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「先輩、恋人ごっこしませんか?
Part1 初めまして
昼休み。
購買の前はいつもより騒がしかった。
「………あ、あった」
美人は棚の奥から、最後の1個を取る。
付き合ってる彼氏が好きな、甘いクリームパン。
(これ、好きって言ってたよね……)
袋を胸に抱えて、早足に歩く。
向かう先はいつもの空き教室。
誰も来ない。
静かで二人きりになれる場所。
ドアの前で、少しだけ深呼吸して。
そっと、開けた。
ーーその瞬間。
知らない女の人と、
彼氏が、キスしていた。
「……え」
時間が止まる。
落ちる音。
手から、パンが滑り落ちた。
「……っ」
彼氏ーー桃李がこちらを見る。
「は?」
空気が一気に冷める。
美人は何も言えず、ただ立ち尽くした。
「見世物じゃねぇんだけど」
女の人が気まずそうに目をそらす。
「てかさ」
桃李はため息混じりに言った。
「男が男を好きになるとかありえないし」
心臓が、ぎゅっと縮む。
「もう別れろよ、正直重いんだわ」
言葉が、刃のように刺さる。
「……っ、ごめ…」
謝るしか出来なかった。
桃李は興味無さそうに視線を外す。
「はいはい、もう来んなよ 」
美人はそのまま教室を飛び出した。
廊下を曲がって、さっきの空き教室とは別の
誰もいない教室に入る。
ドアを閉めた瞬間、足の力が抜けた。
「……っ」
床に座り込み、膝を抱える。
(なんで……)
(好きだっただけなのに……)
涙が止まらない。
声を殺しても、方が震える。
「……っ、う……」
その時。
ーガラッー
ドアが開く音。
「……あ」
美人は慌てて顔を伏せる。
「………っ」
「……」
気まずい空気が空き教室に
広がった。
ただ、近づいてくる気配はあった。
「……これ」
差し出されたのは白いハンカチ。
「……使ってください」
低くて、落ち着いた声。
美人は、少し躊躇ってから受け取った。
「…あ、ありがと……」
涙を拭くと
相手の顔が見えた。
制服の襟、名札には、学年と名前が
書いてあった。ひとつ下らしい。
「……初めまして、ですよね?」
「…うん」
短く答えて、後輩は少しだけ間を空ける。
「…さっきの、見てました」
美人の肩がビクッと揺れる。
「…そ、そっか…ごめんね、見苦しいとこ…見せちゃって…」
「謝らないでください」
キッパリとした声。
「悪いのはあの人です、先輩は悪くありません」
「……でも…… 」
「好きだったんですか?」
「……うん」
後輩は黙って隣に座った。
距離は、触れない程度。
「……酷いこと、言われましたね」
「……っ」
思い出してまた、涙が滲む。
後輩は少しだけ、視線を逸らして言った。
「…先輩は優しすぎです」
「……え?」
「……だから、ああいう人に利用される」
責める響はない。
ただ、事実を言う声。
「……俺、さっきから思ってました」
後輩が、こちらを向いて言った。
「……先輩が泣く理由、あの人じゃない方がいいです」
少しだけの間。
「先輩がやりたかったこと、俺とやりませんか?」
「……え」
「先輩が、あの人としたかったこと、俺も先輩と似たようなもので、対象が男なんです」
美人は目を丸くした。
「ほ、本気……?」
「本気です」
即答。
「先輩は今、すごく傷ついてます。それを俺が慰めたい。」
少し間を空けた。
「だめ…ですか?」
美人は、しばらく黙った。
ハンカチを握りしめて。
「でも俺…泣いてばっかだし… 」
「知ってます」
「……重いし」
「それでも」
「……、いいの?」
後輩は迷わず頷く。
「はい」
しばらくして美人は息を吐いて
顔を上げた。小さく笑った。
「………お願いします…」
後輩の目が僅かに揺れた。
「…はい」
昼休みの暖かい日差しが、2人の間をすり抜け、暖かな温もりを与えていた。
「そういえば、まだ自己紹介していませんでしたね」
「あ……ご、ごめん、忘れてた…」
後輩はふっと微笑んだ。
「大丈夫ですよ…、俺は1年の白石快人です」
美人が後輩ーー快人の名前を下で転がすように呟いた。
「……快人…」
「俺は橘美人…です…」
快人は、ホッとしたように微笑んだ。
「橘先輩、…いい名前ですね」
「改めて、これからよろしくお願いします」
「…うん!」
美人は嬉しそうに頷いた。
「それじゃぁ、早速やりませんか?」
「え、もう?」
快人は頷いた。
「はい、橘先輩がやりたかったこと、教えてください」
美人は考えるような仕草をした。
「ん〜……、あ、あれしてみたかったな、名前呼合うやつ…、凄く憧れてたんだぁ」
美人は羨ましがるような声で言った。
「なら、名前で呼び合いませんか?」
「え」
「先輩が嫌なこと、俺は絶対にしません、約束します」
「先輩がやりたいと言うのなら、やりませんか?」
美人は少し考えたあと、頷いた。
「……やる、やりたい!」
快人は優しく微笑んだ。
「分かりました、それじゃぁ…美人さん、でいいですか?」
「うん!」
美人は少しむず痒そうに、でも、嬉しそうに答えた。
「…なら、俺のことは快人って、呼んでください」
「…快人……、」
快人は嬉しそうなので顔で、微笑んだ。
「はい、快人です」
美人は快人の目を見て言った。
「ありがとね、快人……、これから、よろしくね」
快人は目を見開いた。すぐに優しく微笑んで答えた。
「こちらこそ、よろしくお願いします、美人さん」
この日から、美人と快人の
恋人ごっこが始まった。