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「貴方は─────」振り向くと、そこにはリベルドが立っていた。
「クロックフォード様に、手紙が届いております。侍女が見当たらなかったので、直接お渡しに来ました」
「ありがとう」
シルフィアはリベルドから手紙を受け取ると、自室へ戻った。
ソファに座り、手紙の封蝋を見る。
この封蝋、確かオベール帝国の伯爵家の封蝋印である。
「名前は────」
モニーク伯爵。こちらに来てから公爵家の外に出ていないので顔は分からないが、モニーク伯爵は一人娘であるフレンダを可愛がっている、とよく聞く。
「モニーク伯爵が何の用かしら」
エマも気になるのか、背後から顔を出し見ている。
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親愛なるシルフィア様
一週間後、こちらのモニーク伯爵邸でお茶会を催したく存じます。シルフィア様は、オベール帝国に着いて間も無いので、ぜひフレンダが力になれたらと思っております。ドレスコードなどはございませんので、ご出席賜りますようご案内申し上げます。
フレンダ・モニーク
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「お茶会のお誘いですか?」
「えぇ。そうみたいね」
どうやら、フレンダ・モニークからのお茶会の誘いだったみたいだ。人脈を広げるのにも、やはりお茶会が一番手っ取り早いだろう。
お茶会は、女の社交場でもあり情報を得る場でもある。シルフィアは、エマに紙とペンを用意してもらいすぐに返事を書いた。
そして、結婚式当日。教会では、シルフィアとラファエロ。それから公爵家の侍女頭や執事長、使用人も何人かではあるが会衆席に座っていた。
入場前、シルフィアは自分のドレスを見る。人気なだけあって、ミス・エドワールがつくるドレスはとても魅力的だった。そんな魅力的なシルフィアを隣で見てもなお、ラファエロは一言も言わず、ただただ目の前の扉を見ていた。
呆れてため息を漏らすと、入場の合図がなった。扉がゆっくりと左右に開く。シルフィアはラファエロと腕を組み、バージンロードを歩いた。
牧師が誓いの言葉の問いかけを口にする。
「─────妻として愛し 敬い 慈しむことを誓いますか?」
ラファエロは少し間をあけてから、「誓います」とだけ放った。
誓いの言葉が終えたらキスをするのだが、シルフィアはハッと息を呑んだ。生まれて初めてのキスが、愛してもいない男とのキスなんて、思いもしなかった。
シルフィアは目を瞑り覚悟を決めたが、いつまで経っても唇には何の感触もない。
そっと瞼を開くと、ラファエロは周りの皆からは分からない程度に唇を離していた。
─────キスしているフリをしていたのだ。
誓いのキスが終わり、牧師は指輪がのったトレーを差し出す。本来ならば、妻が夫に。そして夫が妻に、お互いの薬指に指輪をはめるのだが、ラファエロは自分で指輪を取り薬指にはめた。会衆席からは、クスクスと笑い声が聞こえた。
─────「私はお前と馴れ合うつもりはない」
公爵邸に着いて、最初の一言。
そっちがその気なら、こっちだって勝手にしてやる。
シルフィアはそう思い、自分で指輪をはめた。
結婚式が終わり、公爵家に帰ってきた。
「これでもう、私はシルフィア・ヴァンキルシュね」
「嫌ですぅぅぅ゛」
シルフィアが自分ではめた指を見ながらそう言うと、エマは膝に顔を埋め泣きじゃくっていた。
「なんでお嬢様が、あんなヤツなんかと…」
「泣いても仕方ないわ。もう私はヴァンキルシュの人間だもの。まずは六日後のお茶会ね」
シルフィアは、トパーズが埋め込まれた指輪を見つめた。