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エリアの言葉に一同は困惑の表情を浮かべた。
「天使と戦うのは望むところだけど、かけがえのない仲間を奪った竜王に代わってと言うところが引っかかるね」
ハスバールが不快感を露わにしながら言った。誰よりも仲間想いであった彼は、今も竜王に対する怒りと恨みが晴れていないようである。
「ドラゴン共が天使と戦う理由ってのは何なんだ。奴らが世界を守る為などという使命感を持っているとは到底思えん。そもそも天使ってのは何なんだ。何か分かったことはあるのか」
「天使については未だ何もわかっていません。何せ過去に現れた記録は皆無ですし、生きて捉えることも死体を解析することも出来ないのですから」
エリアは珍しく苛立たし気に言った。彼女にとって「無知の状態」こそが何よりも忌むべきことなのだろう。
「ただ彼の存在は全く別の次元からやって来ていること。ドラゴンを倒すことが第一の目的であること。極めて攻撃性が強く、対話は一切成り立たないこと。これだけは間違いないでしょう」
「魔術師ギルドでもそれぐらいのことしか分かってないのか。天使と戦うのは良いのして、まるで情報が無いのは厄介だな」
「天使のことを知るのはおそらくドラゴンのみ。それではドラゴンに直接問いただす他ないでしょう」
エリアの言葉に一同唖然となった。珍しく彼女が冗談を言っているのかと思ったが、無論そんなことはありえないことをよく分かっている。
「ドラゴンに問いただすだって?確かに彼らは高い知能を持つことは確かだが、人間と会話や交渉を行う意思は皆無だろう。そのことは誰よりも私たちが良く知っているじゃないか」
ヴァレリウスがその秀麗な顔を蒼白にしながら言った。竜王と対峙した時の恐怖を思い起こしたのだろう。
極めて高い知性を有しながら、いやそうであればこそ人類を塵芥《ちりあくた》同然しか思っていない圧倒的な尊大さ、倨傲。あまりにもかけ離れた価値観と精神構造を持つ強大無比な生物。
例え天使という共通の敵が現れたとしても、彼らと共闘できるなど不可能としか思えない。
「ですが、かつてドラゴンを崇め、彼らと意志疎通できる者達がかつてこの大陸にも存在したのです」
エリアの言葉に一同は不可解な表情を浮かべた。だがすぐにヴァレリウスが何かを思い起こしたようであった。
「ひょっとして、竜教徒のことか?」
エリアは頷いた。
「竜教徒?」
「ああ。歴史書で読んだことがある。数百年前、そのような邪教の集団がいたらしい。遥か東方より渡ってきた彼らはエトルリアの神々を否定し、ドラゴンを神と信仰してドラゴンの力の一部を借り受けて特殊な魔法を操り、下級のドラゴンを使役ことが出来たという」
「そのような連中が……」
「エトルリアが王政から共和制に移行しようとしていた時とのことだ。竜教の信仰、教えは一時隆盛の気配を見せたが、時の為政者により徹底的な弾圧を受けて完全に潰滅したはずだ」
「そう、もうこの国に竜教徒は存在していないようです」
エリアは言った。
「じゃあ、どうしようもないじゃないか」
「そうとも言えません。竜教の発祥地、ドラゴン信仰の総本山である国が未だ存在しているようなのです。遥か東方の大海の彼方に。その国は全てのドラゴンの頂点に立つ聖なるドラゴンの血を引く女王がドラゴンの魔力を用いて民を支配しているとのことです」
「そんな国が存在するなんて……」
ヴァレリウスが呆然として言った。騎士であると同時に歴史学者の顔を持つ博学なヴァレリウスも全くの初耳だったようである。
「貴方が知らないのも無理はありません。ドラゴン信仰を絶対の禁忌とした政府がその国に関する資料は徹底的に抹消したようですから。魔術師ギルドの書庫にほんのわずかに記載された本が残っていたのは僥倖ぎょうこうとしか言いようがありません」
「じゃあ、天使の正体と目的、対処法を聞き出す為にその国に渡ってドラゴンの力を操る女王に会おうと言うのだな」
静かに頷くエリアを見て一同は顔を見合わせた。
「でもさ、竜殺しである僕らがその国に渡るのは物凄く危険じゃないか?彼らにとって僕らは信仰の対象を殺した罪人なんだから……」
「その通りですね」
クォーツの言葉をエリアは否定しなかった。
「もしかしたら、その国の女王と国民、彼の国に生息するドラゴンからも命を狙われる可能性があるかも知れません。はっきり言って、竜王討伐をも上回る危険な任務となるでしょう。ですから私は貴方達に強制することもお願いすることもしません。自分の意志で決めて下さい」