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駅につき、電車に乗って窓の外を眺めても天気は一向に悪くなる気配はない。
手に持つビニール傘が邪魔に思える。イギリスでは雨を防ぐためではなく
雨の降っていない日にオシャレの一環として傘を持つ文化があるらしいが
ビニール傘は対象外であろう。そんなことを思いながら電車に揺られ
終点で乗り換え、また乗り換えた電車に揺られる。大学の最寄り駅で降り、空を見上げる。
春らしい優しい陽が白い雲で隠れているが、変わらずいい天気が続いている。
大学へ向かい歩く。
コンビニに寄ろうと大学の門を通り過ぎるときチラッっと大学の校内を見ると
ド派手な人物の後ろ姿が目に入った。白い綺麗な長髪を靡かせて
牛柄のYシャツをたなびかせ、ダボダボのジーンズを前後に動かし歩いていた。
周りの人も珍しいものを見る目で見ていた。十中八九匠だ。僕は左の口角だけを上げて
「ふぅ〜ん」
と呟き、コンビニへ向かう。
コンビニでココティー(心の紅茶の略称)のストレートティーとミントのガムを買い大学の門まで戻る。
校内に入り、歩きながらガムの包みを開ける。まるで蓋のようにパカッっと開き
1粒がその蓋についた状態で本体から1粒ガムを取り、取った分の余白がある本体の包み紙を
内側へ折って残りがバラけないようにカーゴパンツの左ポケットに入れる。
入れたとき手に触れたものが複数あった。取り出してみる。1つは丸めたティッシュ。
もう1つは3粒の先ほど買ったものと全く同じガムだった。少し上を見ながら口を尖らせる。
ティッシュはココティー(心の紅茶の略称)を入れているビニール袋に入れ
3粒のガムはもう一度カーゴパンツの左ポケットに戻した。
銀の包みを剥がしガムを口に放り噛む。カリッっと外側の硬い部分を歯が貫くと
口いっぱいに爽快なミントの香りが広がり、鼻から抜ける。
その後噛むことを続けお口爽快で歩き出す。大学の屋内に入り、講義室へ向かう。
生徒が様々な方向へ歩いているため
「この人の流れに乗れば講義室へ辿り着ける」ということは無さそうだった。
スマホの電源を入れ、お気に入りとして
ホーム画面に置いていたネットで講義のシラバスを見られるアイコンをタップし
「運動と健康」の講義の講義室を確認する。階段で2階に上がり、講義室を探す。
生徒が入っていく講義室があり
その講義室かと思い、開け放たれている扉から講義室内を覗く。一瞬でここだと確信した。
後ろのほうの席に白い綺麗な長髪の牛柄のYシャツを着た人物がサティスフィーをやっていた。
僕は講義室の開け放たれた前側の扉ではなく、後ろの閉まっている扉から講義室に入る。
匠を見るとイヤホンをしていて扉から入ってくる人に目もくれていなかった。
一直線に匠に近づく。すると少し近づいたところで匠がこちらを向いた。
「おっ」っという表情をする匠。僕は右手を軽く挙げる。匠は左手を軽く挙げる。
僕はそのまま匠の奥の窓側の席に座る。バッグを窓側のテーブルの上に置く。
匠はイヤホンを外し肩にかけた。
「なにしてんの?」
と匠のサティスフィーを覗き込む。
「変わらずアリオギャラクシーよ」
画面を見るとアリオが駆け回り跳ね回っていた。
「クリアまでどんくらい?」
僕もバッグからサティスフィーを取り出す。
「ん?なんかやる?」
「あ、違う違う。全クリまでって話」
「あぁ、んー。どんくらいだろ。あと10ステージくらい?」
「え!?もうすぐじゃん」
「いつの間にかね」
「はやっ」
「いや面白くてさ、ついやり込んでたらもうクリア見えてたんよ」
「なんかオレもクリアがあるゲーム買おうかな〜」
「怜夢ってクリアないゲーム好きよな。作業ゲーというか」
「うん。なんか「クリア」ってなると「終わり」って言われてるみたいでね。
まぁ製作者さんは全然そんなつもりないんだろうけど、なんか寂しく感じちゃうんだよね〜」
すると匠が急に僕の右手を両手で包み込み
「わかる!」
と力強く僕の目を見て言ってきた。そこでしっかりと匠の目を見たら左右で目の色が違った。
右目は黄色、左目はピンクだった。オッドアイである。
「おぉ〜。わかってくれるか」
「わかるぞ!オレもアニメの最終回観るの抵抗ある派。
マンガも「堂々完結!」とか「最終刊」とか帯に書いてあると
「グッっ」ってなってページを進める手が重くなるんよ。でももちろん最終回も観るよ?
