急ぎ足のコンちゃんを見送り、机に鎮座していた朝食の入っていた器たちを洗っていく。
外から聞こえてくる騒音たちに耳を傾け、静かな部屋の中で水を鳴り響かせる。
まだ若干冷えた空気に、先程まで水を使っていた手が悲鳴を上げるが歯磨きをする為、再度水に手をさらす。
静かな部屋に鳴り響く午前7時半過ぎ。
まだ大丈夫だと高を括ってはいたものの、流石に危ない時間へと迫って来ていることに焦りを感じ始める心臓。
握っていた歯ブラシを水で流し、右手に置いてあった水入りのガラスコップを仰ぐ。
ハンガーに掛けられ、陽の光に照らされるワイシャツを手に取り上半身に被せ前ボタンを閉める。
制服である学ランのズボンを着た状態で自室へと向かい、掛けられていたカツラやカラーコンタクトなどを付けていく。
「普通の」学生と成り果てた姿で、僕は今日も登校する。
「行ってきます」
今日は入学式ということもあってか、校門から出入りする車の数が跡を絶たなかった。
自転車で通学する者、車で来る者、歩いて来る者、人それぞれ違うのが、また新学期という名に相応しいスタートの幕を下ろす。
校内に入れば新入生の話題で持ち切りだった為、敢えて挨拶を掛けないようにする。
教室に入ればいつもの風景と差ほど変わりはなく、ただ違うのは髪を切った人の印象に違和感が生じることぐらいだ。
日直という業務を終わらせる為、夕暮れ時に染まる廊下を小走りで進む。
毎年この学校では新入生を迎える度、各クラス内で出し物をすることが決まっていた。
しかし出し物と行っても文化祭のような飲み食いするようなものではなく、あくまでも「迎え入れ」らしく、各教室内を飾る程度のものだった。
それに使われる資材などは学校側が管理してくれるものの、帰る時には片付ける、というなんとも理不尽な成約によって、俺は今帰る時間を遅らされている。
最悪なタイミングで日直にした担任を密かに恨みながら廊下を走っていると、何やら自身の足音が重なっていることに気が付く。
しかし、何度振り返っても誰も居ないオレンジ色の廊下。
幽霊や未知なる者に興味・関心を向けたことは無かったが、少なくとも夕暮れに出る幽霊など聞いたことがない。
「誰かいる〜?」
呼びかけても返事はない。
自分の声が響く廊下を後に、俺はただ小走りで任務を全うするだけだった。
無事、資材の管理対象である担任に材料の入った段ボールを渡すことが出来た。
何かと進路のことについて聞かれたが、まだ完全に決まり切っていない答えに顔を歪ませてしまうだけだった。
「進路」、それはつまり、社会に出ていく為に必要不可欠なものであり、高校生の面倒臭いランキングNo.1に長年座を置いている教師たちの救いの言葉だ。
僕はその単語を聞いた瞬間鳥肌が立つ程に嫌いなのだが、どうにも教師たちはそれを承知の上で現実を押し付け、どうしても自分たちの給与の為に職務を全うしている風に装いたいらしい。
…なんて、所詮は僕らのためだと口を揃えて言うだけのボットに過ぎないのだけれど。
コメント
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口ボット.....ロボット?!
今回も最高ですね! らっだぁ進路決めるの苦手なんだね…… 私もだよ、まじ鳥肌止まん無いよねw 最近急に暑くなってるので体調に気をつけてください!