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こんにちは、初めまして
《木戸芽那編》
好きな漫画の発売日の翌日だった今日、私、木戸芽那のテンションは朝から高かった。
登校し、数は少ないが仲のいい友達と読んだ漫画について語り合い、そのテンションのまま帰宅する。その予定だったのだ。
「おはよ!」
「っ!めなちゃ…っ、…ごめんなさいっ」
「えっ」
だが、一緒に漫画について語り合おうと思っていた私の友達は、私から逃げた。困ったような、泣きそうな顔をして。
困惑のまま、行き場をなくした片腕をそっと下ろす。
追いかけようか躊躇っていると、どこからか笑い声が聞こえてくる。
私は直感的にそれが自分に向けられたものだと分かった。
声の聞こえる方角をたどれば、クラスの陽キャグループと目が合った。彼女らは私の方を見て、くすくすと笑い声を上げている。
「っ」
彼女らが、私の友達に何かをしたのだろうか。
そう思うとふつふつと怒りが込み上げてくる。
でも私には、彼女らに歯向かう勇気も無ければ、友達を追いかける勇気も無かった。
目を逸らして授業の用意をするためにロッカーへと向かう。
私は、教室の中心に居座っている彼女らの横を通り抜けようとした。
ふと視界がぐるりと回った。
「っあ゛ぅっ」
転んだと気がついたのは、私の目の前にある足を見た時だった。
受け身を取る技術もなくただ床に叩きつけられた私の肺から、圧迫された空気が声帯を通り音と共に
吐き出された。
「ぷっ、アハハ!今の声聞いた?やべー」
「待って、超ウケるんですけど!」
彼女らは揃いも揃って大爆笑をしている。
もしかして、私は、
…彼女らに今、足をかけられたのだろうか。
もしかして、彼女らの標的は、友達ではなく…私?
その最悪の可能性に気付いた時、私は急いで立ち上がるとロッカーにある準備物を取り、窓際の自分の席に慌ただしく腰を下ろす。
この想像が間違っていてくれと願いながら。
…だから陽キャなんて嫌いなんだ。
私の頭の中には、もう昨日買った漫画のことなんてとっくに無くなっていた。
おかしい。
ひたすらその言葉が頭を巡る。
授業が始まるまでのこの時間、いつもなら2人の友達と一緒に話しながら過ごすこの時間、今は私の周りには誰もいない。
これは、私と話す人が誰も居ないという意味ではない。むしろ物理的に私の周りに人がいないのだ。
教室にはかなりの人数が集まっているというのに、私の周りには壁があるかのように誰も近付いて来ない。
友達は、私を除いた2人だけで楽しそうに笑いあっていた。
不意に絶望感が頭の片隅をよぎり、私は俯いて机の木目をひたすら眺めて時間を過ごした。