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「スサノオ様、ボクシングの”しきたり”は以上になります。宜しいでしょうか?」
「おう、義兄上(あにうえ)!
ひとつ、使っていいのは拳だけ。拳でも殴るのは良くても上から下への振り落しはだめ
ふたつ、殴っていいのは顔と胸・胴の前面と側面だけ。特に頭の後ろ側と背中は殴ってはいけない
みっつ、相手が倒れた後に殴ってはいけない
よっつ、これらを守れなかった場合は即座に負け
いつつ、三度倒れたら負け
むっつ、行司の仕切りは絶対である
ななつ、立ち合いには時間の区切りがあり、時間が来たら一旦休みを挟む
こんだけだろ?あと様付けは止めてくれ、義兄上(あにうえ)なんだからさ!」
「何故アニウエ呼ばわり」
「だって一番上の姉貴二人を娶るんだろ?なら義兄上(あにうえ)じゃないか!」
「年が推定数億年単位で上の義弟(おとうと)とか……」
「ん~、どうなんだろう。年とか数えた事ないしなー」
「お~い、準備は出来たのか!?」
痺れを切らしたのかリングの向かい側から十文字君が声を掛けてくる。
そう、プロレス興業が終わった後、遠くから見ていたらしき須佐之男命(スサノオ)様が、
「お~い、何か楽しそうな事やってるじゃないか!俺も混ぜてくれないか!!」
と仰せになられたので。
ポーションの一気飲みで疲労がポンと抜けてはいるのだが、より生きの良い十文字君(イケニエ)が居る事だし、
本職の~チョット良いとこ何とやら、とばかりに分かり易さ重点のボクシングの興業をぶち上げたのである。
相手が相手だけに十文字君も最初はイロイロ言っていたが、ファイトマネーの交渉(試合参加費用の支払い・勝利報酬の提示・怪我発生時の治療費負担を提案)により、
ここに快く無差別級ゴッドマッチが成立した。
「赤~、コ~ナ~!”クロス・ワード”!!!」
急遽レフェリー役に抜擢された俺氏の紹介に合わせて、両腕を挙げながら十文字君がリング中央に歩いてくる。
「青~、コ~ナ~!”タイラント・セカンド”!!!」
こちらも紹介に合わせて……
「ウオォォォォォォォ!!!!!」
咆哮を挙げながら十文字君と同じ様なポーズで須佐之男命(スサノオ)様が歩いてくる。
リング中央で相対した二人の内!”クロス・ワード”が”タイラント・セカンド”に向けて左腕を伸ばし、拳を突き付ける。
「義兄上(あにうえ)、これは……?」
「試合前の挨拶だね。同じ様に左拳を伸ばして相手のそれに合わせると試合開始のゴングを鳴らすよ」
「そっか。それじゃ早速」
言うが早いがが”タイラント・セカンド”が拳を当てると、
カーーーーン!!!!!
高らかにゴングの音が鳴り響く。
直後、”クロス・ワード”が”タイラント・セカンド”に向けて踏み込み、綺麗にワン・ツーを決める。
「ぬおっ!!」
いきなりの奇襲に対応出来なかったのか、左腕を伸ばした状態でほぼ棒立ちのまま、拳を叩き込まれる”タイラント・セカンド”
好機と見たのかさらに踏み込み、右肘を高く掲げて振り降ろし(チョッピング・ライト)で追撃する、”クロス・ワード”。
これが綺麗に決まり、ここで脳が揺れたか耐え切れなくなったのか”タイラント・セカンド”がスリップダウン。
「ワン! ツー!! スリー!!! フォ……」
「待て待て待て!今立ち上がる!!!」
そう言うとすぐさま立ち上がり、元気一杯だとアピールする”タイラント・セカンド”。
「くそっ!やってくれるじゃねーか!!!??」
そう言いながらファイティングポーズを取ったのを確認して、
「ファイ!!!!」
試合続行を告げる。
”クロス・ワード”は1ダウンを取った事で余裕が出来たのか、打って変わって今度はアウトボクシングに徹する。
「くそっ!チマチマチマと……!」
頭に血が上ったのか、”タイラント・セカンド”は右腕を大きく振りかぶると、
「ウオォォォォォォォォォォ!!!!!!!」
脇目も降らずに一直線に”クロス・ワード”に大振りの右を叩きつけようとする。
これに対して”クロス・ワード”は頭を低くして飛び込むと、左手で合わせる様に右手を弾き、”タイラント・セカンド”の突進の勢いに被せる様にそのまま左のストレートを叩き込む。
見事にクロスカウンターが決まり、引っ繰り返る様にダウンする、”タイラント・セカンド”。
「ノック・アウト!!!!!!!!!!!!」
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカーーーーーン!!!!!!」
「決まったあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!
