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空や周囲は緋色に染まっていた。もう直ぐ日が沈む。
リディアは廃墟となった教会の前で座り込み佇んでいた。
「リディア様、身体を冷やします」
ハンナがブランケットを肩から掛けてくれた。温かい。
「ありがとう……」
ディオンは来なかった。
あれから、何刻もの間待ち続けている。だが、人一人現れない。たまに鳥の羽ばたきと風が木々を揺らす音が聞こえるだけだ。神聖な教会も廃墟になれば、どこか薄気味悪さを感じる。薄暗くなれば尚更だ。段々と心細い気持ちになってきた。
「リディア様……。もう間もなく日が沈みます。一旦屋敷へ戻られませんか」
嫌、此処で待つ……そう言おうとしたが思い直し素直に頷いた。
後少ししたら来るかも知れない、そんな事を考えるとこの場から離れたくない。だがもしかしたらディオンの身に何かあったのかも知れない。何となく胸騒ぎを感じていたのだ。
リディアはハンナに促され馬車へと乗り込んだ。
屋敷に帰ると何故かシルヴィとフレッドがいた。シモンと何やら話している様子だ。
「リディアちゃん‼︎」
リディアに気が付き慌てた様子で駆け寄って来た。
「あのね! 国王陛下が大変な事になって、リディアちゃんのお兄様が大変で、兄さんも王妃様から命令で大変で、兎に角大変な事になっちゃって」
シルヴィの脈略のない物言いに、話が全く見えない。分かった事は何か大変な事が起こったらしいと言う事だけだ。
取り乱すシルヴィを宥め落ち着かせ場所を応接間へと移した。
「ディオンが」
冷静さを取り戻したシルヴィから改めて話を聞き、リディアは動揺を隠せないでいた。
「そんなの、あり得ない……」
今朝、国王が遺体で発見された。明らかな斬り傷があり、殺害されたと判断したそうだ。そして側にはディオンの物と思われる短剣が落ちていた。無論普通の短剣ではなく、グリエット家の家紋入りであり兄が持っているのを目撃した事があるとの証言が上がっているそうだ。
それらを元にディオンへ容疑が掛かり、直ぐに兵等がディオンを捕らえに向かったそうなのだが……。
「それでね、聞いた話ではその際にリディアちゃんのお兄様は弁明すらせずに、その、逃げたらしくて……」
「そんな……」
それは非常にまずい状況だ。逃げたとなると、例え無実であろうと認めたと同義と判断されてしまう。無論ディオンもそれは分かった上なのだろう。それでも逃げざるを得なかったのだ。そうしなくてはならなかった理由……例えば捕まれば有無を言わせず殺される、とか。
「まだ見つかっていないみたいなんだけど……今兄さん達がね、行方を探してるのよ」
クロディルドからの指示で、白騎士団長であるリュシアンに命令が下された。シルヴィの話によるとディオンだけでなく黒騎士団ごと姿を眩ませているらしい。
「リディア嬢はご存知か分かりませんが、白騎士団と黒騎士団は主人が違うんです。王家と不仲である神殿の支配下にある黒騎士団が、国王陛下が暗殺された直後姿を消したとなると、これはかなり深刻な事態と言えて」
リディアはフレッドの話の途中にも関わらず席を立った。こんな所でのんびり話している場合ではない。
「リディアちゃん⁉︎」
「私、行かなくちゃ……。私、ディオンに会わないといけないの‼︎」
リディアは部屋を飛び出ると馬車まで走る。そしてそのまま乗り込んだ。シルヴィとフレッドも慌てて付いて来た。
「待って、リディアちゃん。何処に行くの?」
「それは勿論……えっと、その…………」
感情のままに部屋を飛び出したまでは良いが、そう言われて見ればリュシアン達さえ行方を探しているのに、リディアに見当がつく筈もない。瞬間思考が停止する。
「大丈夫です。ここは僕に任せて下さい」
フレッドが自信満々に言った。