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お、読んだ読んだ!第4話ね。 いやー、今回も空気感がすごく良かったわ。特に屋上のゆらの心情描写と、ろちのさりげない優しさが沁みた…「肩貸してるだけ」ってのがもう、分かってるなって感じでさ。あと中也の反応もツボったわ。煙草しまって「気が引ける」とか言っちゃうとことか、キャラの距離感がいい塩梅で変化してるのが好き。 オッドアイの話とか過去の傷もちゃんと描写されてて、「不老不死の身体は泣き方を忘れたのか」って一文が特に刺さった。次も楽しみにしてるわ!🔥
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あの日のことを思い出したのか、ばつが悪そうに頭を掻いた。帽子を深く被り直して目元を隠す。
中也「……あー、まあ、昔の話だろ。いつまでも根に持つなよ。」
珍しく黙っていた。カップの縁を指でなぞりながら、何か考え込んでいるようだった。やがて小さく息を吐いた。
太宰「……僕も別に、今さら蒸し返すつもりはないよ。」
それだけ言って、太宰は口を閉じた。謝罪ではない。ただの事実確認のような、乾いた声だった。二人の間に流れる空気は、あの頃よりずっと薄い。修復ではなく、棚上げされた関係。
わさびは、二人の様子を見て、胸の前で手を握ったり開いたりしていた。何か言いたげだったが、結局言葉にはならなかった。
ろち「過去は過去でしょ。今同じことしたら私が殴るから、二人とも。」
中也「…しねぇよ!」
メル「でもさ〜、こうして同じ部屋でお仕事してるんだし、いつかまた普通に話せる日も来るよ、きっと。」
いつの間にか席が空になっていた。面も気配も残さず消えている。瞬間移動か、それとも普通に歩いて出たのか。誰も気づかなかった。
中也「……は?どこ行った。」
ろち「さあ。最初からいなかったんじゃないかってレベルの消え方だったね。」
わさび「え、さっきまでいましたよね……?お面だけ残ってるのかと思って一瞬焦りました。」
メル「猫みたいだよねえ、ふらっと現れてふらっと消えるの。」
太宰「……嫌な空気にさせちゃったかな。」
誰も返さなかった。その可能性に全員が思い至っていたからだ。ろちが立ち上がってカップを流しに持っていく。蛇口の水音がしばらく続いた後、わさびがぽつりと言った。
わさび「次会ったとき、ちゃんとお話したいな。……聞いてくれるかはわかんないけど。」
その頃、屋上。潮風が吹き抜ける無人の空間に、青い面がひとつ佇んでいた。フェンスに背を預けて座り込み、今度は遠慮なく煙草に火をつけている。紫煙が風に攫われて消えた。眼下には港町の灰色の景色が広がり、遠くで汽笛が鳴った。
静かだった。ここには誰も来ない。来たとしても、話しかけてくる物好きは限られている。
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風が銀色の前髪を攫った。面の裏に押し込められていた素顔が晒される。左の蒼い瞳と右の紅い虹彩。光の加減で色が変わるその目は、昔から人目を引いた――悪い意味で。
オッドアイ。それだけのことで中也に「気持ち悪ィ目してんな」と言われ、太宰に「まるで化け物じゃないか」と笑われた。声もそうだ。低すぎず高すぎない、どこか中性的な響き。男なのか女なのかわからない、と揶揄された。外見も能力も、すべてが標的にされた。幼かったからこその残酷さ。今はもう15だが、傷は癒えていない。
煙草を咥えたまま、膝を抱えた。涙は落ちない。不老不死の身体は泣き方を忘れたのか、それとも単に意地か。ただ目だけが濡れて光っていた。
狼乃ゆら
お面外す。目はうるうる目である。左目が青く、右目が赤い。昔中也と太宰にバカにされていた。声も外見も。全部。