最終刊も読むよ?ただまぁヲタクとして作品を2周はするのは常識じゃん?
でも5周したとしても最終回観る、最終刊読むのは1、2回とか?
やっぱ「終わる」って寂しいよな。何回でも観直せるし読み直せる。
ゲームならプレイし直せるのはわかってはいるんだけど、心が締め付けられるんよな」
もの凄い勢いで語る匠に押される。
「わかる。でもさオレはあれかな〜
それこそ明確なクリアがないゲームばっかやってるからか
ひさしぶりにちゃんと「クリア!」っていうゲームをやってみたい。
達成感が欲しいのかな?」
と明確なクリアのないせいぶつの森をプレイする。
「あぁ〜達成感ねぇ〜」
と匠が呟きながらアリオをジャンプさせたりする。2人の間に少しの沈黙が訪れる。
するとスーツの男の人が講義室の前の扉から入ってきて
「はい。では運動と健康の3回目の講義を始めます。えぇ〜前回の講義は」
と前回の講義のおさらいを始めた。
僕と匠は気にせずサティスフィーをする。ただし少し隠れて。
この先生に見つからないように少し隠れて
授業中にゲームをするという行為に中学のころを思い出し、思い出し笑いをする。
「なにどした?」
匠がこちらに視線を向ける。
「いや、覚えてる?中学のころ授業ゲームしてて見つかって怒られたこと」
「あぁ。うわ懐かしいな。オレが見つかったんだっけ?」
「違ぇよ。覚えてねぇじゃん。
オレが見つかって匠が見つかってないのに一緒に怒られてくれたんだよ」
「え。オレめっちゃイケメンじゃん」
「うるさ。覚えてたろ」
講師の方にバレないように控えめに、でもめちゃくちゃ笑った。
「なんか通信できるゲームあるかな?」
そう呟きサティスフィーのホーム画面で入ってるゲームのタイトルを確認する。
「あれ?匠スプラタウンやってたっけ?」
「やってない。キャラは可愛くて好きだけど」
「んん〜じゃああれは?金太郎電鉄」
「あぁ金鉄なら入ってるよ」
「なんで金鉄持ってんねん」
「1人でCP相手にやってたんよ」
「え、寂しー」
「うるせ。つかさっきの言葉そっくりそのまま返すわ」
「オレはー妹とやったり?」
「嘘つけ」
「嘘ではないよ。2回くらいやったもん」
「マジ?そんな仲良かったっけ?」
「まぁ悪くはない」
「マジか。いいな」
匠本人はそんなつもりはないかもしれないけど、どことなく含みを感じて「うぅ〜ん」となる。
「今度ひさびさに妹ちゃんに会いに行くか」
匠が続けて言う。
「やめろ。今のお前見たらガチ恋するから」
「んなこたねぇ~だろ」
また2人で笑う。
「まぁ金鉄持ってんならやろうぜ。1年間だけでもさ」
「まぁいいけど、金鉄って1年じゃそんな面白くないだろ」
「じゃあ、3年くらい?」
「まぁたしか所要時間が表示されるはずだからそれ見て決めようよ」
まるで中学、高校のころ匠の家のリビングで遊んだように講義中にも関わらず楽しんでいた。
するとカッチャンという音に
講師の方が近くに来たと勘違いし 、2人でビクッっと肩をすくめる。
音のほうに視線を移すと講義室の後ろの扉が開き、女の子2人が入ってきた。
「ふぁーふぅ〜」
と口から息を吸い吐く。コソコソ物事をしていると音に敏感になり
いちいち心臓が飛び跳ねるほどビックリするものである。
鼻から深呼吸をし、心臓を落ち着かせる。すると
「よ!」
と声をかけられる。また心臓が飛び跳ねるほどビックリする。
声のほうを見る。鹿島が立っていた。匠越しの鹿島。
これほどレアなことは滅多にない。写真を撮りたいほどだ。
「そっち座ってい?」
「あぁ」
と言いながら、僕は自分のバッグをこちらに寄せる。
鹿島は匠と僕のイスの後ろの細い隙間を縫い、僕の左側の席に座る。
「珍しいな。講義に顔出すって」
「うん。まぁなんか起きちゃってね?怜ちゃんいるかなぁ〜って」
