仕事は貴様が一人でやればいいだろ」


後ろで先輩が私を呼び留めている。

だけど、私はそれを無視して、オリバーの私室へと向かう。

後ろでブルーノが先輩に新しい命令を出しているのが聞こえる。

これで私は先輩に嫌われただろう。

だけど、そんなのどうでもいい。

だって、この出来事はもうじき”なかったこと”になるのだから。



二階へ上ってすぐの扉を開ける。

廊下が見え、左右とつきあたりにそれぞれ一室ずつある。

三室はソルテラ一家の私室で、左がスティナ、右がブルーノ、つきあたりがオリバーとなっている。

オリバーの部屋は代々ソルテラ伯爵が利用する部屋で、当主以外、誰も入ってはいけないことになっている。掃除にも、お茶を持っていくのも禁じられている。それは親族にも該当するようで、二人も入ったことがないらしい。


私はオリバーが利用していた部屋の前で立ち止まる。

当主以外、入室を禁じられた部屋。今回はブルーノが”遺品整理”という仕事を私に与えてくれた。

私はためらうことなく、ドアノブに手を伸ばし、部屋に入った。


物が散らかっておらず整頓された部屋だが、部屋の主が出兵し一週間ほど無人だったため、埃っぽいにおいが立ち込める。


「さて……、と」


私は、壁に掛けられている肖像画の額縁を外した。

描かれた人物が誰であるかなんて、今はどうでもいい。。


「よいしょっと」


肖像がをその場に置き、私はかけてあった壁に全体重をかけた。

私の身体は壁にもたれかかることはなく、すり抜ける。

その先に、もう一室あるのだ。隠し部屋である。

この裏の壁は、見た目上ただの壁に見えるが、隠し部屋の入口なのだ。

隠し部屋は、本と沢山の小瓶、筆記用具そして青白く光る水晶玉がある。

小瓶にはキラキラした砂や色のついた液体が入っている。

ぱっと見た感じ、魔法を研究している場所だろうか。


「はあ」


私は隠し部屋に入った突端、ため息をついた。

突然、隠し部屋が現れたのに驚かず、落胆するなどありえない反応だと自分でも思う。


「”また”、ここに来ちゃった」


私は水晶玉を両手で持ち上げながら、独り言を呟いた。


『僕は初代ソルテラ伯爵。この水晶を手にする者よ――』


「これを見つけるのも”八回目”ね」


水晶を手にすると頭の中に男性の声が流れる。

だけど、私はこの展開をもう知っている。


『私の血筋を絶やさぬため、【時戻り】をしてほしい。さあ、”いつ”に戻す?』


この水晶はある条件が起こると、青白く光り、時間を戻すことができる魔法道具。

私はこの魔法道具を八回、利用している。

青白く光る条件は、”ソルテラの血筋が途絶える”こと。


「オリバーさま。次こそは、あなたをお救いします」


八度、繰り返しても私は一度もオリバーを救えていない。

モブメイドは戦死する伯爵の運命を変えたい

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

130

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