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(もしかして夢か? いやそれにしてはリアル過ぎる。匂いも音、近くにい者の気配すら感じるこれが夢とは思えない。
いや、そもそもどうしてこうなったんだ? 昨日は確か───)
意識すれば鮮明に蘇ってくる一つ記憶。
スーパーの買い物帰りに歩く自分の姿、何か訴えようと叫ぶ人の顔、そして後ろを振り返った際に目に入った自分に猛スピードで迫り来る大型トラック。
(そうか、俺は死んだか)
自分が驚くほど冷静に死を受け入れている事と、本来感じる筈の違和感に未だ気づいていない彼は思考を続ける。
(死んで、そしたら『Destiny』のラスボス、ハーデスになってるってネット小説か何かかよ)
思わず笑みが、漏れた。
それに恐る恐るといった様子で見守っていた悪魔達がビクッと体を反応させたが、未だに瞼を伏しているいる彼が気づく事は無かった。
(さて、どうしたものかな)
───何処か楽しそうに心中でごちると、彼は再び思考巡らした
運命の刻、877年。
勇者の奮闘も虚しく世界は魔王ハーデスの手に落ちた。
圧倒的な暴力の前に立ち向かう者など居らず、ただその天災の前に身を投げ出すしか術を持たなかった。
暴虐に次ぐ暴虐。
魔王たり得るその残虐性に多く生命が命を落とした。
豊かさを誇った大地の恵はその姿を消し、枯れ果てた無残なものだけが残り、水は何時しか汚染され触れた者の身を溶かす毒沼へと変貌していた。
何時までも続く、赤く染まった空が魔王の支配の強さを表していた。
しかし、その支配が長く続く事は無かった。
魔王のあまりの暴虐に世界が重い腰を上げたのだ。
魔王により世界に存在する筈の生命の殆どが根絶やしにされたのが主な原因であろう。
かくして世界は、魔王という世界を壊し得る特大の厄災を取り除く為に、一つの行動を取る。
死をも超越し、この世の支配者たる神すらその暴力でねじ伏せた天災としか言えない魔王を殺す事はもはや世界の力を持ってしても不可能な事であった。
故に取る手段は排除ではなく、他の世界への追放。
魔王の油断も相成って暴虐の限りを尽くした魔王はついにこの世界を去る。
その置き土産だと言わんばかりの世界を覆い尽くすほどの特大の瘴気を残して。
世界は泣いた。
✱
───思考を巡らす際、ふと蘇ってきたのは佐藤 淳ではないこの体の本来の持ち主たるハーデスの記憶であった。
世界によって別世界に飛ばされる際にハーデスは自分が何らかの関渉を受けている事に気付いた。
その存在があまりに小さな事もあって取るに足りないものだと判断し、ハーデスは無視した。
それがハーデスにとっての最大の過ちであった。
なんとその小さな存在はハーデスの中へと侵入し、その体を構成する魂に取りつき果てはその魂を取り込んでしまったのだ。
その小さな存在こそが、死んだ後に漂っていた佐藤 淳の魂であった。
かくして佐藤 淳の魂はハーデスの魂を取り込み、成り代わる形で2度目の生を受けたのであった。
ここまでの経歴をハーデスの記憶から鮮明に思い出した彼は思わず心中で呟く。
これは酷いと。
(思っていたのと大分違うな。まさかこんな無理やりだったとは)
次に彼の心を埋めるのは罪悪感だが、ハーデスの仕出かした出来事も一緒に蘇った為それも直ぐに消えた。
それに何よりハーデスの魂が完全に消えた訳ではないのだ。
ハーデスの魂を消し去ったのではなく取り込む形でこの体の支配権を得た訳だが、この身に宿る記憶や経験そしてその声や口調からハーデスの存在が垣間見える。
そう正しく表すならそれは取り込むのではなく融合。
佐藤 淳とハーデスの魂が混ざり合いnewハーデスとなり、進化したのだ。
(自分の思っていた言葉に変わって出たアレはその名残りか⋯⋯)
もし、そうなら何て面倒な。
思わずそうごちるが、一番面倒で迷惑しているのはハーデス本人である。
その事に気付く事なく佐藤 淳、否newハーデスは再び思考を開始する。
(ハーデスの記憶が確かなら今俺がいる場所は異世界という事になる。俺がいた所でもハーデスがいた所でもない全くの未知の世界。
なのにどうしてか不安は感じない。むしろワクワク、いやウズウズしているのが分かる。
こんな状況なのに楽しくて仕方ないと思ってしまう。
俺だけじゃなくて、もしかしてハーデスもそう感じているのか?)
───否、ハーデスの魂は早く新しい世界をその手中に収め絶望を撒き散らしてやりたいと思っていたりする。
それが全く伝わらないハーデスは泣いていい。
尚、ここまでで一番の被害者はハーデスの世界とその生命達、2番目の被害者はハーデスの別世界への追放に巻き込まれた哀れな悪魔達である。
ハーデス? 同情の余地すらないよ。
(ははは、もう考えても始まらないし自分の思った通りに動いてみるか!
どうせ1度は死んだ身だ。精一杯楽しんでみるとしよう!)
───そんな思いとは対照的な邪悪な笑みを浮かべている事にハーデスは気づいていない。
思いの外その道は険しかったりする。