司と類が死んだ。その報告を受けたのは、あの二人が珍しく2人で出かけた日から2日後だ。類は他殺、司は自殺のようだ。それ以上細かく聞くと、脆くなった心が壊れてしまいそうできけなかった。その日の放課後は、ワンダーステージでえむと泣き続けた。涙は枯れることなんて知らない。止まることの無い涙を濡れたハンカチで拭き続けた。
類は首を絞められ、司は電車に轢かれて死んだ。
それから2日後。類の作業部屋……ガレージに足を運び、ロボットのメンテナンスを類の父親から学びながら、自分の手で行っていた。類はもういない。ということは、もうロボットをメンテナンスしたり作ったりしてくれる人はいない。せめて類が大事にしてきた子たちだけでも、という思いから類の父親に教わり始めた。そして今日は、その一日目だ。
外からインターホンが鳴り、声が聞こえる。一度聞いたことがある。司の両親の声だ。少したって類の母親の声も聞こえ、何故かガレージにいる類の父親と私を呼びに来た。目を真っ赤に晴らした司の両親。今にも泣きそうになるのを堪えながら、私たちの方をしっかりと見て
謝罪をした。
その後の様子は、何も記憶に残っていない。
薄々と感じていた。それでも、辛いものは辛いもので。両親が頭を下げる理由は、一つだけだ。類の両親が怒る理由は、一つだけだ。言いたくもない、考えたくもない。
類を殺したのは司だった。
ねえ、なんで類を殺したの……?
類の部屋に今日もお邪魔する。類と司が亡くなったことを教えられ、司の両親が謝罪しにきて。その後に葬式も行われて。写真の中にいる類を見て泣いちゃって。それから1週間が経って。私は未だに、前に進めそうになかった。類の部屋にいる時間が日に日に増えていき、比例するようにロボット達を愛でる時間も増えていった。
「…なに、これ」
流石にこんなに散らかっていると、いつか怪我してしまうかもしれない。そう思って、類の部屋の片付けをしているときだった。設計図の書かれた紙や演出案の纏められたノートの山に埋もれていた、1冊のノート。開いてみると、そこには類の綺麗な文字が散らばっていた。
『とある街に、1人の魔法使いがいました。彼は人々を笑顔にしようと、魔法を上手に使ってショーをしていました。そんな彼のことを、街の人々は【神の愛し子】と呼びました。才能溢れる彼を上手に例えたのです。』
ショーの脚本だった。聞いたことも見た事もないお話だから、これはきっと類が考えたものだろう。続きが気になり、私はその先を読み続けた。魔法使いはショーをしていて、ある日1人の見習いの魔法使いに会う。親のいない子を彼は拾い、共にショーをする。これで終わりかと思ったが、違かった。まだこのお話は続いている。
『美しい花も、いつかは枯れてしまう。才能溢れる魔法使いの才能も、同じでした。以前のように人々を笑顔にできなくなってしまった彼は、それでも折れずにショーを続けます。それを見た見習いの魔法使いは、元気になってもらおうとショーを1人でします。』
『彼のショーは素晴らしいが、魔法使いの考えるショーの演出にそっくりで、魔法使いは彼をクローンのようだと例えました。目に前にいるクローンを見て、魔法使いは笑顔で言います。』
『「素敵なショーだね」』
この台詞のとこだけ、インクが滲んでいた。濡れたような後があったから、そのせいだろう。読み進めれば進めるほど、胸の中にできた嫌な予感は大きくなっていく。少し似ているんだ。いや、少しじゃない。彼の書いた脚本と同じように言えば、これは私の知っている彼らの人生をそっくりに移したもので………、
震えた手からノートが落ちる。二度と聞けることのなかった、彼らの間にだけあった出来事。謎に包まれた真実。これを読む前は司本人に聞きたくて仕方がなかった。それなのに、この脚本を読んでからは知りたくなかった、という後悔に襲われた。涙は止まらない。いつまで泣けば、寧々の涙は枯れるのだろうか。止まることを知らない涙は、学ぶことなく溢れ続ける。頬を伝い、震えた手に落ち、そしてノートに。少しづつ跡を残していく。
もう続きは読まなくても、大体想像できた。悲しいお話だ。そしてそのお話の裏を知ってしまったから、更に悲しい。ノートを抱きしめ声を殺して泣いた。泣き腫らした目で類の両親にお邪魔しました、と挨拶して出ていく。逃げるようにして部屋へ駆け込み、少し折れたノートを捲る。恐ろしくても、見なければ。何も知らないまま、司を責めたくない。類にだけ同情したくない。私と、司と、類だけの秘密。周りは何も知らなくていい。
彼らの悲しくて、儚くて、そして切ない恋物語は、彼らの間にだけあればいい。
知ったところできっと何も変わらない。類の両親は悲しいままだし、司のことを恨んだままかもしれない。司の両親だって変わらない。まず、これが本当かどうかを伝える術もない。
だから、これは誰も知らなくていい。
コメント
3件
まじで表現が大好きすぎる…(「