翌日、レオが急を要してヒノトに防御壁破壊の術を教えたかった理由が、全員理解することになった。
『 KINGS VS 風紀委員 』
その見出しは、広告掲示板に大きく掲げられていた。
「アイツ…………今日が戦う日だったのか…………! でも、もしアイツが風紀委員負かしたら、俺の出番ってないんじゃねぇか…………?」
「いや…………。あの王子のプライドからして、あまり考えられないけど…………。今日の試合、もしかしたら負けることも込みで考えていたのかも…………」
「ハァ!? あの横暴なレオだぞ!? 負け戦なんかするわけねぇだろ!!」
「だとしてもよ! 考えてみなさい! 確かにレオは、王族だし、事実として強者…………。でも、相手は “元王族” と…… “大罪人スコーンの息子” なのよ…………」
ヒノトは、改めて風紀委員メンバーの面々の凶暴さを噛み締め、汗を滴らせた。
元王族であり、風紀委員長 カナリア・アストレアは、強力な “洗脳” を使うことが出来る。
魔族と契約した大罪人、スコーンの実の息子だった、リゲル・スコーン。
そして、他全員が貴族院のエリート…………。
「やべぇな…………」
「ふふっ、流石のヒノトもビビっ……」
ゾク…………
「早く戦いてぇな…………!」
ヒノトは、獲物を見るような目で笑っていた。
魔王の娘であるリリムですら、その威圧感に背筋を凍らせた。
――
グラムとリオンを連れ、四人で闘技場へと向かう。
「リオンさぁ、そう言えば、レオのパーティの最後の一人って、誰だか知らないのか?」
「いや…………それが全然分からない…………」
「ま、今回見れるからいいか」
しかし、闘技場に出て来た、レオのパーティ “KINGS” の最後尾から着いてくる男は、全く見たことも聞いたこともない、青緑色の細身の男だった。
「あ、あの髪色! 風属性だろ!」
「風属性の役目は、基本的にはバッファーが多い。実際、彼の持っている武器は杖だ。恐らく、中衛のメイジで、レオの攻撃力を上げる役割かな…………」
見た通りを解説するが、どうにもリオンには、腑に落ちずにいた。
「バッファーかぁ、考えてもなかったな! 流石レオ! 天才だなぁ〜!」
(いや……ヒノトくん……。編成にバッファーを採用することは大して珍しくない……。むしろ……あの思慮深いレオがそんな単純なことをするのか…………? それ程、あの男のバフは強力なのか…………)
暫くして、風紀委員も出場する。
黒髪が更に侵食しているリゲルを始め、風紀委員長 カナリア・アストレア。
そして、メガネをした金髪の男に、細身の赤髪の女が続いて出場した。
「炎二人に雷二人………… “過負荷” 編成だ…………!」
「あ…………? 過負荷…………?」
「雷と炎が合わさった時に起こる属性反応だよ! 過負荷が起こされた時、無条件に相手は吹き飛ぶんだ……!」
驚くリオンに、更にリリムは言葉を足す。
「それに、“二人ずつ居る” ってことは、レオのパーティと同じ、“炎共鳴” と “雷共鳴” の二つを発動できる……。炎共鳴はシンプルな強化だけど…………雷共鳴は、共鳴が起きてる味方の魔力を回復させる効果があるの…………」
「王族の魔力ってだけで厄介なのに、魔力の回復まで有効にできるってことは…………めちゃくちゃ強ぇパーティじゃねぇか…………!」
「これは…………流石のレオも『負ける可能性がある』と見込むだけのことはあるのかもね…………」
そして、試合のゴングは鳴らされた。
“岩防御魔法・ブロックゲート”
“岩魔法・ロックメンド”
シグマ、ファイの二人は、いつもの様に、レオに向けて二重の岩シールドを展開させる。
もう一人の男は、杖を構え、そのままレオは、思い切り突撃した。
そこに、相対するのはリゲル ――――――
“雷防御魔法・雷衝陣”
風紀委員の金髪の男はリゲルにシールドを張った。
