振り向けば… (学パロ)
私は校庭にある、大きな桜の木の前に立っていた。
今日は高校の卒業式。私たちも今日でここを卒業。
「この木ってこんなにおっきかったんだなぁ」
毎日当たり前にあるものだったから、大きさなんて気にしたこと無かった。風に舞う桜の花びらを見つめていると、後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。
「あーまちこさんこんなとこいたー」
小走りでやって来る白髪の彼は、学年が2つ下の後輩だった。部活で同じになって、いつの間にか懐かれていた。彼は、私の横まで来るとキョロキョロと渡りを見回し、コテンと首を傾げた。一見あざとい行動だが、彼はこれを素でやってるからファンが絶えない。
「ニキニキたちは?一緒にいると思ってたのに」
「あーアイツらなら…」
私が説明しようと口を開いた時、校舎の方から学ランのボタンを全て奪われ、疲労困憊といった様子の長身の彼らが髪をかきあげながら近づいてきた。
「はぁ…まいったわ…」
「女子…こえーわ…」
「お疲れ様ふたりともww」
「あーwwニキニキたち囲まれたんだww」
タイプは違うがイケメンの部類に入る2人は、学年の中でもかなりの人気を誇り、いつも女子に囲まれていた。今日も卒業式が終わった途端、学年問わず女子に囲まれ、写真を撮らされるやらプレゼントを渡されるやら、大変そうな様子だった。
「まちこもひどくない?」
「お前、助けず見て見ぬふりしたやろw」
「恨みは買いたくありませぇんww」
この2人も部活が同じで、いつの間にか一緒にいるのが当たり前になっていた。人気者の2人に気安く話しかけられる私は、なかなかな人数の女子から恨みを買っていたけれど、2人がさりげなく守ってくれていたようで、なんの被害もなかった。
「あ、メロちゃんみんなこっちいたよー」
「ほんとだー。みんなー久しぶり」
校門の方から歩いてきた美男美女は、2年前に卒業していた部活の先輩だった。2人は同じ大学で、たまに部活にも顔を出してくれていたから、卒業後も仲良くしてもらっていた。
「キャメ、来てくれたんだ」
「ほら、祝いよこせw」
「先輩からお祝いをせしめようとするなんてww」
「はっちー久しぶり」
「まちこ~会いたかった!!」
私たち6人はいつも一緒だった。学年や性別が違っても、何をやるにもみんなで一緒に考えて楽しくわちゃわちゃしているのが好きだった。でも、それも今日が最後…。
「まちこは…遠くの学校行くんだよね…」
ふと、呟くように言う18号にみんなの視線が集まる。ニキニキもせんせーもキャメさんちと同じ大学へ進む予定で、私はどうしても叶えたい夢があって、県外へと出る事になっていた。
ワチャワチャしていた空気から、少し寂しげな雰囲気が流れ始めた。
「ま、会えなくなるわけじゃないから」
自分へ言い聞かせるように言う私に、それまで黙っていたりぃちょが話しかけてきた。
「でも…なかなか遊べなくなるよね…」
「そう…だね…」
泣くのを我慢しているかのような声につられ、私も鼻の奥がツンと痛くなる。その瞬間強い風が吹き、地面に散っていた花弁を全て巻いあげるかのように渦巻いて、私たちの横を通り過ぎていった。
私は、スカートと髪の毛を抑えながらそれを目で追うと、ゆっくりと口を開いた。
「みんな…ありがとね…」
1人離れる決断をした私を、誰も責めなかった。自分の気持ちを話している間、みんな黙って聞いてくれて、私の意思を尊重してくれた。何人かは…少し泣いていた。でも隠したかったみたいだから、見て見ぬふりをした。
私の決意を聞いた翌日からは、まるでなかったかのようにいつも通りの日々を過ごさせてくれた。皆が何を思っていたのかは分からない。でも、私を見る目は優しかった。
「んー?なんのこと?w」
「そうやんなぁw俺らは特別なことはしてないもんなw」
