テラーノベル
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嫌な記憶。
失った人の顔。
叶わなかった約束。
―― そして、愛した人のことまで。
忘却は、贅沢品だった。
高価なものほど、誰かにとって大切だった証拠になる。
だから今日も、街の一番大きな通りには人が並んでいた。
店先に掲げられた看板には、簡潔にこう書かれている。
『あなたの記憶、お売りください』
「……いや、ほんとに売る人いるんだね」
店の前を通り過ぎながら、佐伯イッテツは呟いた。
「いるから商売になってるんじゃない?」
「それはそうなんだけどさぁ……」
「じゃあ、何が不思議なんですか?」
「いや、だって」
佐伯は看板を見上げる。
「思い出って、金に換えるもんじゃなくない?」
「へえ」
隣を歩いていた星導ショウが、少しだけ目を細めた。
「じゃあ君は、どんなにお金に困っても売らないんだね」
「当たり前でしょう。」
「…… そっか。」
「なんですか、急に」
君はそう笑って述べた。
「別に?」
いつもの、何を考えているのか分からない笑い方だった。
「ただ――君らしいなって」
「……?」
「なんでもないよ」
そう言って、佐伯は先に歩いていく。
星導は一瞬だけその背中を見つめて、それから慌てて追いかけた。
「もう、待ってくださいよ」
「るべん歩くの遅いよ」
「嫌々、イッテツ歩くの早いんですよ」
「じゃあ、手でも繋ぐ?」
「…………は?」
「迷子にならないように」
「子供扱いしないでください」
笑い声が二つ、夕暮れの通りに落ちた。
――このときはまだ。
この何気ない時間にさえ、値札が付く日が来るなんて。
二人とも、知らなかった。
⸻
数週間後。
「……これ、全部売っていいんですか?」
店員が尋ねた。
佐伯は黙って頷く。
「本当に?」
「……はい」
「一度売った記憶は、原則として本人の中から完全に消去されます。よろしいですね?」
「分かってます」
「思い出せなくなるだけではありません。関連する感情も徐々に薄れていきます」
「……分かってるって」
「では、こちらに」
佐伯は紙に名前を書いた。
震えていた。
けれど、やめなかった。
机の上に置かれた小さな透明容器の中で、淡い光が揺れている。
そこに入っているのは、佐伯の記憶だった。
初めて星導と会った日。
くだらないことで笑った日。
一緒に雨宿りした日。
夜道を歩きながら、星を探した日。
そして――。
「……これだけは」
佐伯が呟く。
「これだけは、売らないでください」
「もちろんです」
店員は微笑んだ。
「どの記憶を残すかは、お客様の自由ですから」
佐伯は安心したように息を吐いた。
――その日、彼はまだ知らなかった。
一番高く売れる記憶が、自分にとって一番大切な記憶だということを。
⸻
翌日。
「イッテツ?」
「ん?」
「昨日、一緒に行った店さ」
「あー……」
「覚えますか?」
「……店?」
星導が黙った。
佐伯は笑って誤魔化す。
「いや、なんか言ったことある気がする」
「……そうですか。」
「それがどうしたの?」
「ううん」
星導は笑った。
けれど、その笑顔は昨日までとは少し違った。
「なんでもないよ」
そう言って。
星導は、佐伯の知らない場所で一枚の紙を握りしめていた。
そこに書かれていたのは――
『記憶買取額:金貨三百枚』
そして、その下に。
佐伯の筆跡で、たった一言。
『星導ショウと恋をした日の記憶』
――と、書かれていた。
*
忘却に値札を
この国では、記憶を売ることができる。
楽しかった記憶も、悲しかった記憶も。
幼い頃の思い出も、大切な人との約束も。
――自分 が忘れてしまってもいいと思ったものなら、何だって。
記憶には、それぞれ値段がつく。
くだらない思い出なら安い。
人生に関わるほど大切な記憶なら、高い。
そして。
誰かを愛した記憶には、とても高い値段がついた。
*
「……また売ったんですか?」
「……うん」
「これで、何回目です?」
「数えてないね」
「俺は数えてますよ」
星導ショウは、机の上に置かれた小さな袋を見つめていた。
その中には、佐伯イッテツが売った記憶の対価が入っている。
「イッテツ」
「どうしたの。」
「もう、やめませんか」
「……無理だよ」
「どうしてです?」
「お金がいるんだよ」
「でも――」
「分かってるって!」
佐伯が声を荒らげる。
星導は何も言わなかった。
ただ、少しだけ寂しそうに目を伏せる。
「……ごめん」
「謝ってほしいわけじゃないんです」
「じゃあ、なんだよ」
「心配なんですよ」
「…………」
「最近のイッテツ、前に話したことまで忘れてるじゃないですか」
「……そうだっけ?」
「ほら」
星導が困ったように笑った。
「そういうところです」
「……悪い」
「だから謝らなくていいって」
「でも、俺……」
佐伯は拳を握った。
「俺が頑張れば、なんとかなるんだ」
「一人でですか?」
「……うん」
「俺もいますよ」
「ダメだ」
「どうして?」
「るべくんまで巻き込みたくない」
「恋人なのに?」
「だからだよ」
佐伯は俯いた。
「るべくんには、幸せでいてほしい」
「……俺は、イッテツといるだけで十分幸せですよ」
「……そういうこと言うなよ」
「本当のことです」
「……俺だって」
佐伯は唇を噛んだ。
「俺だって、お前とずっと一緒にいたいよ」
*
それからも、佐伯は記憶を売り続けた。
初めて二人で見た景色。
一緒に食べたもの。
くだらない喧嘩。
仲直りした日のこと。
星導が初めて佐伯の手を握った日のこと。
少しずつ。
少しずつ。
