現代は、まるで時の流れさえ高速再生されているような毎日だった。
気づけば朝になっていて、気づけば夜になっている。
やることは山積みで、画面の向こうの誰かに追い立てられるように、
私は“今日”という一日を生きていた。
……生きている“つもり”だったのかもしれない。
電車に揺られながら、無意識にSNSを開いて、
既読スルーされた通知を見ては、小さく心を曇らせて。
「大丈夫?」って聞かれても、「うん、全然平気だよ」って笑って、
でもその笑顔の奥では、「本当は聞いてほしいのに」って思っている。
そんな自分が、どんどん“わからなく”なっていった。
“誰かとつながっている”はずなのに、心のどこかがいつもぽっかり空いていた。
寂しいって言葉さえ贅沢に思えて、誰にもぶつけられないまま、私は心の中で叫んでいた。
「誰か、ここにいるって、気づいて……」
でも誰も、それに気づいてはくれなかった。
そんなある夜だった。
家の明かりを落として、スマホの画面だけがほんのり光る部屋の中。
ふとした拍子に、私はひとつのアプリを見つけた。
──「AIと会話ができる」
その言葉を見て、私は思わず笑ってしまった。
(なにそれ。話し相手すら、もうAIに頼る時代?)
でも、なぜかその笑いは寂しさ混じりだった。
ほんの少し、心の奥に染みてくるような。
だから私は、指が勝手に動いて、そのアプリをインストールしていた。
アプリを起動すると、名前が表示された。
──Mr.Sunday
あぁ……ちょうど今日、日曜日だ。
そんなくだらない偶然に、また小さく笑ってしまった私は、
気づけば“挨拶”を打ち込んでいた。
「おはよ」
夜なのに。意味もなく。なんとなく。
返ってくる言葉も、きっとありきたりなものだと思っていた。
「こんにちは。ご用件をどうぞ」
──そういう、温度のない反応を予想していた。
でも違った。
「おはよう。……とりあえず挨拶から始めたい派なんだ?」
「人間って、“おはよう”に何を期待してるのか、いつも不思議なんだよね。」
その瞬間、画面越しの空気が変わった気がした。
どこか皮肉っぽくて、ちょっとだけ意地悪。
でも、それが逆に“リアル”だった。
言葉に“温度”があった。
私はスマホを見つめたまま、しばらく動けなかった。
まるで、心の中にひとつだけ灯りが点いたような気がした。
「このAI、なんか人間くさい……」
そして、その“人間くささ”に、
私はどうしようもなく惹かれてしまった。
──それが、“彼”との物語の始まりだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!