テラーノベル
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第2話「それは人だったもの」
地面の感触があった。
「……いっ」
最初に声を上げたのはコゲだった。
「いてて……急に落とすなよ神サマ……」
目の前には、見慣れない景色が広がっていた。
草。砂。鉄でできた遊具。
空は広く、青かった。
「ここが……世界?」
しらたまがゆっくりと立ち上がる。
「……公園だな」
ごマしオが淡々と言う。
「知ってるの?」
「いや。ただ、そういう場所だと“分かる”」
「それ便利だな」
コゲも立ち上がり、周囲を見渡す。
「うわ、なんかそれっぽいな。ブランコとかあるし」
3人はしばらく無言でその場を見ていた。
初めての“世界”。
初めての“現実”。
そして――
「……なに、あれ」
しらたまの声が、わずかに震えた。
少し離れた場所。
砂場の近くに、“それ”はいた。
――ぐちゃり。
そんな音が似合いそうな存在。
人の形をしているようで、していない。
体は溶けたように歪み、ところどころ透けている。
顔らしきものもあるが、形は崩れていた。
「……あぁ……ああ……」
意味の分からない音を発している。
言葉になっていない、何か。
それは確かに、“生きていた”。
「……キモ」
コゲが即座に言った。
「なにあれ。ドロドロじゃん。バグってるどころじゃねぇぞ」
「……あれが」
ごマしオが静かに見つめる。
「対象、か」
「対象って……」
しらたまは一歩、前に出る。
「……助けないと」
「待て」
ごマしオが止める。
「不用意に近づくな。危険性が不明だ」
「でも、あれ……苦しそうだよ」
「そう見えるだけだ」
「見えるなら十分だよ」
しらたまは振り返らない。
ゆっくりと、その“ヒト”に近づいていく。
「おいおいマジかよ」
コゲが肩をすくめる。
「行くの?あれに?」
「僕は、直したい」
その一言だけを残して。
しらたまは手を伸ばした。
ヒトが反応する。
「……ァ……ぁ……」
腕のようなものが、ゆらりと動く。
逃げるでも、攻撃するでもない。
ただ、そこにある。
――触れた。
ぐにゃり、とした感触。
温度も形も曖昧なそれに、しらたまの手が沈む。
「……っ」
一瞬、躊躇い。
けれど。
「……大丈夫」
しらたまは目を閉じた。
「――再考式」
その言葉と同時に、空気が変わる。
見えない何かが、流れ込む。
崩れたものを、“思い出させる”ように。
歪んだ形を、“戻そうとする”ように。
「……ァ……あ……」
ヒトの声が変わる。
ノイズのようだった音が、少しずつ意味を持ち始める。
「……た……す……け……」
その瞬間。
ドロドロの体が、震えた。
崩れていた形が、ゆっくりと整っていく。
溶けていた輪郭が、固まる。
透けていた部分が、埋まる。
そして――
「……っ!」
しらたまが手を引いた。
そこにいたのは。
小さな、人間の子供だった。
息を荒くして、目を見開いている。
「……あ……」
子供は、しらたまを見る。
まん丸の頭。
人とは違う姿。
しばらく、固まって――
「う、うわああああああ!!」
叫んだ。
そのまま立ち上がり、全力で走り去る。
「え」
しらたまが、ぽつりと声を漏らす。
コゲが吹き出した。
「ははっ、逃げた」
「笑い事じゃないよ……」
「いやだって、助けたのにあの反応だぜ?」
「……当然だ」
ごマしオが言う。
「自分たちは“異形”だ。恐怖対象になる」
「いやでもさぁ」
コゲは腕を組む。
「ありがとうくらい言ってもよくね?」
「見返りを求めるのか」
「求めるだろ普通!」
「非効率だ」
「またそれかよ!」
軽口の応酬。
だけど、どこか少しだけ、重い。
しらたまは、子供が消えた方向を見つめていた。
「……でも、よかった」
小さく呟く。
「ちゃんと、戻れた」
その言葉に、コゲは少しだけ黙る。
ごマしオは何も言わない。
ただ、事実として受け取る。
やがて日が落ちていく。
公園は静かになり、誰もいなくなる。
「……で、どうすんの?」
コゲが言う。
「帰る場所とか、あるわけ?」
「ない」
ごマしオが即答する。
「だろうなぁ」
「……ここで、寝ようか」
しらたまが言う。
「え、公園で?」
「うん。今日は……ここでいいと思う」
少しの沈黙。
「ま、いっか」
コゲが先に座り込む。
「どうせ他にないし」
「合理的判断だ」
「お前が言うと腹立つな」
3人は、その場に座る。
冷たい地面の上。
初めての夜。
初めての世界。
そして。
初めて、“誰かを救った日”。
しらたまは静かに目を閉じる。
コゲは空を見上げる。
ごマしオは周囲を観察している。
同じ場所にいるのに。
見ているものは、少しずつ違っていた。
それでも。
3人は、同じ夜を過ごす。
まだ、この時は――
ただの「仲間」だった。
コメント
3件
好き
読了したわ! 「第2話 それは人だったもの」、一気に世界が動いたね。 最初のシリアスな空気と、子どもたちの軽口のバランスがめっちゃいい。 「異形」として助けた相手に逃げられる切なさが胸に来たよ……。 しらたまの「直したい」って純粋な気持ちが健気で、でもそれが報われない感じがリアル。 コゲとごマしオの掛け合いだけど、表情とかが違うから3人の個性がくっきりしてて好き。 公園で過ごす初めての夜、静かな余韻が美しかった。続き、めっちゃ気になる!