「いなかったらどうしてたんだよ」
「ん〜帰ってたかな?マエ電にゲーム見に行ってたかも」
「いや、講義室1回入って帰るとか強者すぎん?」
「いや?入らんよ?さっきも女の子2人が扉開けたから、開いた扉から中確認したんよ。
だからいなかったら入らず帰れたよ」
笑ってそう話す鹿島に思わず感心してしまった。
「変なとこ頭良いよなぁ〜」
「うんー。変なとこは余計ー」
そう言って2人で笑う。
「あ、小野田くんじゃん!覚えてる?鹿島京弥です」
「あ、はい。どうも。お久しぶりで」
「覚えててくれたかー。嬉しいなー!会うのどんくらい振り?」
「どんくらいっすかね。でもオレはたまに見かけてましたけど」
「あ、マジ?声かけてくれればいいのにぃ〜。
っつってもオレも小野田くん何回か見かけてるわ」
「そっちこそ声かけてくださいって話じゃないっすか」
そう言って2人は何処となくまだ遠慮のある話し方で、何処となく遠慮がちに笑う。
「つかタメなんだし、敬語?はねぇ?怜ちゃんという共通の友達もいることだし」
「そうっすー…そうだ…ね?なんかまだ気持ち悪いな」
「まぁ徐々にでね?怜ちゃんの幼馴染だし、オレも小野田くんと仲良くなりたいし」
「あ、はい。あっ…いや。うん。オレもです」
「結局敬語」
と笑う鹿島。
「あっ」
と気づいた後に匠も笑う。少し心配していたがこの2人は仲良くなれそうだ。
そう思い安心する。
「なにかする感じだった?」
そう言いながら僕のサティスフィーを覗き込む鹿島。
「あぁ、金鉄やろうかって話してて」
「え?マジ?オーレーもーやーりーたーいー」
「今日テンションどうした」
「いや、なんだろ。小野田くんと会えたからかな」
「え、オレ?」
「うん。だってレアキャラだしー?イケメンだしー?
そもそもちゃんと話したことなくて、ちゃんと話してみたかったしで」
「鹿島…さん?くん?」
「なんでもいーよー。砕けた感じで」
「じゃあ、京弥で」
「うおっ!いきなり名前呼び!」
「あ、ダメ?」
「いや、全然ウエルカムだけど、怜ちゃんですら鹿島なのにスゲェなって」
「なんか最初にガッっていかないと「さん付け」とか苗字呼びになりそうだなって」
「なるほどね?ここにその良い例がいるしね?」
そう言って鹿島は僕を見る。
「鹿島は鹿島よ。別に距離があるってわけじゃないけど
今から「京弥」って呼ぶのはなんか…キモい」
「おい、キモいって」
「なんか背中がゾワッってなる」
「酷すぎん?ねぇ?匠ちゃん」
「匠ちゃん?」
「怜ちゃんは怜ちゃんだし、匠ちゃんは匠ちゃんでしょ」
「鹿島の「ちゃん」付け呼びマジでわからん」
「よろしくね!匠ちゃん!」
「うん。よろしくね京弥」
なんか僕と鹿島、僕と匠よりも仲良くなりそうで嬉しい反面
なぜかどこか複雑な気持ちもあった。
「で?金鉄何年やるん?」
「あぁそれは所要時間見て決めようかって話してて。って鹿島持ってんの?」
「もちのろんじゃん!…あ、ヤベ。オレパッケージ版買ってたんだ」
「おいぃ〜できんやん」
「じゃあ帰ってから3人でやる?」
そう提案したのか匠だった。その提案に
「おっ!いいねいいね!あ、じゃあさ、ついでにそれ動画にしていい?」
「MyPipe?」
「そうそう!あれ?匠ちゃんは怜ちゃんがー」
「知ってるよ」
「うん。教えてる」
「あ、そうなのね」
「オレのサムネ作ってくれてんの匠」
「えぇ〜!?マジ!?」
「まぁまだ下手だけどね」
「え、オレあの絵柄好きよ!」
「マジ?嬉しいわ」
そんな話をした後に金鉄ができないのでなにしようと話し合った。
真面目に講義を受けようという選択肢がないのが僕らの悪いところである。
「ま、とりま各々で好きなことするか」
「まぁそうだね」
「あぁ〜帰りてぇ〜」
「金鉄やるとしても夜だろ」
「夜だね」
「なぁ〜。じゃあ寝よ」