佐伯の中から、星導との思い出が消えていった。
*
「……なあ、るべくん」
「はい?」
「俺たちって、いつから付き合ってたっけ」
「……」
「いや、なんかさ」
佐伯は笑う。
「分かんなくなっちって」
「……半年前です」
「そっか」
「はい」
「……ごめんね」
「だから、謝らないでくださいって」
星導は笑った。
けれど、その声は震えていた。
「俺が覚えてますから」
「……そっか」
「全部」
「……うん」
「俺が、全部覚えてます」
*
それでも。
金は足りなかった。
どれだけ記憶を売っても。
どれだけ自分を削っても。
最後に残ったのは、一つだけだった。
星導ショウとの記憶。
それだけは売れなかった。
売ることが怖かった。
だって、それを失えば。
自分が星導を愛していた理由さえ、分からなくなる。
だが 佐伯は、ついにその記憶を売ることにした。
*
「……イッテツ?」
「るべくん」
「どうしたんですか、こんな時間に」
「話がある」
「……はい」
「俺さ」
佐伯は笑った。
いつものように。
けれど、星導には分かった。
その笑顔が、泣くのを堪えている笑顔だということくらい。
「俺、るべくんの事幸せにできない」
「……何を言ってるんですか」
「だから」
佐伯は一歩、離れた。
「俺じゃなくて、他の人と幸せになって欲しい」
「……嫌です」
「るべくん」
「嫌ですよ」
「……頼むから」
「嫌ですって」
星導の声が震えた。
「俺は、イッテツじゃなきゃ嫌なんですよ」
「……」
「他の人なんて、考えられない」
「……ごめん」
「謝らないでください」
「ごめんな」
「イッテツ」
「ごめん……」
「……どうして」
星導の目から、涙が落ちた。
「どうして、俺のことまで捨てるんですか」
「捨てないけど」
「じゃあ、なんで」
「……」
「なんで俺を置いていくんですか」
佐伯は何も答えられなかった。
もうすぐ。
もうすぐ、自分の中から消える。
目の前にいる、この人のことが。
自分が何より大切にしていた、この人のことが。
「……るべくん」
「はい……」
「幸せになってね」
「……嫌です」
「俺より、絶対いい人いるから」
「嫌です」
「俺なんかより――」
「嫌だって言ってるじゃないですか!」
「俺は……イッテツじゃなきゃダメなのに……」
「…………」
「ずっと、イッテツがよかったのに……」
佐伯は、その言葉を聞いて。
ほんの少しだけ笑った。
「……そっか」
「……イッテツ。」
「じゃあね。るべくん」
「待って……」
「元気でね」
「待ってください……!」
星導が手を伸ばす。
けれど。
佐伯は振り返らなかった。
*
数日後。
佐伯は目を覚ました。
「……ここ、どこだ?」
知らない部屋。
知らない天井。
そして、知らない男の写真。
「……誰だ、これ」
そこに写っていたのは、星導ショウだった。
けれど。
佐伯には分からなかった。
この人が誰なのか。
どうして写真を持っているのか。
どうして胸が、こんなにも苦しいのか。
「……変なの」
佐伯は写真を伏せた。
もう、何も残っていなかった。
星導と過ごした時間も。
恋をしたことも。
好きだったことも。
全部。
全部、売ってしまったから。
*
それから、何ヶ月。
何年。
どれだけ時間が過ぎたのか。
星導は一人だった。
恋人を作ることもなかった。
佐伯との記憶だけを抱えて生きていた。
――けれど、その記憶さえ。
いつかは薄れていく。
人は、忘れる生き物だから。
ある日のこと。
「……あれ?」
街角で、星導は足を止めた。
向こうから歩いてくる青年。
どこか見覚えがある。
でも、思い出せない。
青年も、こちらを見ていた。
「……あの」
「はい?」
「俺たち……会ったことある?」
星導は少し考えて。
「……どうでしょう」
「だよね」
佐伯は笑った。
「俺にも分かんないけど」
「……?」
「なんか」
佐伯は胸元に手を当てる。
「懐かしい感じがする」
星導が目を見開く。
「……懐かしい?」
「ああ」
「どうしてでしょうね」
「それがわかんないんだ」
佐伯は困ったように笑う。
「でもさ」
一歩。
星導の方へ近づいて。
「初めましてって感じが、しないんだよな」
星導は、なぜか泣きそうになった。
理由は分からない。
記憶にもない。
約束もない。
二人の間に残っているものなんて、何一つないはずなのに。
「……そうですね」
星導は小さく笑った。
「俺も、そんな気がします」
忘れたはずなのに。
失ったはずなのに。
名前すら知らなかった頃から。
なぜか、もう一度会いたかった。
――まるで。
記憶より先に、心だけが覚えていたみたいに。
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ここ まで 閲覧 して 頂き 有難う 御座います ♩
あくま でも この 物語 は 【 AI 】 と 一緒 に 考えた 作品 です 。
この 世界線 では
忘れた 記憶 に 値段 ( 価値 ) が 付く 。 大切 な 記憶 を 売れば 売るほど 値段 が 付きます 。
次回 の お話 も 楽しみに 待っていて 欲しいです 👋🏻
コメント
1件
うわぁ……めちゃくちゃ切ない話だった……🥀 「記憶に値段がつく」っていう設定がもう、それだけで心臓掴まれる感じがしたよ。佐伯が星導との記憶だけは最後まで売りたくなかったのに、結局売っちゃうところ、読んでて胸がぎゅーってなった……。 でも最後の再会シーンで「記憶より先に心だけが覚えてた」ってとこ、すごく好き。忘れても好きになる運命って、あるんだなって思った。 続き、すごく気になる……!