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被災した民の為に、炊き出しを行う者達には、この二日、小さな楽しみがあった。その小さな楽しみは、人々が順番に並ぶ列の中に存在した。老婆に温かい穀物だけの煮汁を提供すると、次にニュウと小さな木製のコップが目の前に現れた。


「ハイハイ、牛の乳だね。熱いからゆっくりと舐めるんだよ? 」


誰が教えたのか、黒く長いモフモフの尻尾で器用にコップを持ち、乳を注ぐ間、ニャウニャウと何かを訴えている。


『はやくよこすれすッ うちのウシはチチがないのれす おなかいっぱいよこすれす』


「何だい? 何言ってるか分からないよ」


キラキラな瞳が、傍に居た兵士達の心を簡単に砕いた。


「クッ、しっ、仕方ねぇな…… ほれっ」


兵士は小さな籠をギアラの首に掛けると、戦地では貴重な林檎を二つばかり入れた。


「ニャウ~ 」


『うれしいのれすッ』


「イヤッ、いいって事よ。明日も来いよ? 」


当然言葉など通じる訳も無く、頬を撫でてやると満足そうに尻尾を高く上げ、ゴロゴロと喉を鳴らして黒豹は去ってゆく。その光景を見ていた者達は、自身の荒んだ心が、今だけはほんの少しだけ洗われた気がした。




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すれ違う人達が見守る中、テチテチと意気揚々と手柄を携え、ギアラが治癒院の中庭へと戻って来ると、寝息を立てる巨大な牛の鼻っ面にペチペチと猫パンチを繰り出す。一向に目を覚まさない牛に呆れるも、突如、牛の鼻の穴から現れた巨大な鼻提灯に目を輝かせる。


どんどん巨大化する鼻提灯に移り込む自身の姿を見つけると、徐々に顔がぐにゃりと歪んでゆく。首を傾げ傍観するも、到頭《とうとう》堪《こら》え切れず、ギアラは飛びつき牛の鼻に噛み付いた。


「がぶぅ~ 」


「いてててて、何するんだ坊」


「ごはんもらってキタのれすッ ホメめろれすッ 」


牛はハイハイと面倒そうに立ち上がると、ベロンベロンと牛タンで以ってギアラの顔を舐め、褒め讃えた。


「偉いなぁ、偉いぞ坊、流石坊だ」


「うわぁ、やっぱりホメなくていい、キちゃない」


シュンとする牛に対し、首から下げた籠を乱暴にドスンと下ろすと中から林檎が飛び出す。


「エサなのれすッ くえ」


牛の目にはドヤ顔の黒猫が可愛くも憎たらしくも映る。


「これは果実? 昨日も果実だったぞ? おじちゃん肉が食べたいなぁ、人族は草しかくれないし」


がっかりした様子で四本の脚をたたみ、腹を地に付け、口の周りを乳だらけにした小さな黒猫に不満を述べた。


「ウシがたべたいのきゃ? ジブンもウシなのに? 」


「いや、別に牛が食いたいなんて言ってないよ。お肉にもホラ、色々と有るでしょ? 鶏肉とか。そもそもおじちゃん牛じゃ無いからね、今は牛だけど」


牛は転がった林檎にムシャリとかぶりつく。


「でも、ウシがたべたいのきゃ? 」


「だから違うって、共食いになっちゃうと何か罪深いでしょ? あれ? それって俺が牛って自分で言ってる事になっちゃうのかな? 」


「ウシのニクはウマイのれすッ ヒトゾクがくれたからたべたけど、くちのなかでとけたのれすッ」


ギアラのお口はダラダラと乳と唾液で溢れていた。


「だからっておじちゃんを齧《かじ》ったらダメでしょ? 」


「ウシがたべたい」


「やだ怖いこの子」


―――かぶぅ‼


「いてててて、やめなさい坊、おじちゃんは食べ物じゃ無いよ~ 」


軽く鼻で小突くとギアラはゴロゴロと転がって行く、そんな様子を見ながらアステリオスはあの夜の事を考えていた。


坊はあの怪しい者を敵では無いと行っていたが、あの妖気を放つ剣は間違いなく憑剣だった。憑剣を持つ者は、人界の尊天神《デミゴッド》の闇烏《眷顧隷属》に違いない。だとすれば八剣の内の一振りの可能性が……


すると―――


ズシンと僅かな地響きが治癒院の中庭を揺らす。その僅かな振動はゆっくりと、そして確実に一定のリズムを伴い近付いて来る。近付く程に振動は大きくなり、それと同時に治癒院の外に居る人々の歓声が大きく沸き起こった。


「うにゃあ? 」


「何だ? この地響きと騒ぎは…… 」


ひっくり返って臍《へそ》を見せていた黒猫が興味を示し飛び起きると、尻尾をピンと立て治癒院の外に飛び出して行く。


「ぼっ、坊――― 」


「ウシはまってるのれすッ オレがみてくるのれす」


丁度、治癒院の煉瓦《れんが》で形成された尖頭アーチ《オジール》を潜り抜けた時だった。目の前を、丸太よりも、もっと太く硬そうな、岩のような脚と思われる物がゆっくりと、あんぐり口を開けるギアラの視線を越えて行く。