「おやすみ〜」
「おやすみ〜」
「おやすみ〜」
鹿島がテーブルに突っ伏して寝る。匠は再度アリオギャラクシーを起動し、再開していた。
僕も再開せいぶつの森を起動し、日課をこなそうと思った。せいぶつの森を起動する。
読み込み時間にポケットからスマホを取り出し、ホームボタンを押す。
時間を見ると割と経っていた。
3人でのやり取りが新鮮かつ楽しく、時間が経つのがはやかったのだろう。
そして時間の下に通知が。妃馬さんからのLIMEの通知だ。
嬉しいが顔には出すまいと我慢する。通知をタップしトーク画面を開く。
「お!来ましたね!よしよし。じゃあ最初の私の印象とだいぶ違ってますねw
自分には甘々なもので(・ω<) テヘペロ
そうですね。共働きですけど残業とかは基本的にない職種なので。
でも父は家でも仕事してますし、母は接客業でストレスとか、まぁ2人とも大変ですよね。
私はー…普通かな?寝起き悪いほうでもないし、良くもないです」
そのメッセージの後に猫が「GOOD」と親指を立てているスタンプが送られていた。
僕は口元がニヤけそうなのを必死に堪え、返信をする。
返信を終え、スマホの画面を下にしてテーブルに置く。何気なく鹿島のほうを見る。
鹿島越しに窓が見える。よく見ると窓に水滴がついていた。パッっと空を見ると曇天。
天気予報は当たった。雨が降ってきた。
今置いたばかりのスマホを裏返し、ホームボタンを押す。
当然まだ妃馬さんからの返信はない。もう一度裏返しテーブルに置く。
僕は落ち着かなかったがサティスフィーでせいぶつの森をプレイする。
奇しくもせいぶつの森の世界も雨だった。僕はちゃんと傘を差し日記を行う。
ほんの少し日記を行い、やっぱり落ち着かずスマホを裏返し、ホームボタンを押す。
妃馬さんからのLIMEの通知があった。
僕はサティスフィーを置き、妃馬さんの通知をタップしトーク画面へ飛ぶ。
「珍しい3人ですよね?
え?真面目お嬢様じゃなくて良かったですか?
じゃあ、同じですね!でも怜夢さんはそんなに自分に甘くない気も…。
そうなんですね!お父様は会社員でお母様は専業主婦。
いや、寝起きの声とか聞かれるのは事務所的にNGなのでw」
そのメッセージの後に猫が大きく「NG」と書かれたプラカードを掲げているスタンプが
送られていた。僕はメッセージを読み口元が綻んだが
それよりも聞きたいことがあり、即座に返信を打つ。
「そうですね。鹿島と小野田はちゃんと話すのは初めてくらいですね。
はい。だって真面目だったら、こんな講義中にLIMEもできないし
講義中にゲームしてる姿も見せられないですしw
うぅ〜ん。どうなんでしょw自分では甘いなぁ〜って時々感じますけどw
母も元々働くの好きじゃない人ですからw
モニコしてくれたしお返しにと思ったのにwてか事務所ってw所属してたんすねw」
その後にフクロウが大きな翼でお腹を抱えて笑っているスタンプを送った。
そのスタンプの後に
「妃馬さん、今雨降ってますけど傘大丈夫ですか?」
と1番聞きたかった質問を送る。スマホの画面を下にしテーブルへ置く。
サティスフィーの電源は点けっぱなしで、そのまま手に取り日課の続きをする。
ふと鹿島の周辺を見る。ビニール傘が鹿島の左のイスの背もたれにかけてあった。
匠のほうを見る。匠が座っているイスの背もたれに
真っ白で手元の部分が木でできた派手だけどオシャレで高そうな傘がかけてあった。
2人は傘を持ってきている。よし。しばらく時間を空け、サティスフィーを置き
スマホを持ち上げホームボタンを押す。すると妃馬さんからのLIMEの通知があった。
その通知をタップしトーク画面へ行く。
「え!?そうなんですか!?あんなイケメンが揃ったら目立ちますよね。
たしかにwお3人さんで楽しそうにしてましたよね!