自嘲の笑みが唇に乗った。声帯を震わせて出る音は確かに低い。女だと知った後も「声だけ聞いたら男だろ」と中也が笑い、太宰は「便利だねえ、どっちの役でもできて」と嘯いた。褒め言葉のふりをした刃だった。
風が強くなった。港の方から黒い雲が流れてきて、日差しが翳る。煙草が短くなっていく。携帯灰皿に押し付けて消すと、また新しい一本を探る手が止まった。吸いすぎても身体には影響がない。そういう体だ。
下の階から微かな声が聞こえる。壁越しの振動。何を話しているかまではわからない。わかる必要もなかった。
膝に顔を埋める。銀の髪がさらりと流れた。耳を塞ぐ代わりの仕草。世界を遮断するには、これが一番手っ取り早い。
ゆら「もーやだなぁ。昔のことだとしても。」
声に出したのは独り言だった。聞いてくれる者はいない。風だけが返事をするように吹いている。
昔のこと。そう、昔のことだ。中也も太宰も今は表立っては何も言わない。あの頃の無邪気な悪意は形を変えたのか消えたのか――ゆらには判別がつかない。確かめる気もなかった。確かめて、もしまだ残っていたら。そう考えると足が竦む。
屋上のドアが軋む音がした。
缶コーヒーを二本持って現れた。一本をゆらに向かって軽く放り投げた。少し手前で落ちる軌道。
ろち「やっぱここにいた。」
素顔を見られている。ろちは一瞬だけ目を見開いたが、それだけだった。何も聞かず、何も言わず、隣のフェンス際に腰を下ろして自分の缶を開けた。
ろち「煙草くさいから換気しようと思って来ただけ。……嘘だけど。」
ぷしゅ、とプルタブの小気味いい音。ろちは海の方を見たまま、横を向かなかった。
素早かった。缶を拾い上げるより先に面が顔に戻る。一瞬の早業。表情を読ませない鉄壁が再び完成した。
ろち「……早いね。忍者か何か?」
ゆら「ろちちゃん。寄りかかっていい?..」
ろち「…..いいよ。」
それだけ言って、少し身体をずらして場所を空けた。フェンスに肩が当たる位置。銀色の頭がろちの肩にことりと預けられた。軽い。見た目よりずっと。
缶を両手で持ったまま、正面の海を見続けた。何も聞かない。声のことも、泣いていたかもしれない目元のことも。ただ、ろちが少しだけ体重をゆら側に預けた。支えるように。意識してか無意識か、本人にもわからない程度の重み。
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中也「おい、ろち!どこ行っ――」
中也は口を開けたまま固まっていた。数秒。
ろち「しずかにして。寝てる。」
中也「……はァ?なんで俺が怒られてんだよ。つーか何してんだ手前ら。」
ろち「見ての通り。肩貸してるだけ。」
中也は頭の後ろをがしがし掻いて、所在なさげに突っ立っている。
中也は引き返すタイミングを完全に逃していた。かといって近づく度胸もない。面越しでも寝顔が見えるわけではないが、規則的な呼吸音が微かに聞こえた。本当に寝ている。こんな場所で。無防備に。
中也「……こいつ、こんなちっさかったか。」
ろち「起きてる時はでかく見えるけどね。」
狼乃ゆらは起きない。深い眠りだった。不老不死の身体に睡眠は本来不要だが、心はそうもいかない。張り詰めていた糸がふっと緩んだ瞬間、意識が落ちたのだろう。
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中也はしばらく突っ立った後、諦めたようにフェンスの反対側にどかっと座った。ポケットからくしゃくしゃの煙草を出しかけて、ちらっとゆらを見て、戻した。
ろち「吸えば。別に起きないでしょ。」
中也「うるせえ、なんか気が引けんだろ。」
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三十分ほど経った頃、面がかすかに動いた。
ろち「起きた?」
中也「お、おう。やっと起きやがったか。どんだけ寝てんだ。」
中也の声は普段の粗暴さに戻っていたが、耳の先がわずかに赤い。ばつの悪さが滲んでいた。