「シャチさん大丈夫ですか?」
少し赤みがかった髪の少女がいう。
急に声をかけられたので「え?」とつい口からこぼれてしまった。
「その、頬に擦り傷が…」
擦り傷?
あァ、気づかなかった。言われてみれば頬に微かな窪みがあるような気がする。
「痛くないし、大丈夫だよ。多分」
でも、と少女は心配そうにしていた。
「アリスちゃんは優しいねぇ」
不安気な様子だった。
だがシャチは何を言われようと、決してこれは君のせいじゃないよ、と宥める。
「…そういうシャチさんも優しいですね」
…そんなことないよ。俺は、君の言うようなの人間じゃない。優しくなんてない。
俺は、只…。
勝手に頭の中で、勝手に否定する。
俺は馬鹿だから何も分からない。
ねぇアリスちゃん、
「キャプテンの所、行かない?」
誤魔化すように、話題をすり替える。
ローは今、ベポとペンギンと3人でトランプをしていた。
「ローさんの所?どうして?」
少女は不思議そうな顔をして問う。
「ほら、トランプとかしてて楽しそうだしさ!」
たしかに。と納得した様子で頷いていた。
「トランプなんて、久しぶりに見ます」
少し、頬を赤らめてシャチに笑いかける。
その笑顔を目の当たりにして、シャチは、自分の今までの苦悩もすべて吹き飛ばされるようなそんな清々しさを感じた。
あァ、君は優しすぎる。
君が犠牲になんてなっちゃいけない。
シャチは、少女の事を見ると どうしても彼女の幸せを願ってしまう。
「可愛い…」
──つい言葉がこぼれ出てしまった。
驚いた様子で目を見開いて、シャチを見つめる。だが少女は嫌な目はひとつもせずに、寧ろはにかむような笑顔を見せた。
「ありがとう、シャチさん」
その眼は、光に満ち満ちていた。
「行きませんか?ローさんのところ」
少女から絶えず放たれる眩い光に戸惑いながらも、俺は「うん」と答えた。
すると少女の小さな手がシャチの手と重なり、引かれる。一瞬のうちに惹かれた。
不可抗力だった。
少女に身を委ねて、シャチはローたちのいる所に行く。
俺は、君にかけがえのないものを貰った。
それは、両手から零れ落ちそうなほどの幸福感。でもあばらの奥がどうしようもないほどの激痛に至らしめる何か。まるで、刹那にはしる電撃のようなもの。
痛いのに、泣けない。
痛いのに、拒めない。
痛いから、麻痺して笑う。
訳が分からない。何ともあやふやな矛盾だ。
この病の名前はなんだ?──知りたい。
この病の原因はなんだ?──それも知りたい。
でも、この症状に、ひとつ。
ひとつだけ心当たりがあったんだ。
だが今にそれを口にすると、この原因不明の病も十二時の魔法の如く脆く儚く消えてしまいそうで仕様がない。
誰か、治してくれよ。
考えるだけで胸がぎゅっと締めつけられる気がした。
「アリスちゃん」───「ありがとう」
すると、君はふっと笑ってみせた。
俺は只、君の笑顔をこの眼に映せるだけでいいんだ。それだけで幸せなんだ。
あァ、神様どうか。
あの子が悲しまずに幸せになれることを。
コメント
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神作品すぎてトんだ