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放課後、キルロンド王国、王城には、レオ率いるパーティメンバー三人と、ヒノト率いる四人が集められた。
「なんだろう…………なんか、我が家なのに緊張する……」
リオンは、ただいつもの様に帰っただけだが、この報せを受けてから、気が気でなかった。
七人は、レオがいつも鍛錬に使用している、トレーニングルームへと向かった。
「改めて紹介しよう。我がパーティ “KINGS” のシールダー、シグマ・マスタングだ」
「学寮二年Aクラス、シグマだ。よろしく頼む」
シグマは、貴族院出身だが、ガタイのいい肉体と、全員にがっしり握手を交わす性格から、生真面目さが伺えた。
「次に、ヒーラーのファイ・ソルファだ」
「よ、よろしくお願いします…………」
ファイは、その場で小さくコクリと頷いた。
「んじゃあ俺ら “DIVERSITY” は…………」
「不要だ。熟知している」
そうして、ピリピリしたムードでヒノトはレオを睨み付けたが、リオンからどおどおと制された。
「今から、二人の岩魔法で私に防御壁を張る。貴様は、なんとかしてそれを破壊しろ。以上だ」
「はっ、ンなもん簡単にやってやる!」
しかし、それから何度斬り掛かっても、仁王立ちで構えるレオのシールドを破壊することは出来なかった。
「ハァハァ……俺にも魔法が使えたら…………」
「意気込んでいた割には全然ダメだな。リオン、私に向けて本気で水放銃魔法を放ってみろ」
「い、いいのか…………? 一応、レオには敵わないかも知れないが、俺も王族の魔力だぞ…………?」
「いいから、やれ」
“水放銃魔法・水針”
ビィン…………
変な音がしたが、やはりシールドの破壊までは出来なかった。
しかし、レオは少し意外そうな顔を浮かべた。
「やはり、愚兄ではあるがちゃんと王族の魔力だな。今、音が鳴ったのは、破壊直前まで到達した合図だ。逆に言えば、貴様はそこにすら到達できていないことになる」
「んじゃ、ブレイバーゲームはチーム対抗戦なんだし、防御壁はリオンとリリムで破壊できんじゃねぇか……?」
「その通りだ。チーム対抗戦である以上、現時点で貴様らにできる連携はそうなるだろうな」
「じゃあ…………」
今までの行動は何だったんだ、そう聞く前に、レオは言葉を続けた。
「だが、四人中の二人が防御壁の破壊に至ったとし、貴様は前衛として突撃する。しかし、相手は防御壁が突破されたに過ぎない。残りの貴様のパーティは、シールダーとソードマン。相手陣営に乗り込むなら、貴様対四人、と言うことになる」
その言葉に、レオとの思考の差に絶句する。
「つまり、確かに、圧倒的な防御壁の前では、遠距離支援は必須かも知れないが、ある程度の防御壁であれば、ソードマンである貴様一人で処理すべきと言う話だ。それが、前衛である、我々ソードマンの最初の役目だ」
「でも…………俺には魔法が…………」
しかし、ヒノトは言い切る前に歯を食いしばる。
レオは、項垂れるヒノトを黙って見下ろした。
「レオ…………もう一度、シールドを張ってくれ…………」
レオは何も答えず、合図を送った。
「シグマ、ファイ、頼む」
そして、再び二重のシールドがレオに張られる。
(防御壁は “前衛” がこじ開ける…………ね…………)
ヒノトは、ニシっと笑みを浮かべた。
その笑みに、自然とレオも笑みを浮かべる。
「アドバイス…………素直にありがとうっつっとくぜ、レオ…………! でも、これでもうお前のパーティにだって勝っちまうからな…………!!」
その言葉に、レオも今度は剣を構える。
ボン!!
「ハァ!!」
ヒノトは、レオの眼前で、剣を口に咥えた。
「ハァ!?」
見ている全員が口を揃えて声を荒げた。
ボン!!
右手をシールドに当てると、ヒノトは暴発させる。
しかし、破壊には至らないどころか、暴発の勢いでヒノトがその場から吹き飛ぶ。
ボン!!
吹き飛んだ態勢から右足で暴発し、
ボン!!
再び、左手から魔力を暴発させる。
ビィン…………
「鳴った…………!」
しかし、またしてもヒノトの身体は吹き飛び、今度は左足で魔力の暴発をさせた。
「喰らえ…………!」
最後、剣を手に持ち替え、剣に魔力を溜める。
レオも、ヒシヒシと割れそうなシールドを前に、剣を構えてニタリと笑みを浮かべる。
ボン!! …………ガシャン!!
