一体、何がどうなっているのだろうと考える間もなく、今度は赤髪短髪の男と比較的体格のいいスキンヘッドの男が二人同時に黒髪男に殴り掛かっていくも、
「はいはい、もういいって」
双方から交互に向けられた拳をいとも簡単に避けると、逆に二人の男のみぞおちに拳を入れて、殴り掛かっていった二人の方が崩れるように倒れていく。
「さてと、後はアンタだけだけど……どうする? そいつを置いて行くってなら、アンタだけは助けてやるけど?」
そして、詩歌を抱きかかえていた金髪ロン毛男のみが残され、黒髪男は彼に選択を迫った。
「ッチ! 分かったよ、女は置いてく!」
追い込まれて勝ち目がないと悟った金髪男は詩歌を降ろすと、蹲っていた男たちがフラフラと立ち上がるのを確認して、仲間たちと共に逃げるように去って行った。
降ろされた詩歌は力が抜けて立てずにその場にしゃがみ込んでしまったので、黒髪男はゆっくり近付いていくとその場に屈み、「大丈夫か?」と今にも泣き出しそうな詩歌の顔を覗き込みながら優しく声を掛けた。
「……あ、りがと……ござい、ます……」
「良いって。それよりさぁ、キミ、一人でしょ? 何でこんな場所に来たの? こんな物騒なとこ、女が一人で来たら危険だって分かるよね?」
「……す、すみません……気が付いたら、道に迷ってて」
「道に迷った? それで、何処に行こうとしてたわけ?」
「……その、特に、宛はなくて……ゆっくり休める所を探してて」
「ゆっくり休めるとこ? ホテルって事?」
「いえ、その……お金があまり無いので、ホテルは……」
詩歌の言葉に、男は思わず顔を顰めた。
彼がそう思うのも無理は無い。詩歌はお金に困っているようには見えず、荷物も小さなバッグだけで、旅行に来たという感じでも無いから。
だとすると考えられるのは、誰かから逃げているとか家出をして来たという訳ありな状況が一番しっくりくるだろう。
「ワケありなんだ? もしかして、男がDV野郎とか?」
「いえ、その……そういうのとは違うんですけど……ある人から逃げているのは、確かです」
そして彼の睨んだ通り、詩歌が誰かから逃げて来たワケありさんだという事がハッキリする。
「ふーん、逃げて来た……ね。ようするに行き場が無い訳だ。それじゃあさ、ひとまず俺の家においでよ」
「え……」
「行くとこないんでしょ?」
「は、はい……。でも……」
彼の発言に詩歌は戸惑った。助けてくれた良い人ではあるけれど、よく知りもしない彼を信じていいのか分からないから。
そんな彼女の不安を察した男は、
「平気だよ。何もしない。膝擦りむいてるし、とりあえず手当した方がいい。俺を信じて付いて来なよ」
どうにか詩歌に安心してもらおうと説得する。
(……不安はある、けど……ここで一人になるよりは、マシだよね?)
彼に説得されて彼女なりに悩み考えた末に、
「あの……よろしくお願いします」
助けてくれた紳士な彼を信じて付いていく事に決めた。
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