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【俺はもう、大丈夫だヨ】
Episode.16 神様
《🎼🍵side》
🎼🍵「っ、ひまちゃん!」
バタンッ。
リビングの扉が閉まる音が、俺の声を途中で断ち切った。
一瞬、時間が止まったみたいだった。
箸を持ったまま、俺は固まる。
このままじゃ、駄目だ。
慌てて立ち上がる。
🎼🍵「ひまちゃ──」
ガタン。
勢いよく立ったせいで、テーブルが揺れる。
味噌汁の椀が傾いて、汁がこぼれた。
🎼🍵「あ……」
ぽた、ぽた、と床に落ちる。
俺は急いでキッチンへ行き、布巾を掴んだ。
しゃがみこんで、床を拭く。
味噌の匂いが、ふわっと広がる。
ついさっきまで、普通の夕飯だった。
いつも通りの。
いつも通りのはずだったのに。
拭き終わって、ゆっくり立ち上がる。
茶碗を立て直す。
その時。
……ぐらり。
🎼🍵「あ……」
目眩。
ひどい。
床が揺れる。
立っているだけなのに、足元が定まらない。
テーブルに手をつく。
深く息を吸う。
吸って。
吐く。
……吸えない。
次の瞬間。
🎼🍵「っ、げほっ……!」
咳が出た。
一度。
二度。
三度。
止まらない。
🎼🍵「げほっ、げほっ……!」
肺が軋む。
まるで、内側から爪で引っかかれているみたいな痛み。
喉が焼ける。
痛い。
苦しい。
胸が、押し潰されるみたいに重い。
🎼🍵「……っ、は……」
呼吸が乱れる。
視界の端が暗くなる。
頭の奥で、さっきの声が響く。
───『嫌だって言ってんじゃん!!』
……。
……そうだよね。
ぽつりと、思う。
嫌、だよね。
こんな急に。
こんな話。
自転車の練習なんて。
急に言われたら、 嫌だよね。
『自転車は、6年生になったら練習しようね』
そう言ったのは、過去の俺なのに。
俺は、ゆっくり椅子に座る。
手が震えている。
……俺が。
病気で。
癌で。
余命があって。
時間が、限られてるから。
俺が、動けるうちに。
俺が、生きてるうちに。
ひまちゃんが困らないように。
自転車も。
生活も。
できることは全部、教えておきたい。
そう思ってた。
でも、 それは全部。
俺の都合だったのかもしれない。
🎼🍵「……っ、げほ……」
また咳。
手で口を押さえる。
ぬるい感触。
……ああ。
鉄の味。
ゆっくり手を見る。
赤い。
血。
また、だ。
🎼🍵「……」
目を細める。
もう、驚かない。
慣れてきてしまった。
それが、何より怖い。
シンクへ行く。
水で流す。
赤い色が、排水口へ消えていく。
鏡を見る。
顔色、悪い。
目の下、深い影。
頬も、少しこけてきた。
……弱ってる。
体が。
確実に。
いや。もう慣れた。
病気は、待ってくれない。
どれだけ願っても。
どれだけ祈っても。
進んでいく。
静かに。
確実に。
でも。
それでも。
俺は、まだ。
生きたい。
蛇口を握る手が、震える。
🎼🍵「……お願いだよ」
小さく呟く。
神様がいるなら。
本当にいるなら。
まだ、俺を生かしてほしい。
ひまちゃんが、
中学生になるまで。
高校生になるまで。
大人になるまで。
見届けさせてほしい。
自転車に乗れるようになるところも。
友達と笑ってるところも。
恋をするかもしれない未来も。
全部。
全部。
見たいんだ。
🎼🍵「……お願いだから」
声が震える。
涙が、視界をぼやけさせる。
こんな弱い声、
ひまちゃんには絶対聞かせられない。
🎼🍵「俺を……生かして」
一人の人間として。
一児の父として。
なつの、父親として。
まだ。
まだ終わりたくない。
それなのに。
廊下の向こう。
静かな部屋の扉。
その向こうに、
ひまちゃんがいる。
さっき、怒鳴らせてしまった。
傷つけた。
あんな顔、させた。
🎼🍵「……ごめんね」
聞こえない声で呟く。
俺は、
ちゃんと父親できてるんだろうか。
守れてるんだろうか。
分からない。
でも。
それでも。
生きたい。
ただ、それだけだった。
next.♡1000
コメント
13件
涙が出そうになってしまった🥹 🍵くんの想いが強く生きたいと 思ってる想いがぎゅってきたよ😭 今を大切にしたいな…
自分語りになってしまうんですけどごめんなさい 初コメ失礼します .ᐟ 自分のお母さんも癌で亡くなってしまって、当時の自分はまだ3,4歳で当時の状況とか全く分かりませんでした。 そこで今回翠君視点で物語が進んでいって翠君がもっと生きたい、見届けたいと赫君に思ってくれていたと同時に自分のお母さんもお父さんと兄と自分にこういう思いを持ってくれていたのかなと思うと、またお母さんのことを新しく知れたようなきがしました 本当にありがとうございます このお話いつも読ませてもらってます.ᐟ.ᐟ 長々と失礼しました
ちょい待てよッッ“(( これどっちも悪くねぇよっ“・゜・(つД`)・゜・() 🍵くんは親としての役目果たしてるし、🍍ちゃんはもぉしょうがないっ!“泣(((? 家族に癌で🍵くんと似たような事してタヒんだ人がいるんだよぉ“っ無理しないでほしいッッ“(´;ω;`) あと小説の書き方上手すぎて泣く() 参考にしても良かったりします…?、((((((