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「気がついたのか……体調はどうだ?」
目を覚ました瞬間、推しが目の前にいた。
推しが俺を見下ろして、心配そうに眉をひそめている。
なんだこれ?いやいや待て、夢か?
目を擦りながら確認する。
……俺の目が悪くないならば、目の前にいるのはどこからどう見てもレイ=エヴァンス。俺がやりこんだ乙女ゲーム『クレセント・ナイツ』の最推しキャラだ。
赤い髪に金の瞳──あの冷徹で孤高な最強騎士が、俺を覗き込んでいる。
呼吸が止まりそうだ。
「……ここはどこですか?」
震える声でなんとか問いかけると、レイは静かに答えた。
「……?お前の部屋だ。事故の後、ずっと休んでいただろう……?」
事故?俺、事故に遭ったのか……?
自分の体を見下ろす。確かに違和感がある。
手が細くて白い──いつもの自分じゃない。
ふとベッド横にあった姿見が目に入る。
そこにいたのはゲーム『クレセント・ナイツ』に登場する美形サブキャラ――カイルそっくりの姿だった。
?!?!?!?!
俺は平凡な顔で、平凡な日本人の髪色に瞳色。
こんなプラチナブロンドでもなければ、菫色の瞳でもない。
「嘘……だろ?」
混乱している俺に、レイがさらに顔を近づけてきた。
「大丈夫か?顔色が悪い」
レイの声は低くて優しい。
普段の冷徹な彼とは少し違う柔らかさが混じっていて、心臓が跳ねた。
そんな声で心配されたら、心臓持たないぃ……)
「あ、いや、これは……その……」
推しに心配されるなんて、オタクとしては最高の状況だけど、頭が追いつかない。
最後の記憶をたどる。確か、仕事帰りにコンビニで買い物して……その後はどうだった?
思い出せ、俺。
そうだ猫がいて、その前に車が目の前に突っ込んできて──そこで思考が止まる。
俺、死んだのか……?
動揺して言葉を探していると、レイがさらに距離を詰め、俺の前髪をかき上げた。
指先が額に触れた瞬間、背筋がビクッと震える。
「……そんなに怯えなくていい。お前は、俺の妻だろう?」
「……は?」
今、なんて言った?
ツマツマツマ……大根を細く切ったアレか?
目が点になる俺を見て、レイがさらに続ける。
「事故で記憶が混乱しているのかもしれないな……。だが、お前は俺の伴侶であり、共に誓いを立てた存在だ」
妻?伴侶??いやいやいや、推しが俺の夫??
頭がぐるぐるしてきた。
目を覚ましたら異世界だったとか、見知らぬ美形になっていたとか、そんな事態はともかく――いや、それも一大事だが、ともかく。
──推しが俺の夫でした。
これはヤバい。
夢だろ?いや、むしろ夢であってくれ。
だが、ふかふかの豪華なベッドと鏡に映る美形の姿が、残酷な現実を告げていた。