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ムメイ
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耀聖(ようせい)
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「時間がかかって申し訳ございません」
「いえ、本当に来てくれてありがとうございます」
「約束ですもの」
紫色の瞳がやわらかく微笑む。この前の約束通りにメリエルがお茶をしに来てくれた。
「女同士のお茶の時間に無粋ですけれど、カトル様がリードをつけなければ許可しないと――」
横にはリードが控えている。まるでカトルに見張られているみたい。息がつまりそう。
私が少し嫌な顔をしたからだろうか、メリエルがリードを少し下がらせる。
「カトル様ももう少し柔軟になっていただきたいですわ。女の子を、ずっと城に閉じ込めておくなんて、女心の「お」もわかっていないご様子で……」
彼女はふぅとため息をつく。
「あの、メリエルさんとカトルはどんな関係なんですか?」
先ほどからズバズバとカトルの事を言うから、それなりの関係なのでは? と、気になって聞いてみた。
彼女は、眉尻を下げて少し悲しげに答えた。
「カトル様の婚約者ですわ。まだ――」
その言葉を聞いて、私は背筋が寒くなった。
婚約者って、どういうこと? カトルはこんなきれいな人がいるのに私に結婚しようと言ってきているの?
ううん、それよりもこの人は、婚約者を奪おうとしている人のところに来ているということ?
もしかして、この紅茶に…………。
私の指が震えているのを見て、彼女は小さく首を振った。
「カナ様の事を憎く思ってはいませんわ。だって、この国の予言のせいで呼ばれてしまったんですもの。ただ、ただしょうがなかったことですわ」
彼女は、長い睫毛をゆっくりとふせる。
「それに――」
何かを言おうとして、彼女は一度止まり、リードを呼んだ。
「少しだけ、二人の話をしてもいいですか? カナ様の秘密のことなので……」
「――わかりました」
そう言って、リードは扉の向こうに出た。
「リードもルードも私の部下だとわかってカトル様は――」
「あの、私の秘密って」
「あぁ、リサ様にうかがったのですが、カナ様にはもう愛を誓われた方が元の世界にいらっしゃると」
「あの、愛を誓ったというか、彼氏なんですが」
「恋仲なのでしょう?」
「――はい」
戻れない、けど会いたい。タツミに会いたい。
「ですから私は、リサ様から頼まれていますの。帰る方法を探してくるから全力で、カナ様を守ってあげてと。要はカトル様をおさえておけということですわね」
彼女は困ったように笑う。
「私に、カトル様に嫌われる役をしろと。出会ったばかりの私に言うのですよ。リサ様は、少し天然な方みたいですわねぇ」
ふふふと、困った顔のまま、彼女は笑っている。
リサさんは、彼女にそんなことをお願いしていたの。本当に、あの人は――。
「カナ様、――カトル様を恨まないであげてください。あの方は――」
急に、真剣な顔になったメリエルは私に告げた。
「大切なものを二回失って、迷い子のようになってしまったのです」
「大切なもの?」
「はい、あの方は幼い頃に婚約者を病気でなくしてしまいました。私の妹のマナエルですわ」
一度目を伏せてから、メリエルは続ける。
「そんな――」
「そして、その記憶を、聖女召喚の代償として失いました。あの方は、マナエを二回失ったのです……」
「召喚の代償?」
「えぇ、愛した者の記憶と引き替えにして召喚を行うことができるそうです。そう、聞きましたわ。もしかしたら、カトル様はカナ様に、失ったマナエを見ているのかもしれませんわ」
私は思い出す。カトルが、私じゃない誰かを見ていたことに。
そっか、あの瞳が探していたのはマナエルだったんだ。
「教えてあげたら、駄目なんですか?」
「えぇ、すでに試されているそうですが……。マナエだけがすっぽりと抜け落ちてしまうそうですわ。それが代償なのでしょうね」
「何故、そうまでして!」
「国の為ですわ」
ピシャリと、メリエルは言う。
「王とは、国なくしては王ではなくなる。国があるからこそ王なのです。国民すべてを守り支える。それこそが王の使命。カトル様は次期王ですから」
なんとなくわかる。カトルはずっと仕事をしていた。ずっとずっと。自ら、国を支えるために頑張ってること……。
けれど、その為に、愛した人の記憶をなくすなんて――。
「でも、なくしたのはマナエルさんの記憶なんですよね? なら、何故メリエルさんと婚約しているのに、私に?」
「似ているのです。カナ様がマナエルに…………」
似ている? 私が?
「話していて、わかりましたわ。瓜二つではありませんが雰囲気がよく似ています」
「そんな――」
知らない誰かを私に重ねられても困る。
「カトル様は、もう二度と失いたくないという思いがあるのかもしれません……」
「私は……」
「カナ様は、想い人がいらっしゃるのでしょう?」
「はい。彼に会いたいです。だから――」
カトルを支えることなんて私には出来ない。
コンコンとノックの音がする。
「大丈夫ですわ」
メリエルがそう言うと、リードが中に入ってきた。
「カナ様、お任せくださいな。私も、頑張りますわ」
「メリエルさん」
私はぺこりとお辞儀した。皆、何かを抱えてる。私だけじゃない。人はそれぞれ考えてるんだ。そして、その道を歩いてる。
「私も頑張ります」
にこりとメリエルが笑ったので、私も一緒に笑った。
あと、何日なのかわからない。だけど、絶対に負けない。元の世界に戻るのを手伝ってくれる人がいるんだから。
私はずきずきと痛む胸を押さえた。
(ねぇ、タツミも大人だったから、仕事に責任とか持ってたんだよね。私はまだ高校生だから、よくわかってなかったけど。きっと、すごく頑張って時間を作ってくれてたんだよね――。だったら、ありがとうも伝えなきゃ……)
コメント
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メリエルさんの優しくて達観した笑顔が、逆に切なく刺さりました。カトル様が愛した人を二度失った話は重くて、カナ様がマナエルと重ねられているのも辛いです。「皆、何かを抱えてる」というカナ様の気づきが静かに響いて、タツミさんへの「ありがとうを伝えなきゃ」という一文に胸がぎゅっとなりました。それぞれが頑張ってる、その健気さに泣けます。続きも楽しみにしています🌷