少年は立っていました。青空の下、草原の中で立っていました。そこには正方形の白い壁がありました。そして、その壁のことは、みんなが知っています。
少年が壁を白いと言うと、周りの人は喜んで褒めてくれました。少年は嬉しかった。少年は壁の白さを誇りに思っていました。
ある時、壁に黒い絵の具を塗った少女が現れました。殴るように塗ったのでした。人は少女を叱りました。壁を白くしようとしますが、汚れは取りきれませんでした。叱られた少女は泣き、辛そうにしていました。少年はペンキを塗ったことは悪いことだと思いましたが、少女を恨むことはしませんでしたし、今まで通り接しました。どうやったら壁を汚す人が現れないようになるかを考えました。ただ、答えはでませんでした。
少年達は大きくなりました。これまでより関わる人も増えました。今まで会ったことのないような人とも会うようになりました。色んな出会い、色んな別れを経験しました。壁は白いままでした。ただ、変わったことがありました。壁の白さ伝えても共感してくれる友達が減ったことでした。白いねと共感してくれるのですが、本心ではないような気がするのでした。なんだか不思議な気分になりました。相変わらず、人は少年を褒めてくれました。幼い頃よりも褒めてくれました。ただ、白いと言っても褒めてくれない人もいました。そう言う人のことが、少年は気になるのでした。
また少し成長すると、友達は壁の前にカンバスを置いて、白い紙に色をつけはじめました。壁をじっくり見ながら、色を塗りました。使う色が少ない人もいれば多い人もいて、また人によって違った色をつけていたので、とてもカラフルでした。少年は周りより遅く、カンバスに色をつけました。薄い色を塗りました。みんなが自分の画用紙に色を塗り終えてから、壁のことを白いと言う人は少年以外にほとんどいなくなりました。その代わり、自分達より幼い子が壁を白いというと、褒めるようになりました。少年は実のところ、自分も褒めて欲しいなと思っていました。少年は壁を白いとは言わなくなりましたが、心の中では壁は白いままでした。だって、白いのですから。少し気になっていることがありました。壁を白いと言うと、悲しそうになる人が増えてきたことでした。少年はそんな時、申し訳ないと思うのですが、悲しそうにする理由はわかりませんでした。
より成長すると、少年は自分が1人だと感じるようになることが増えてきました。ただ、自分のことを大切にしてくれる凄く仲の良い友達はいました。少年はその友達を大切にしていました。
ある日、少年は壁に色を塗ろうとしている少女を見つけました。壁を白いと言うと悲しそうにする人に出会うようになってから、壁の白さを嫌う人がいるのだと知っていたので、その少女を止めずに見ていました。壁に殴るように色を塗った少女は、少年に気づきました。目があって少しすると、諦めたような顔をしました。別の人がやってきて、少女を叱りました。少女は辛そうな顔をしていました。少年は、なぜ少女が自分にあんな顔をしたのかわかりませんでした。ただ、あの少女も、成長したら壁の前にカンバスを置いてカラフルな色を塗るんだろうなということはわかりました。少年は、少女も少女を叱った人もいなくなった壁の前にたたずみ、じっと壁を見つめました。そこで、友達と壁の白さをどう感じているかを話したことがなかったことに気づきました。それから、なんとなく、なんとなくですが、自分は今まで色んな人のことを傷つけてきたような気がするのでした。あの時の画用紙の色の薄さも、心にのしかかってくるのでした。ただ、今画用紙に色を塗ろうとしても、きっと薄い色になってしまうのだろうと思うのでした。少年にとって、壁は白いのです。
コメント
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ふ、深い、、、
含蓄に富んだ文章と独特の文体が素敵です✨フォロー失礼します。