側から見たら自分に甘そうに見せて実は厳しいんじゃないかなって。
まぁ「働くの大好きです!」って人は珍しいですよw
モニコってなんか懐かしい響きw
そ、そうなんですよー。マネージャーがNG出しててぇ〜」
そのメッセージの後に猫が口笛を吹いて誤魔化している風のスタンプが送られていた。
そのスタンプの後に
「え。マジですか?傘持ってきてない…」
良かった。いや、妃馬さんが傘を持ってきていない事実を喜んでいるわけではない。
いや喜んではいるが。妃馬さんが傘を忘れていたことが良かったわけじゃないが良かった。
矛盾が重なりすぎて頭がおかしくなりそうだった。
なにより持ってきたビニール傘が役に立ちそうだ。
気づけばあと20分ほどで講義が終わる時間になっていた。僕は妃馬さんに返信をする。
そして残りの時間、せいぶつの森の日課を終え
意味もなく花に水をあげたり、高く売れる魚狙いで釣りをしてみたりして過ごした。
「えぇ〜。少し早いですが今回はここで終わりにしたいと思います。お疲れ様でした」
そう言って講義室をそそくさと出ていく講師の方。
僕はビニール傘片手に妃馬さんの元へ行く。
妃馬さんは女の子2人と仲良さそうに談笑していた。
僕は意を決して妃馬さんの名前を呼ぶ。
「妃馬さん」
妃馬さんはもちろん妃馬さんと仲良さそうに笑っていた2人の視線も僕のほうへ向く。
居心地の悪さを感じ
「これ良かったら使ってください」
とビニール傘を差し出す。
「え、いや、でも怜夢さんが」
「あ、バッグに折り畳み入ってて」
「え、あ、そうなんですね。じゃあ。いいんですか?」
「はい。もちろん」
妃馬さんは僕からビニール傘を受け取る。
「ちゃんとお返ししますので」
「いえ。ビニール傘ですし、うちにビニール傘いっぱいあるので。
あ、要らなければ捨てちゃってください。じゃ」
これ以上の長い会話は居心地の悪さに息が詰まりそうだったので早々に引き上げた。
妃馬さんに背を向け、鹿島と匠の元へ戻ろうとしたとき
「ありがとうございます!」
と背後から妃馬さんの声が聞こえる。歩きながら振り返り軽く頭を下げる。
「お優しいこって」
恐らく一部始終を見ていた匠が声をかけてくる。
「折り畳みあるんだし当たり前だろ」
「当たり前ではないだろ」
「当たり…前ではないか」
「てか京弥起こさないと」
「あ、そうか。おい鹿島!終わったぞ」
鹿島の右肩を叩く。
「ん。ん?んなぁ〜はぁ〜おふぁようござます」
あくび混じりに言葉を絞り出す鹿島。
「よく寝れました?」
「ん。うん。ふぁ〜ふ。あぁ。寝た寝た」
「高校でもそうだっただろ」
「よくわかったな」
「わかるだろ。な?」
「まぁオレと怜夢もそうだったしね」
「あ、そうそう。経験からね」
「とりあえず授業中は寝てるか、サボって遊んでるかのどっちかだったね」
「ヤンキーやぁ〜」
「ほんまや、ヤンキーやぁ〜」
「んふ〜ヤンキーちゃうでぇ〜」
そこからみんなの高校の話になった。
「え、京弥、黄葉ノ宮高校なの?」
「そうだよ」
「あ、そうか。オレと鹿島が仲良くなってるころ匠は大学来てなかったから知るわけないか」
「あ、そっか」
「でもオレたちの中学からも結構五ノ高校行く人たち多かったよね」
「あ、そうそう。オレたちの友達でも結構いた」
「マジ?じゃあ中学の話とかのときに話題に出た人の中に2人もいたかもね」
「たしかに。オレらもゆーて真面目じゃなかったもんな」
「ゲームして怒られたりね」
「そうそう!」
「ヤンキーやぁ〜ん」
「同じやぁ〜ん」
「お揃いやぁ〜ん」
そんな話で少し盛り上がった。
「んじゃ帰るか」
「うっし」
それぞれが荷物をまとめて講義室を出る。