👾👑 愛執
黒というより濃紺や濃色と呼んだ方が似合いそうな空に、薄黄色の満月が浮かんでいる。久しぶりに1人の夜に、ベランダで月明かりに照らされて紫煙をくゆらせていた。
「月が……綺麗ですね」
夏目漱石の逸話が有名な愛の告白の言葉…。肺に入れていた紫煙をふぅと吐き出しながら、呟いた。聞いて欲しい人は今ここにいないのに…。
「死んでもいいわ」
「え?」
そこに居ないはずのニキの声が聞こえてびっくりして振り返った。ベランダの窓のところにはニッコリと笑いながらニキがたっていた。
「お前、よくその返し知ってたなw」
「俺もそこそこ出来るんだよ?w」
「しってたw」
この返しが出来るのはきっとニキしか居ないだろう。俺はこういう会話が出来るから、ニキといるのが楽しいと思っていた。付き合う前からだった。気づいたらコイツが隣にいるのが当たり前になってて、付き合い始めたら誰にも見せずに閉じ込めてしまいたいと思うほどに独占欲が湧いてきていた。
この気持ちは、きっとこれから大きくなっていくニキの邪魔になる。俺はそろそろ潮時かもしれないと思い始めていた。
「また…1人で勝手に決めようとしてるでしょ?」
「なんで分かるん?」
「俺がボビーのことどれだけ見てると思ってるの?」
「なんや、心の中覗かれてるみたいやなw」
離れようと考えていたことを言い当てられたようで、少し驚いた。でも、分かっていてくれてるなら切り出しやすいかと思い、新しいタバコに火をつけた。
「なぁ…そろそろ別れよっか」
「え?なんで?」
「んーなんて言うたらええなかぁ…」
「俺の事きらいになった?それとも飽きた?」
「飽きるわけないやろ…嫌いにもなれへん」
じゃあなんでだよと吐き捨てるように言うと、タバコの煙が苦手なくせに、ベランダに出てきて俺に抱きついてきた。俺は手に持っていたタバコを落としそうになり、慌てて持ち直した。
「危ないやろ。落とすとこやったわ」
「そんなんしらない!なんで別れるなんて言うの?」
「それは…」
冷静に話そうと思っていたのに、ニキへの想いが溢れ出して、目から涙がこぼれ始めた。泣いたらあかんって思ってたのに、止まらない…。それに気づいたニキが、両手で俺の頬を捕まえて俺の頬を伝う涙を舐めとった。
「泣くくらいならこんなこと言わなければいいのに」
「だめなんよ。俺はお前には明るいところにいて欲しいんや」
「ん?どういうこと?」
「俺…お前を独り占めして閉じ込めたいって思ってしまう…」
「ふふ♡執着心すごぉ♡」
俺の気持ち悪いほどの執着心を、なぜか嬉しそうに笑うニキ。離れられなくて重たすぎる執着心に堕ちていくのは俺だけでいいのに。なぜかニキは笑っている。
「お前を俺のいる所まで堕とす訳には行かんのよ」
「なんで?」
「恋愛は楽しむもんやろ?」
「俺は重たすぎる感じすきよ?」
「お前は堕ちたらいかんのよ」
この地獄にいるのは俺だけでいい。そう呟くと、キスで唇を塞がれた。それに身を任せ、されるがままになっていると、そっと唇を離したニキに息がかかる程の距離で見つめられた。
「俺も結構愛、重たいんだよ?」
「でも…」
「ボビーが堕ちる地獄なら、俺も一緒に堕ちる」
「いや…やから…」
「地獄に堕ちて、ドロドロに溶けてどっちがどっちか分からないほどに混ざりあってしまいたい」
「ニキ…」
俯瞰して聞くとすごく怖いことを言われてるんだろうけれど、俺にとっては何より嬉しい言葉だった。俺は、ニキの腰に手をまわして強く抱き締めた。
「じゃあ、俺と一緒に…堕ちてくれるか?」
「ボビーと一緒ならどこまでも…」
「堕ちよう…地獄の底まで…」
本当は良くない関係性なのかもしれない。でも、似たもの同士の俺たちは、離れることが出来ないのかもしれない。このまま2人で溶け合ってしまっても構わない。俺たちのあゆむ道が地獄でも構わない。コイツと2人なら、どんな地獄も進んでいける。
コメント
6件
重たいのいい…!2人で堕ちてくれ
こういうドロドロした恋愛好き