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すぐに勝負に出てくるかと思われたアテナは、それから数日間、何もアクションを起こさないどころか目も合わせてくれなかった。
もしかしてあれで逆に心折れてしまったのだろうか。
それとも何か勘づいたヘラに釘を刺されたのだろうか。
焦りばかりが胸を襲う。
少女の言ったタイムリミットがあとどれくらいかはわからないが、このままじゃいけないことだけは確かだ。
しかしーーー
気ばかり焦っても、打つ手はなく、成せることに選択肢もない。
たまにやってくるヘラは相変わらず賢く狡猾で、付け入る隙がない。
俺は絶望に目を閉じた。
ギイ。
ドアが開いた。
食事の時間ではない。
俺は目を見開いて扉を見つめた。
ヘラか?それとも――――。
入ってきたのは、アテナだった。
「―――待ってたよ」
心から出た言葉に、
「………本当に?」
彼女が嬉しそうに微笑む。
そう。俺は待っていた。
演技ではなく本心から、頬をピンク色に染めた彼女が愛おしいと思った。
欲望に柔弱で、判断が安直で、愚鈍で浅ましいこの処女神が――――。
アテナはいつもの黒服にエプロン姿ではなく、ベージュのタートルネックのニットに、黒いズボンを履いていた。
こうしてタイトな服を着ていると、身体のラインがわかって、女性にしか見えないから不思議だ。
美しいか否かは別として―――。
彼女はベッド端に腰掛け、愛おしそうに俺の頬を撫でた。
「今日は奥様は夕方まで帰らないの」
今の時刻を考える。
先ほど食べたのが朝食だとすれば、今は昼前と言うところだろうか。
すっかり身体が二食に慣れているため空腹は感じないが、胃に何かが残っているような気もしない。
つまり少なくとも3、4時間は自由な時間があるということか。
だから私服。
だから―――。
アテナはいつも後ろに流している髪を今日は気だるげに頬に垂らしていた。
バレないように息を飲みこむ。
彼女は勝負を仕掛けてきている。
それなら俺も応えねばなるまい。
勝負だ―――。
女神、アテナ。
◇◇◇
「指、入れられる?この間みたいに」
言うと彼女は恥ずかしそうに眉を潜めた。
「き……緊張して……」
ズボンとパンツを脱ぎ捨てた彼女の秘部を見下ろす。
―――そうか。濡れてないのか。
俺は視線をあげた。
「ん」
「――――?」
彼女が戸惑ったように目を見開く。
「キスだよ。してくれないのか?」
言うと彼女は顔を真っ赤に染めた。
……あ。まだしてなかったのか―――。
そこで初めて気が付いた。
今まで自分のモノを扱かせたり咥えさせたりしていたのに、今日はこれからセックスまでしようとしてるのに、キスさえ彼女にしていなかった。
顎を軽く上げて見せる。
「俺は動けないから、あんたから来てくれ」
言うと彼女は悩むように視線を逸らし俯いた。
「ほら」
言いながらベッド端に座っている彼女の尻を脛で擦った。
「――――」
彼女は意を決したように俺の顔の脇に手をついた。
途端に女とは別の獣のような匂いが鼻をついた。
横目ですぐ横にある彼女の血管が浮き上がった逞しい腕を見る。
彼女の息が鼻の下にかかり、俺は視線を彼女に戻した。
俺よりも色素の濃い顔。
厚い唇。
彼女のそれが俺の唇に触れた。
柔らかい。
「………はあ……」
そのただの接触で感じたらしいアテナは今度は肘をついてより深く唇を合わせ、舌を挿入してきた。
まるで繋がれたまま大きな熊に口内から喰われるような感覚に、俺は思わず身を震わせた。
アテナが処女でよかった。
もしヘラのようにセックスの快感を知っている雌豚だったらーーー。
吸い取られ、貪られ、しゃぶりつくされ、抉られて、
きっと喰われるのは俺の方だった。
しかし彼女が処女だから、
こういう行為が初めてだから、
主導権はかろうじて俺にある。
俺にある以上、隙は生まれる。
彼女が望むままに舌と唾液と愛撫を与えながら、横目でドアを睨む。
俺は今日、
――この部屋を出る。