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夏も序盤、様々なパーティが編成されるキルロンド学寮では、練習試合のような決闘が盛んになってきていた。
しかし、”魔王の娘” と “王族” を率いる、ヒノトのパーティ “DIVERSITY” に声が掛かることはなかった。
「クソッ!! 俺も試合やりたい!!」
「仕方ないでしょー。誘いも来ないし、私たちから行ってもみんな拒否されちゃうんだから」
横目に悔しがるヒノトを見下ろすリリム。
最近では、めっきりリゲルの姿を見掛けなくなっていた。
「リゲル……少し前から授業にも来てねぇなぁ……。何週間、顔見てないんだろ……。名前はあったから、辞めてはないんだろうけど、何があったんかなー……」
「リゲル…………」
リリムは、寮の階段で言われたことを思い返す。
当時は、自分のことだけで深く相手の言葉を考えていなかったが、今のリリムならあの言葉の真意が分かる。
「私……先生にあまり名前を呼ばないようにお願いしていたの……。それをリゲルは知ってた。その時は早くその場から逃げ出したくて考えてなかったけど……今考えてみたら、そんなことを知ってるなんて、『リゲルも同じだったから』としか思えない……!」
「え…………つまりどういうこと…………?」
「要は、私たちリゲルの “ファーストネーム” しか知らないじゃない! ってこと!」
ヒノトは途端にハッとする。
今まで、考えたこともなかった。
「そうか……。名乗る時、俺は『ヒノト・グレイマン』って言うし、先生もあんまりフルネームで呼ばないから気付かなかったけど、アイツのラストネーム……一度も聞いたことない…………」
その後、教員室へ聞きに行ったが、本人の意向により勝手に教えるのはNGだと帰されてしまった。
廊下をトボトボと歩く二人。
「どうすんのよ、リゲルのこと…………」
「考えたんだけど、知られたくないってことは、知られたくないってことだろ?」
「はァ? 何当たり前なこと言ってんのよ!」
「あ、違う! そうじゃなくて……。アイツが、俺たちにも知られたくないことなら、俺たちがそれを無視して知ろうとするのって、どうなのかなってさ」
「それは…………まあ……そうね…………」
「だからこの話はおしまい! きっとアイツもパーティ組んで忙しくしてんだろ! これからさ、闘技場行こうぜ! どんな奴らが戦ってんのか見てみたい!」
そして、ヒノトはニカっと笑った。
「ハァ…………これか…………」
その姿に、リリムは大きな溜息を零す。
リゲルの伝えてきたことをしっかり理解した。
「あ? なんだよ?」
「いーえ、アンタといると、めげてる暇がなくて疲れるなーって話よ!」
そのまま、バシバシとヒノトの背を押し、そのまま二人は闘技場へと足を運んだ。
闘技場は、トレーニング施設などと並び、広大な敷地を有しており、公式戦でも使用される為、観客席も数百〜数千人が座れるようになっていた。
「うおー! デケー!!」
ヒノトがいの一番に来そうな場所だが、初旬の勝手な行動を抑える為、夏まで立ち入り禁止となっていた。
「今は誰がやってんだろう!!」
「えっと……ここに書いてあるみたい。今、13時だからここね。えっと…………『風紀委員』VS『ANARCHY』。学寮の風紀委員のパーティが戦ってるみたい」
「あー、規則取り締まってる奴らだろ?」
そのまま、雑談しながら客席への階段を登る。
「ハハ、規則取り締まる奴らもブレイバーゲームやるんだなぁ…………」
歓声が轟く中、他愛もなく話しながら闘技場内を見渡した瞬間、二人の言葉は切られた。
『 ーーーー 風紀委員、渾身の二連勝!! ただいま大将を伏したのは、一年生、リゲルーーー!!』
会場は、ウワッと盛り上がる。
「リゲル…………!!」
「噂をすればなんとやら……でも…………」
二人は、唖然とその姿を眺めることしかできなかった。
その容姿は、真っ赤な髪色から変色し、中心から黒い髪が少しだけ覗かせていた。
「リ、リゲル……元気そうだな…………。あ、ふ、風紀委員に入ったんだな…………」
動揺するヒノトに、リリムは目を見開いてヒノトの言葉に返答しなかった。
「ヒノト…………リゲルから…… “魔族の魔力” を感じる…………」
「は…………? だってアイツは、炎属性で…………」
しかし、ヒノトの目にはハッキリ、黒髪が紛れているのがチラチラと映り込む。
その内、風紀委員長 カナリア・アストレアが、マイクを握って闘技場の中央に現れた。
「今この場に居る学生諸君。我々は『ブレイバーゲームという競技を廃止する』。それに従い、『全てのパーティを我々自らの手で敗北させる』」
そう言うと、キィン……とマイクの電源は切られ、リゲルを含めた風紀委員の四人は去って行った。
「我々が全パーティを敗北って……無理でしょ」
「でも、この前の試合で、三年生の強豪パーティを下したらしいよ……」
観客席が騒然とする中、ヒノトは駆けた。
「待ってよ、ヒノト…………!」
「リゲルが…………リゲルがなんか変だ…………!!」
「それは分かるけど…………!」
!!
