そして、私達は中に通された。
広い広い客間のソファ席で、お手伝いさんらしき人から紅茶を出される。
「こんにちは。
僕は斉藤五郎と洋子の息子の|和臣《かずおみ》です。
この度は母がお世話になっております。」
30代前半くらいの感じの良い人だった。
彼はそう言うと、軽く会釈した。
「いえ、こちらも仕事ですから、お気遣いは無用です。
早速ですが、事件現場を拝見したいのですが…」
「えぇ、どうぞ、2階の書斎です。」
和臣さんはそう言って2階の階段を上がって行った。
そして、ちょうど廊下の中央に、書斎の扉はあった。
「どうぞ。」
中へ入ると、床に僅かな血痕があった。
「父は、背中をアイスピックで刺され、床に倒れていました。」
「《《アイスピック》》で、ですか?」
「どうかしたんですか、先生?」
「あのね、今から人を殺そうか、とする人がアイスピックを何故選ぶんです?
キッチンに行けば、包丁がまず目に入るでしょう?
アイスピックで致命症を負わせるのは結構難しいと思いますね…」
「いえ、それが…
父は背中からアイスピックで正確に心臓の位置を貫かれていました。
即死に近かったらしいです…」
和臣さんは言った。
「なるほど…」
先生はそれだけ言うと、屈んで床を凝視した。
「和臣さん。
亡くなった五郎さんと、洋子さんの最近のご様子はいかがでしたか?」
私は先生に代わって尋ねた。
「え、えぇ…
普段通りな…気が…
そりゃ離婚問題で揉めたことはありましたが、父も最後は受け入れているようでしたし…
僕は斉藤の姓を名乗る事になっていましたけど…
母を憎んだりは…」
「無かった、と?」
先生が立ち上がり尋ねる。
「少なくとも、僕は。」
先生は手袋をして、書斎の机を漁り出した。
「机の中身なら、刑事さん達も漁っていましたが、不審な物は見つからなかったみたいですよ?」
和臣さんが言う。
「んー…?
このノート…
電話番号の跡がありますね…
綾乃ちゃん、鉛筆貸して。」
先生は言った。
そして、その番号をメモすると、その日は斉藤邸を後にした。
♦︎♦︎♦︎
車の中で。
「さぁて、この電話番号、どこに繋がると思いますか?」
「さぁ…?
友達の携帯とかじゃ無いですか…?」
「ちょっと、シー…!」
先生は私の唇に人差し指を当てた。
もう!
すぐ、触ってくる!!!
「もしもし?」
『はい、東京大学医科学病院の受付でございます。』
「ビンゴですね。」
『は…?
あのぅ…?』
「いえ、間違えました。
失礼します。」
先生はそう言って電話を切った。
「行きつけの病院ですかね?」
「東京大学医科学病院ですよ?
普通の病気じゃ、まずかからないでしょう。」
「えーと、つまり、斉藤五郎氏は大病を患っていた…?」
「正解ですね、おそらく。
ご褒美にキスしてあげましょうか?」
「結構ですっ!」
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