青井君が硬い床の上で眠っている様子を視野に入れ、彼の部屋と思われる周囲を見渡した。
部屋の中の時を刻む丸時計が示す午前5時半過ぎ。
眠っている間に部屋に連れ込まれたのは初めてのことで、寝起きの頭でなんとか現状を把握しようとしてみたは良いものの、意外とすんなり整理される技術は久々の睡眠を大いに活用しているらしい。
床でなんとも言い難い顔をしながら眠っている彼を踏み潰さないよう、部屋を抜け出す。
どうやら彼の部屋は二階に位置しており、部屋の前には他の人間が使用するであろう寝室や書斎、彼も使用するであろうトイレ、階下が少し見下ろせる廊下が位置していた。
狭い一本道に何個もの部屋が枝のように分かれる光景を、アパートの一室を貸りる僕にはこれまで見たことが無かった。
廊下から階下へと耳を澄ましたが、どうやら彼意外の人間は居ないらしく、何か音が鳴る様子はなかった。
部屋の中へ戻り床に眠っている彼を起こす。
「青井君。あ〜お〜い〜く〜ん」
昨日は疲弊し切っていた体がとうとう幻覚を見始めたのかと思ったが、どうやら僕の思い違いだったらしい。
青い髪に青い瞳、その他のコーデにも青を取り入れている彼は青が好きなのだろうか。
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「そういえばコンちゃん」
片手で茶色で造形された茶碗を持ち、こちらに視線を向けて声を掛ける彼。
手を付けていたご飯入りの茶碗を置きながら、僕もそちらに視線を向ける。
「どうしたの?」
「昨日研究がなんとかって言ってたけど、時間大丈夫なの?」
「え?」
背後に広がる光を差し込むリビングは、毎朝見る景色ではなかった為か注意が削がれていたのかもしれない。
先程の部屋のものとは違う壁に掛けられた大きな時計を見る。
「…7時!?」
思わず座っていた席から身を乗り出す。
前に座り、優雅に朝食を楽しんでいた肩が一瞬ビクリと震えた。
「ごめんご馳走様、僕もう行かなきゃ」
急ぎ足で彼の部屋へと戻り、カバンを持ち、玄関へと小走りで向かう。
リビングから出て来た彼が手を小さく振る。
「行ってきます」
思わず出た言葉に違和感を感じるも、何故か悪い気はしなかった。
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
笑顔で手をこちらに振る彼の姿が暖かかったから。
見送られるのは何年ぶりだろうか、なんて考えながら大学へと足を運ぶ。
彼の家から大学まではそれほどの距離は無く、内心彼の家に住まわせて貰おうかなんて考えたりもした。
しかし、高校生に毎朝朝食を作って貰うなど自身の恥でしかないし、彼に再度会える保証なんてものも無かったので余計な思考は時間を無駄にするだけだとやめることにした。
よく眠ることが出来たせいか、実験は成功に終わり、教授にも大層褒めて貰うことが出来た。
コメント
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青井君が寝ているときに取るこんちゃんの行動が社会人関係なく機敏過ぎる…現状把握能力高杉もたまに毒だな