ヒノトの前に立ち塞がったのは、
「レオ…………!!」
王子 レオ・キルロンドだった。
「貴様に話がある。愚民……」
「今はお前に構ってる暇はねぇんだ、退けよ」
レオはいつもより落ち着いた素振りを見せていた。
むしろ、一触即発に冷静さを欠いているのは、ヒノトの方だった。
「あっ、あのーーっ!」
その場を割り込むのは、レオのパーティメンバー、一年生のシールダー、ファイ・ソルファだった。
「ヒ、ヒノトさん…………今まで、レオ様と因縁があったことは聞いていますが、どうかお話を聞いてください…………」
レオのパーティメンバーとは、まるで思えないビクビクとした態度に、ヒノトの熱は少し冷めた。
「私は、公式戦で、愚兄諸共、貴様らパーティを下すつもりだ。だが、風紀委員は、公式戦が始まる前に、この学寮からブレイバーゲームを消すつもりでいる」
「んで…………だから俺に何の用だよ…………」
「リゲル…………。貴様の友人だな。私も、以前の魔族討伐の折、少しだけ共に行動した」
「あぁ、聞いたよ。お前の馬車に乗って行ったって……。だから急がなきゃならねぇんだ!!」
レオは、ヒノトの目を真っ直ぐに見つめる。
「奴が使っていた剣術魔法、“炎魔剣” 。アレは、義賊 スコーンの使う剣術魔法だった」
「は…………? じゃあ、リゲルの名前って…………」
リリムは、先に全てを察し、苦い顔で俯く。
「リゲル・スコーン。魔族と契約した大罪人の息子だ」
「スコーンの…………息子…………。でも、いや……は……? じゃあ、なんでアイツは風紀委員にいて、ブレイバーゲームを廃止させようとしてんだ…………?」
「落ち着け。今のリゲル・スコーンは、貴様らと関わっていた頃とは違う。風紀委員長………… “元王族” の、カナリア・アストレアにより “洗脳” されている」
「 “洗脳” だって…………!?」
「そうだ。カナリア・アストレアは、雷属性のウィザードだ。この齢にして、上級職を獲得しているのは、この国では奴だけだろう」
「ウィザードって…………魔法職のメイジの上位職か。それに、王族の力で洗脳魔法も強力…………」
「言いたいことは分かったな。私と貴様が対峙する前に、再び、我々の前には打ち倒すべき敵が現れたのだ」
そう言うと、レオは短剣をバチバチと光らせ、ヒノトの前に掲げた。
「この私自ら、貴様を鍛えてやる。まずは、“防御魔法を破壊” できるようにならねば、話にならんからな」
「ちょっと、勝手なこと…………」
リリムが制しようとした言葉は、満面の笑みを浮かべさせたヒノトによって切られた。
「マ、マジ!? いいのか…………!?」
「ヒノト…………!」
「リゲルを救うには、カナリアを倒す必要があんだろ? レオの言う通り、防御魔法を破壊できる力は、ソードマンの俺には必要になってくるし…………何よりレオは強ぇからな! 王族で魔力量もあって、剣術も強い奴から教えて貰えるなんて、ラッキーじゃん!」
ヒノトは笑うと、レオの目と真っ直ぐに向き合った。