いつもの様にふざけた口調で話す2人の端正な顔は、言葉とは裏腹にクシャッと泣きそうな笑顔だった。そんな2人の傍に、キャメさんと18号は近づくと、まっすぐ私の方を見つめた。
「まちこはまちこの道をいっていいんだよ」
「俺たちはいつでも味方だからね」
「そうだよ!!俺はまだ2年はここ居るんだからね!いつでもあいにきて!」
いつの間にかキャメさんの横にいたりぃちょも、ニコニコといつもの笑顔を向けてくれていた。
私は本当に仲間に恵まれている…。自分勝手な私を、こうやって受け入れてくれて背中を押してくれる…。そう心の中で呟いていた時。
「いま、自分勝手やって思ってたやろ?」
「え?」
「あーまちこなら思ってそうだねww」
心の中を見透かされたような気持ちになって、2人の顔を見られずに俯いた。
「夢追うのは、自分勝手とちゃうで?」
「むしろ、我慢する方が良くない。絶対後悔する」
「まちこはまちこらしく…私たちは応援してるよ」
「まちこさん、俺らはまちこさんに後悔してほしくないないんだ」
「そんな顔しないでよ。笑って見送らせてよ」
「みんな…」
笑って別れようと思ってたのに…。優しいみんなの言葉で目の前が滲んでいく。それを堪えて笑おうとして失敗した。涙が溢れて止まらなくなってしまった。
「まちこ…泣かないで。寂しくなるけど、悲しくはないんだから…」
「はっちー…」
優しく抱きしめられ、背中をさすりながら優しい声で話す18号は、2つしか違わないのにすごくお姉さんみたいだった。
「そ!会おうと思えられ会えるし、連絡だってとれる!」
「ネットでゲームもできるしな!」
「エペやろうエペ!!」
「ニキくんはそればっかりだねww」
いつも通りのみんなに、少しほっとした。こんな仲間に出会えた自分を誇りたいと思った。ずっとこのままで居られたらいいのに…と思った矢先、スマホのアラームが鳴った。引越し業者がくる時間が迫っているという合図だった。
「時間…か…」
寂しげに呟くニキニキは、少し泣きそうな目で笑っていた。
「まちこ、行っておいで!」
「まちこさん、体には気をつけるんだよ!」
「なんかあったら、俺に連絡しろよ!話聞く」
18号、キャメロン、りぃちょが順に言葉を紡ぐ横で、ニキとしろせんせーは動かずにこちらを見ていた。この2人が一番濃い絡みをしていた。一緒にいるのが当たり前になっていた2人。もう隣にいないのかと思うと寂しい。
「まちこ、お前はすぐに我慢する癖があるから、何かあったら絶対に俺らに連絡してこい!何時間でも聞いてやる!」
ニキニキは優しい目で見つめてくれていた。いつもふざけている彼だけれど、誰よりも周りを見てくれている。そんな彼を頼りにしていた。
「…振り向くなよ。絶対に振り返るな!後悔するから。お前は前だけを向いて歩いていけ。お前に何かあったら、俺らが駆けつけたる。せやから…安心して進め」
時々言葉を詰まらせながらしろせんせーは、いつもと同じ表情で真剣にこちらを見つめていた。あまり感情が表情に出ない彼だけれど、誰よりも心配してくれていた。彼がいるから安心して突き進んでこれた。
「みんな、ありがと!いってくるね!」
これ以上彼らを見ていると、涙がこぼれてしまいそうだったので、クルッと踵を返して校門へむかった。
「いってらっしゃい!」
「いつでも連絡してこいよ!」
「また、遊ぼうね!!」
「俺らはいつでもここにいるからな!」
「いつか…いつか絶対でっかくなって会おうな!」
彼らの声に背中を押されて、桜舞う道を真っ直ぐに歩き出した。私の背中を支えてくれる人たちがいる。離れていても応援してくれる人たちがいる。それが私にとって何よりの力になる。
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また泣いちゃう(*꒦ິ³꒦ີ)