”クロス・ワード”!見事に試合をコントロールして、鮮やかな勝利イイイイイイイィィィィィ!!???」
「おや?レフェリーが”クロス・ワード”の左腕を持って救護要員を呼んでいます。何があったのでしょうか!!??」
「駆け寄った神橋君に大量の魔石を渡して……うわ、グロ!!!!」
「解説の露理葉さん。一体何が……ウプッ」
二人が見た物は右腕を弾いて逸らした左腕の惨状である。
何と言えばいいか……ソーセージとかの詰め物に横長の裂け目が出来て、そこから内容物が爆発しているという今日日スプラッタ物でも中々お目にしない光景である
取り敢えずタオルをかませて。ポーションを絶え間なく掛け、飲ませながら神橋君のヒールに魔石を提供し続けるという荒業で応急処置を施しながらシャクヤちゃんを呼んで野戦病院の緊急手術めいたサムシングを続けているのだが……
「救急車は!?」
「今此方に向かっています!!??」
「淡姫ちゃん、小野麗尾興業の名義で発令した緊急クエストの受注状況は!?」
「A~Cランクの回復スキル持ちが30人受注しました!!!」
「シャクヤちゃん、容体は?」
「出血は止まりました!凄いですね、このポーションと言う薬は!!」
「お……おおお……」
「十文字君!?」
「俺は……俺は勝ったのか……?」
「ええ!見事なクロスカウンターでした!!!!!」
「そうか……ヘヘッ!まさか神様に勝っちまえるとはな……」
「おう、大したもんだ!撲神倶(ボクシング)っつったか。楽しかったぜ!!!!!怪我が治ったらまたやろうぜ!!??」
「いやぁ、今度やったら流石に上体が爆発四散しますよ。最後のアレ、対応できなければ首から上が吹っ飛んでいたじゃないですか!!!!!」
「そうしたらヨモツイクサになってもっと楽しめるじゃねーか!!!」
「須佐之男命(スサノオ)。気軽に人の知り合いを殺さないでくれないか?」
「そっかー…義兄上(あにうえ)にそう言われたんじゃ仕方ねーか……」
「まぁ、そう遠くない内に人神問わず参加できるイベント企画・開催する予定だし、その時にでも……」
そこまで言うと、
「義兄上(あにうえ)、本当か!?」
喰い気味に叫ぶ。
「え~と。小野麗尾さん。それは……?」
「ええ、企画段階ですのでまだ大々的に公表はしていませんが。あ。こっちの方はもう発表した方が良いか。」
「ええと、何を……?」
「今年の夏のお盆には黄泉の国のほぼ全ての死者に黄泉返りが認められまぁす!!!!!」
そう、賢明なる読者諸氏の皆様にはご記憶の事であろうが、
かつて俺は”一日現世蘇り券”を餌に黄泉戦人を働かせた事がある。
あれからも”一日現世蘇り券”は商品としていたのだが。
ブッチャケ、売れ行きが悪い、と言うか。
『売れない』
不審に思って調査依頼を出した所、
「最初は娑婆で羽を伸ばせるかとか思っていたけど最近ここらの住み心地も悪くないし、別に無理に上に行かなくてもなぁ?」
「そうだよな。その分のペリカがありゃあネオヨシワラで一日遊べるしな!!」
と、こんな感じの遣り取りがあったとかどうとか。
結局の所、黄泉の国の衣食住のクオリティアップに励んだ結果、相対的に現世への魅力とか未練が減っていったのだろう。
魚屋(ととや)の片隅と帳簿の在庫欄に長々と残り続ける不良債権と化したそれをどうにか処分すべく、
試食品よろしく、無料お試しキャンペーン的なアレでバラマキなのである。
一度体験したらきっと……多分……おそらく……現世へのアコガレとか生じるんじゃないかな。……ないかな……
「……”ネオヨシワラ”とは一体……?」
心なしか半目になった中継さんが聞いてくる。
「ん。んんんんん。いやぁ、僕もよく知らないし、勿論指示なんて出した憶えは無いんだけどねぇ?
黄泉の国に通貨制度導入してから暫くして開発区の外れの一角に非公認の風俗街が出来ちゃってねぇ。
困っているんだよ、コレでも。手に職の無い人達や生前から風俗業で生きていた人達に稼ぐなとも言えないし」
何より何をトチ狂ったのか、一部の黄泉戦人が独自に用心棒の武装勢力を築いているのである。
纏め役に昔気質の893の大親分まで持ち出して、ある日突然仁義を切って来た日にはどうしろと。
まぁ、別に直接的に迷惑を掛けられた訳でも無し。
何なら非モテの最後の砦としてお世話になる事も覚悟していた事もある身としては
無下に扱うのも躊躇われるしなぁ……
そんなこんなで彼らなりの自制努力の結果、
ネオヨシワラは今日も地の底あの世の果てで男達の最後の憩いの地として絶賛営業中である。
近年では対抗してか”カブキチョウ・リバース”なるホスト都市建設の動きもあるが、こちらは総力を挙げて潰す所存。
よみのくににいいいいいいいいいいいいい、
おきゃくさまこじんにたいするうりかけはあああああああああああ
ありませええええええええええええええええええええええええええんんんんんん!!!!!
「横暴すぎやしませんか?」
「今あの国は俺が法で法が俺ですが何か?」
「一寸暴君過ぎやしませんかねぇ……」
失礼な。目安箱の中身は毎週改めていると言うのに。