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梨奈は静かに動いていた。
目立たず、名を偽り、存在を風のように隠して。
目的はひとつ――自分を殺した“あの男”を見つけ出し、消し去ること。
だが、その夜。
彼女は、思いもよらぬ“違和感”に触れる。
地下の古書店――表向きは廃業したその場所には、闇情報を扱う帳簿がひっそりと眠っていた。
帳簿に記されていた「異能力者失踪事件」。
その中のひとつに、梨奈の目が留まった。
『対象:飯塚 紅音(いいづか あかね)/女性/年齢17/異能力:時を“停止”させる視線(詳細不明)』
『死亡推定時刻:×月×日深夜』
『発見場所:横浜北岸・倉庫街』
『死因:心臓刺突。脳幹にまで達しており即死。遺体は異能痕消失処理済み』
梨奈の手がぴたりと止まる。
その日付。場所。手口。
すべてが自分の“死”と酷似していた。
「……待って。うちが殺されたんは、その夜……倉庫街の近く……」
そして、もう一枚の記録。
監視映像の静止画には、遠巻きに映った黒コートの男の姿があった。
顔は隠されていたが、手の動き、姿勢、その“気配”が、記憶の奥に刻まれている。
「――同じ奴や……」
梨奈の中で、復讐心とは違う感情が立ち上がった。
これは、ただの“恨み”ではない。
奴は、他にも殺している。
もしかすると、もっと。
「このまま黙ってたら……また誰か、殺されてしまう……」
その瞬間、梨奈の足が止まる。
彼女の中にあった「個人の死を晴らすためだけの生」が揺らいだ。
“あの男”はただの殺し屋ではない。
異能力を狙って、“選んで”殺している。
まるで実験でもするように。
「……これは、狩り。異能力者を狙った、冷たい収集……」
梨奈は背中に悪寒を感じながら、帳簿を閉じた。
「このままじゃ、あいつを殺しても終わらん……」
復讐の刃は、その先にある“もっと大きな何か”へと向けられ始めていた。