砂煙漂う中、二人が立っている姿が見える。
「シールドは…………?」
「あ…………えっと…………」
シールドは、破壊されておらず、そこには、ヒノトの剣が砕け落ちていた。
「魔力の暴発に耐えられなかったっぽいです…………」
全員、ポカンと呆然とした顔を浮かべる。
「解散だ」
ただ一人、レオは早々に剣を鞘に納めた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、レオ!! 剣! 剣貸してくれ! 古い剣だったんだよ〜!!」
ヒノトは必死に懇願するが、レオは全スルーをし、他の面々を帰宅させ、ヒノトも渋々帰路へ着かせた。
「な、なあ、レオ……。最後の……ヒノトくん……」
恐る恐る、リオンはレオに話し掛ける。
普段であれば、無視されるはずだった。
「ああ、合計二発の魔力暴発。そこには、自身への相当の負荷が掛かっているだろうが、それでも、事実として王族の魔力と同じ威力を発揮した。もし、奴が魔力の暴発をさせても壊れない剣と出会ったら…………」
そう言うと、またもニタリと笑った。
「ふっ、まああんな魔力の暴発なんかに耐えられる剣、存在するはずがないがな」
そして、レオは自室へと戻って行った。
(戦闘であんなに楽しそうなレオは久々に見た……。ヒノトくんの戦い方が特殊なのもあるけど、やはり、先日の “ライバル” という発言や、常に対等として足掻き続ける姿に、レオも認めざるを得ないのかも知れない…………)
そうして、一人でニコッと笑うと、リオンも自室へと戻って行った。
帰り道の寮の前で、不貞腐れるヒノトを、リリムとグラムの二人で慰めていた。
「はぁー、もう少しで破壊できたのになぁ……。アイツに勝てたのになぁー!!」
「確かに……。教えると言った割には、破壊させる前に帰すなんて……何考えてるのかしら……」
リリムが考え込む中、グラムが言葉を加えた。
「レオの期待値を越えたんじゃないのか?」
「レオの期待値?」
「レオのシールドは、貴族院のシグマと、ファイの岩防御二重になっていて、王族の魔力を持つリオンでさえ、破壊することは出来なかった」
「つまり…………鼻から破壊を目的とはせず、『リオンのレベルを目指せ』ってこと…………?」
「そうだ。本来、あそこまで強固な “岩共鳴” まで発動させるパーティはそう居ない。一人で破壊できなくて当然なんだ。それを、『破壊してみせろ』と煽り、王族の魔力であるリオンのレベルまで引き上げた」
「確かに、それなら納得が行く…………と言うか、私たち以上にヒノトの性格を熟知した計算で、むしろ腹立ってきたんだけど…………!」
「レオはやはり、小手先だけで神童と呼ばれているわけではない。武術、魔力、そして知力までもを駆使して、その名を背負っているのだろう」
いつまでも「もう少しで…………」と言っているヒノトの頭を叩き、リリムはシャンと立たせた。
「ヒノト、よく聞いて。私、この学寮に入学する前、街外れの魔法学校に通ってたの。そこでは、自分でも言いたくないけど、一応魔王の娘だし、他は平民の子しか居なかったから、群を抜いて魔力量は常に一位だった…………」
ヒノトの肩を掴みながら、リリムは俯く。
「でも、ここに来て初めて…………レオに負けたの……。王族の魔力量は凄いって知ってたけど、私の魔力量はやっぱり貴族院の人たちよりも群を抜いて優ってた。それでも、レオには及ばなかった」
「リ、リリムが魔力量で劣ってんのか…………?」
「そうよ。学年二位。学寮全体で…………四位よ……」
「リリムが…………四位…………!?」
「上には上がいるんだって思った…………。だから、ヒノトはいつも何言ってんだろうって思ってた。でも……」
いつになく、リリムは真剣な顔でヒノトに向き合う。
「でも、仲間がいればそんなの関係ない…………!」
ゴクリとヒノトは息を呑む。
「そう教えてくれたのは、アンタだから…………」
「そうだな…………。へっへっへ、負ける気がしねぇ。レオのパーティも風紀委員も、まとめてぶっ倒す!」
そうして、三人は拳を合わせた。