テラーノベル
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――神殿、午睡の時刻。
陽射しの差し込む中庭で、夜白 酹は静かに花の手入れをしていた。
草木に祈りは込めない。ただ、そっと触れ、整えるだけ。
けれど最近、その指先にはほんのわずかな“迷い”が宿っていた。
(……もし、祈ってもいい日が来たら。その時は――)
その時、神域の空を突き破るようにして、騒がしい音が響いた。
「うおぉぉぉ!ちょ、誰か神域の地図どこやったー!?道に迷ったー!!」
「ぺいんと、それ今度で三回目だよ……」
「うわ!しにがみ、また勝手にワープした!?え、どこ!?え!?」
空から転がるように落ちてきたのは、
見たこともない色とりどりの神性の光。
「……は?」
酹は手を止めて、空を見上げた。
神の訪れ――それは本来、厳かで静謐であるべきもの。
けれど、今日現れた神々はあまりにも賑やかで、無秩序で、自由だった。
「やっと着いたー!!ねぇここって“祈られない巫女”がいるとこだよね?」
「そうそう、見てみたくて来たんだよ〜〜観光観光〜〜」
「お、お前ら、ちょっとは敬意払おうよ……!」
酹はぽかんと見つめた。
全員、神格を持つ“神”であるはずなのに――
彼らからは、威厳や力よりも“楽しさ”や“あたたかさ”の気配が満ちていた。
「君が、酹さん? あ、はじめまして〜!俺、クロノア。風の神!」
「ぺいんと!陽の神!!よろしくー!!」
「笑いの神・トラゾーです!てやっ!!(足を滑らせて転倒)」
「……しにがみ、夢と死の神」
(※酹の前で無言で挨拶するが、なぜか通じている)
「…………はい」
「えっと……その、皆さん……なぜこちらに……?」
ぺいんとはにかんで笑いながら答えた。
「いやぁ〜、君に会ってみたかったんだ!“祈られない”って、ちょっと面白そうじゃん?」
「面白い……ですか?」
「うん!なんかこう、“変わってる”って感じが俺は好きでさ!」
その軽い言葉に酹は少し戸惑うが、
どこか“拒絶”ではなく“受け入れ”の温度を感じた。
しにがみは、花に手を伸ばして言った。
「……祈られなくても、存在できる。それって、強いよ」
酹の胸が、ふ、と揺れる。
ショッピの時と同じく――この人たちも、“祈らせようとはしてこない”。
〜夜中〜
酹は一人、空を見上げていた。
今日、たくさん笑った気がする。
祈りではない。けれど、心が少しだけ、軽くなった。
「……もしかしたら。祈らなくても、生きていけるのかもしれない」
その瞬間、風が酹の頬を撫でた。
まるで、誰かが優しく笑ってくれたような――
次回予告
第4章『理を正すものたち』
投稿不定期でしたすみません。
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