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翌日、朋凛 駿に車椅子で連れられたのは、病院の近くの駅広場。そこの中央の広場で人だかりができていた。
「楽器の音が聞こえる…」
「あぁ。バンド『rubato(ルバート)』だ。」
「rubato?」
「そうだ。お前が寝ている間に結成された3人のバンド。高校生だったか。近くの花咲高校の奴らだ。」
朋凛は、なんの躊躇いもなく人だかりを超え、3人に近寄る。僕を置いてけぼりにしながら。
そして、なんの会話をしているとかは分からなかったが、朋凛と中の人たちの会話が始まると、さっきまで歓声をあげていた観客たちが去っていく。彼らに用事だろうか。
「待たせたな。」
「ごめんね〜待ってたら演奏したくなって。」
背の低い男の子が後ろの髪をわしゃわしゃとかき乱しながら近寄ってくる。
「僕は、海良 凪央(かいら なお)。rubatoのボーカルとベースをやってるんだ〜。」
本当に高校生かと疑うほどの背の低さに少し驚いたが、パッと明るく笑う凪央君は、少し塁に似ている気がした。きっと塁も生きていたら彼らぐらいの年だろうな…。
「葉月 和音(はずき ともね)。ギター、作詞作曲をしてます。よろしく。」
こちらも人当たり良さそうな笑顔で、グイグイと迫ってくる凪央君を止める和音くん。苦労性…かな?
「時灘…織音(ときなだ しおん)。ドラム。」
後ろから大荷物を持ってくる細い体に白い肌という明らかにインドア派のかれは、そっぽを向いて話す。首には、ヘッドホンをかっこよくかけている。
「夜芽 癒月です。」
「ねぇ!クロパレ、入れてくれるんだよね?」
僕の自己紹介をすっ飛ばしそうな勢いで聞いてくる凪央。すごくキラキラした目で見てくる。
「クロパレってclover palet(クローバーパレット)のこと?」
「そうそう!駿兄が入れてやるって言ったから。」
状況がイマイチ分からないのだが、一応整理すると、クロパレとはかつて父が運営していたステージハウスだ。ライブハウスを少し大きなものにしたところだと考えてくれればいい。父が運営している時は、バンド、ダンス、演劇など、様々なジャンルのユニットが毎週公演をしていた。
『ステージでこの世界を幸せ色に染める』
とか何とか言って。父は、優しい性格だったので、すぐに人は集まってきたし、暖かいステージハウスだったと思う。
「お前に言ってなかったが、お前の入院費は俺が立て替えておいた。クロパレの管理費もだ。3年も眠っていたやつがつける仕事も簡単には見つからないだろう。」
つまり、立て替えた借金をクロパレ運営で返せってこと…か。
「そして、手始めに彼らをスカウトしておいた。ゼロから始まるよりかはいいだろう。」
もう拒否する暇も、突っ込む暇もない。
「退院手続きはもうしてある。サポートはしてやるから、やりたいようにやってみろ。」
少しドヤ顔で駿は僕を煽ってくる。少しニヤついた笑は、少しイカつい顔である駿は不敵な笑みにしか見えない…。
それでも僕にも拒否権はない。それに、クロパレは、僕の夢だった。父のようにみんなから愛される場所を作りたいと思っていた。
「いいでしょう。クロパレの支配人、承りました。」
「rubatoの皆さん、まずはオーディションさせてください。」
「…!やったー!」
凪央の小学生のような喜び方に2人も少し微笑む。
こうして、僕はクロパレの支配人になった。