「ほわぁッ でっけぇのれすッ なんなんなんなんれすかぁ? 」


びっくりしたギアラはその場でペタンと尻餅《しりもち》を搗《つ》く。するとその巨大な生物は、周りに詰め寄る者達の鼓膜に、衝撃的な鳴き声を残す―――


「ファオ~ン‼ パァオ~ン‼ 」


其々が、豪快に砂を巻き上げ、巨大な丸太を運ぶ為の特殊な長い荷車を牽いている。


「このままゆっくり前進。人を踏まぬ様、像使い《フィール・サーイク》は注意を怠るなよ? 」


黒い見慣れない民族衣装を着た兵士とみられる男が叫ぶ。次々と列を成し現れる、迫力のある象《フィール》の隊列に対して、復興への兆しを見た人々は歓声を挙げる。


「はわわ――― 」


初めて見た巨大な生物に腰を抜かしたギアラの後ろから、牛が声を掛けた。


「坊は象を見たのは初めてか? 」


「ゾウ? 」


「アレは象と云う生き物だ。この人界ではその大きさを生かし、戦《いくさ》にも連れ出しているらしいゾゥ。戦《いくさ》用の象は戦象と云うらしいゾゥ」


チッ‼―――

―――がぶぅぅぅ


「あいたたた、齧ったらダメ――― 」


「なんかイライラしたのれすょ。やってヤルのれすッ 」


「やってくれなくていいから、落ち着きなさい坊、いてててて」


象を前にギャアギャア騒ぐ二匹に対し、五月蠅いとばかりに戦象が長い鼻で大量の砂をドバッとかけた。


「あぎゃああああ」


二匹はあっと言う間に砂まみれになると、反省を促され漸く静かになった。今度は二匹の横を、駱駝《ラクダ》の隊列が通り過ぎる。


「こいつらもミタことナイいきものれす」


「此奴等は駱駝《ラクダ》と云って、砂漠地域に適した身体能力を持つ動物だ。騎兵として使われる事もあるが、その際は、身体も大きく力も強い気性の荒い雄《ジャマル》が使われる。雌《ナーガ》は性格も穏やかで乳も出る為、長距離の砂漠横断や行商等に使われてる。その他、物資輸送や兵站支援等は、状況によって使い分けているみたいだな」


「チチがでるのきゃ…… ゴクリ」


すると一頭の駱駝《ラクダ》がギアラの顔を睨みつける。


「ななな、なんだぁ? なんれすかぁ? ヤルれすかぁ? 」


フ~っと背中の毛を逆立てるギアラに対し、一頭の駱駝《ラクダ》はふんふんとギアラの顔を覗き込み値踏みをすると、ニヤリと馬鹿にした表情を示し『カァ~ペッ‼』っと顔面目掛けて唾を飛ばす―――


「ぎぃやあああああ――― 」


正に一瞬の出来事だった。音速を軽く超えた汚い駱駝《ラクダ》の唾が、的確にギアラの顔面を悲しくも捉えた瞬間であった。


「坊が雌《ナーガ》の乳をいやらしい目で見ていたから雄《ジャマル》が怒ったんだろ」


「ゆゆゆゆゆッ ゆるすまじぃ――― なのれすッ チチはみんなのモノれすッ 」


「イヤ…… 赤ん坊のもんだろ普通…… 」


ていやぁ~と飛び掛かるギアラに対し、駱駝《ラクダ》は軽く後ろ脚でポ~ンと蹴り上げる。ごろんごろんと激しく転げる毛玉が次に続く象の太い前足に衝突すると漸くその身は止まった。


「はぁはぁ――― ナカナカてごわいのれすッ 」


追撃を仕掛けようとギアラが飛び出そうとした時だった。象の長い鼻がギアラの尻尾を掴み持ち上げると、象が興味有り気にマジマジと覗き込む。


ブランブランと逆さに吊るされたギアラが騒ぐ―――


「なにするれすかッ はなせぇ~ はなすれすッ おまいもカジッてやるのれすッ はなせぇ~ 」


暴れるギアラに象はゆっくりと地表に戻してやると、今度は長い鼻をギアラの顔面にスポンと押し付け、クンクンと臭いを嗅ぎ始める。


「むぐぐぐぅ―― ぐるじいのれぶぅ――― ずわれるぅ」


ギアラの顔面がどんどん象の鼻に吸い込まれて行く―――


「坊――― 」


此処で漸く牛が声をあげると、漸く象は鼻を離した。


「坊だと――― 」


思わぬ象の一言に、二匹が驚愕の表情を浮かべると、続けて象が語り出した。


「どうりでその妖気。只の黒豹ではないはずだ。よもやこのような所で出会えるとはな。久しいな坊――― ヌシもこちら側へ飛ばされたのか? 」


ぽかんと口を開ける二匹に対し首を傾げる象は言葉を続ける。


「どうした? 儂の声が聞こえんか? 」


漸く状況を理解した黒猫は長い尻尾で象の鼻をペチンと弾くと、面倒くさそうに言葉を吐き捨てた……。


「ゾウがしゃべってるれす」







懐旧の友と邂逅せし刻、幽かなる兆しの萌しき。荒涼たる世にあって、忍び寄る翳は、誰が謀なるや。未だ見えざる黎明を前に、冥鴉は聲を放ちて、不吉を告らしむ。

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