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ケリーの笑みがとても不愉快だ。 リオは|露骨《ろこつ》に嫌な顔になり、ケリーを睨む。
「なに?言いたいことがあるなら言えよ」
「君こそ俺に文句があるんだろ?」
「ある。アンを使って卑怯なことしやがって!絶対に許さねぇ」
「だってあの犬、俺を見るたび|唸《うな》りやがってさぁ。かわいくないよな」
「あんたが悪いやつだからだよ」
「リオは俺のこと、そう思ってるのか?」
「だってそうじゃん」
「落ち込むなぁ」と言いながら、ケリーは全くそんな素振りを見せない。
この人の言うことは本当に信用できないとリオは確信する。
「それに残念なことに、リオが崖から落ちた直後にゲイルに取り押さえられてしまってさ。だからリオがどうやって落ちて、なぜそれくらいの傷で済んだのかがわからない」
「別に運がよかっただけだ。崖の下にたくさんの木があった。枝が落下の衝撃を減らしてくれた上に、落ちた地面が柔らかかったんだよ」
「ふーん」
ケリーが頬杖をつく。もう笑ってはいない。今はつまらなさそうな顔をしている。欲しい答えではなかったのだろう。
リオはケリーの目を見て話を続ける。
「なぁ、教えてくれよ。なんであんなことをした?俺が嫌いだからか?そうなら俺だけを狙えよ。アンを巻き込むなよ」
「嫌いではない」
ケリーも目を離さない。見つめられ続けてリオの方から目を逸らしそうになる。だけど|逸《そ》らしたら負けのような気がして、リオも目を離さない。
「じゃあなんで?」
「俺はアンと仲良くしたいのに、アンは俺に懐かない。しかも触れようと手を伸ばすと噛もうとする。俺の想いに応えないなんてと腹が立った。畜生の分際で俺を噛もうとしたことに罰を与えようと思った」
「はあ?」
「…というのが、ゲイルに話した理由だ」
「本当は違うのかよ」
リオがケリーの方へと、少しだけ身を乗り出す。
逆にケリーは、少しだけ身を引いた。そして椅子にもたれて腕を組み、眩しそうに窓の外を見る。
「あれは何年前だったかな。まだ騎士になる訓練中で、魔獣討伐に向かった時だった」
「なに?何の話?」
ケリーが唐突に昔話を始める。
リオが聞いても、こちらを見向きもしない。
「リオはどれくらい魔獣を見たことがある?この世界には、とんでもなく強い魔獣がいることを知ってるか?そいつは、本来なら人が暮らす場所には出てこないのだが、自分の領域を荒らされたら怒って出てくる。その時も、誰かが奴の領域を荒らしたらしい。暴れて手が付けられない。だから国中から腕の立つ騎士や見習い騎士が集められたんだよ」
「ふーん」
なんでそんな話をするんだよと思ったが、内容に興味を|惹《ひ》かれて、リオは真剣に耳を傾ける。
ケリーは相変わらず外を見たままだが、その目には当時の様子が映し出されているのか、遠くを見ている。
「そいつを見た時、俺は恐怖で震えたよ。多少は腕に自信があったから、どんなに強い魔獣でも退治できると思っていた。だが、あいつは強かった。とてつもなく強かった。集まった騎士達が次々と倒され、策がつき、このままでは俺も殺されると一旦その場を離れた。だがなぜか、そいつに目をつけられていたらしく、追いかけられた。立ち並ぶ木々の間を走る俺の後を、木々を倒しながら追いかけてくる。このまま逃げ切れる気がしない。でも立ち止まって対戦しても負ける。どうしたものかと悩みながら走り続け、そのうち疲れで足がもつれ倒れてしまった」