(あの金髪は “雷防御魔法” を使った。と言うことは防御に特化した魔法で、他に効果はない。だが、過負荷による自分への衝撃を防ぐ為、同時に衝撃波も防ぐ為のシールドになっている。流石は貴族院の出だ。だが…………)
“雷鳴剣・雷柱”
ドンドンドン!! と、会場内には無数の柱が創造されると、バチバチと蓄電するように光った。
「いつ降り落ちるか分からない、高火力の雷撃だ。その薄いシールドでどこまで保つか試してやろう……!」
そのまま、レオはリゲルに剣を振るい上げる。
レオには二重シールドがあり、自傷ダメージを防げる。
緻密な計算で守備を固めており、且つ膨大な魔力を用するレオにしか出来ない芸当だった。
しかし、リゲルは表情を変えず、簡単に退避する。
(剣を交わさないのか…………? 自信がない…………と言うような顔には見えないが…………)
レオも、途端に前進を止める。
「ハハ、流石はレオ様だ。普通、リゲルが退避したら大体の戦士はそのまま『優位だと勘違いして』突っ込んでくるところを…………やはり侮れないね」
すると、妙に大人しかった風紀委員長 カナリアは口を開いた。
“炎魔法・ヒートグラウンド”
赤髪の女の魔法により、ボウッ、ボウッ、ボウッ、と、レオの足下は炎が出現する。
「小賢しい…………!」
自前の反射神経でレオは全て避けるが、
“雷洗脳魔法・ブラインド”
噂の洗脳魔法使いのカナリアが魔法を発動した瞬間、全員がレオを見遣るが、レオに異変は起こらない。
シュンッ!!
異変が起きたのは…………リゲルだった。
“炎魔剣・劫火”
「コイツ…………!!」
一気に距離を詰め寄り、二重シールドを “破壊” ではなく、すり抜けてレオに剣を振り翳した。
キィン!!
レオは咄嗟にリゲルの剣をギチギチと防ぐ。
「貴様…………理性が飛んでるな…………。カナリアの “洗脳” の対象は…………やはりお前だったか…………!」
“炎魔剣・烈焼”
魔法が切り替わり、レオは異変を感じ、直様後退し、青緑髪の男を見遣る。
男はコクリと頷くと、杖を構えた。
「貴様たちの “炎” …………利用させてもらうぞ」
退避後、動かなくなったリゲルの元に直様突撃。
“雷鳴剣・迅雷”
“風魔法・ミキサード”
レオの剣撃に合わせ、青緑髪の男も魔法を発動。
ゴオッ!!
その瞬間、二人を纏っていた “炎・雷” の全てが、同時に暴発し、会場内に轟音を響かせた。
二人の姿は、砂煙の中で見えなくなった。
「これ…………何が起きてるんだ…………?」
魔法に疎いヒノトは、ただ呆然と戦いを見つめる。
リオンは冷静に、目を細めながら解説する。
「今のは、風魔法特有の “拡散反応” だ。炎や雷の自然系の魔法に対し、ヒノトくんのような魔力暴発のような作用を起こす……。バッファーかと思っていたが、相手のシールドは雷の一枚に対し、レオのシールドは堅い岩の二枚。本来であれば、自滅になり兼ねない攻撃も、二重シールドの前では出来ると言うわけか…………」
しかし、妙に腑に落ちないリオン。
「す、すげぇな…………! レオ!! 流石に、これは勝ったんじゃねぇのか…………!?」
そんな中、一人の男が四人の横にフラッと立つ。
「いや、たぶん…………うん。負けるよ」
そこには、エルフ族に似た緑色の綺麗な髪を宿す、幼い少年のような細身の男が立っていた。
「ルーク…………!?」
その姿を見た瞬間、リオンは声を荒げる。
「えっと…………リオンの知り合いか…………?」
リオンは顔を苦くして歯を食いしばる。
「紹介し辛いよね。だって、レオだけじゃなく、俺からも逃げてたんだもんね…………。“兄さん” 」
そう言うと、みんなにニコッと微笑む。
「リオンの弟!? レオだけじゃなかったのか!?」
「詳細には、父様とエルフの方とのハーフ…………。僕たちとは片親違いの弟、レオの兄に当たる、二年生、ルーク・キルロンドだ…………」
ルークは、また無表情に戻り、試合を眺めた。
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