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るななっち
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とある昼間。
中学二年のらんは、アパート3階の角部屋でスマホを見ていた。
夏休みが終わるのも、あと一週間。
らんは、学校に行きたくなかった。
「…………」
ベッドに寝転がったまま、何となくSNSを眺める。
友達の投稿。
楽しそうな写真。
夏休みを満喫しているような言葉。
それらを流し見していると、不意にスマホが震えた。
ピコン。
「……?」
画面の上に、新しい通知が表示される。
SNSからのDMだった。
知らないアカウント。
らんは少し眉を寄せながら、通知をタップした。
そこに書かれていたのは
「死にたいですか?」
「は……?」
思わず、声が漏れた。
見覚えのない相手から、突然送られてきた一言。
らんはしばらく画面を見つめたまま、動かなかった。
「あなたが、このSNSで死にたいと呟いていることを何度か拝見致しました。 現在私は、自自殺希望者を集めています。 私も貴方と同じ、自殺希望者です」
「………」
らんは、画面を見つめたまま固まった。
指先だけが、ほんの少し震えている。
「自殺希望があるなら、こちらの廃墟になったアパートに来てください」
その文章の下に、URLが添えられていた。
数秒迷ったあと、らんはそれをタップする。
表示されたのは、地図だった。
赤いピンが立っている。
調べてみると、確かにそこには古びたアパートが存在していた。
けれど、写真に映る建物は明らかに人が住んでいるようには見えない。
「…………」
らんは、何度も文章を読み返した。
「……ここ、だよ……な」
らんは、目の前に建つ古びたアパートを見上げた。
スマホに届いたDMには、ここへ来るための詳しい説明が書かれていた。
『1階の角部屋。ベランダの窓が空いています。そこに入ってください。
そこしか入口通路はありません』
「…………」
普通なら、こんな場所に近づこうとは思わない。 けれど、らんはしばらくその場に立ったあと、ゆっくりとアパートの裏手へ回った。
指定された角部屋。
確かに、ベランダ側の窓が少しだけ開いている。
「……失礼します」
誰に言うでもなく呟いて、らんはそこから部屋へ入った。
中は、驚くほど質素だった。
家具はほとんどなく、薄暗い部屋の中には、古びた机と椅子がひとつ置かれているだけ。
「………」
静かすぎる。
人がいる気配は、まったくなかった 。
『部屋のドアが開いてます。 そこから廊下に出て、階段をあがって5階まで来てください』
らんは画面を見つめた。
そして、ゆっくりと部屋のドアへ視線を向ける。
廊下の向こうは、真っ暗だった。
「……誰がいるんだよ」
返事はない。 らんはスマホを握り直し、慎重に廊下へ足を踏み出した。
『5階につきましたら、「花魁坂」と書かれた木の板がドアに釘でつけられています。そこにお入りください』
「…………」
らんは、長い階段を上り続けた。
一段、また一段。
古い建物の中には、足音だけが響いている。
やがて5階にたどり着くと、廊下の奥にひとつのドアが見えた。
「……あれか」
近づいてみる。
そこには確かに、古びた木の板が釘で打ちつけられていた。
『花魁坂』
「………」
らんはしばらくその文字を眺めた。
そして、ゆっくりとドアノブに手をかける。
ガチャ
「!!」
部屋の中には、らんと同じくらいの年齢に見える子供たちが4人いた。
「…………」
らんは思わず息を呑む。
(全員、自殺希望者……なのか)
部屋の隅には、一人の男の子が座っていた。
水色の髪。 白いワイシャツにクロスリボン。 その上から灰色のベストを着ている。
男の子は、らんが入ってきたことにも気づいていないようだった。 手元のゲーム機を見つめながら、黙々とゲームをしている。
ピコピコ、と小さな電子音だけが部屋に響いていた。
「…………」
らんが入口で立ち尽くしていると、別の子がこちらを振り向いた。
「……新しい人?」
静かな声が、部屋に響いた。
黄色い髪をした少年は、らんをじっと見た。
ワイシャツに黄土色のネクタイ。
その上には、スムースクリーム色のジャケットを羽織っている。
そして胸元には、緑色の鳥の刺繍。
(あれって、海星蛍学院の制服…)
らんは思わず目を細めた。
海星蛍学院。
国立の少中高一貫学園で、御令孫や御令嬢が通うことで有名な、いわゆる金持ち学校だ。
そんな制服を着た少年が、なぜこんな場所にいるのか。
「…座りなよ。別に床は汚くないみたいだし」
「あ、あぁ」
らんは促されるまま、黄色い髪の少年と、もう一人の紫色の髪をした男の間に腰を下ろした。
すると
紫髪の男は、明らかに嫌そうな顔をした。
そして、らんから少しだけ距離を取る。
「チッ……」
舌打ち。
黒い学ランを着ているが、前のボタンはすべて開いていた。
らんは何となく、その横顔を見る。
すると、その紫髪の男の隣で眠っていた人物が、もぞりと動いた。
「……んぁ」
ベージュ色のショートヘア。
赤と黒のセーラー服を着た子が、ゆっくりと身体を起こす。
眠たそうに目を擦りながら、らんの方を見る。
そして
「……んぁ、また来たの?」
気だるげな声で、そう呟いた。
よく見れば、ここにいる全員が制服を着ている。
水色の髪の少年も、黄色い髪の少年も、紫色の髪の男も、ベージュ色の髪の子も。
そして、らん自身も。
あのDMには、ここへ来るときは制服を着てくるように、と書かれていた。
ただし
このアパートに入るまでは、制服の上に何かを羽織り、自分がどこの学校に通っているのか分からないようにしてほしい。
その指示に従って、らんもここへ来るまでは制服を隠していた。
(俺も、一応制服着たけど、暑い)
らんは自分の服装を見下ろす。
(あいつみたいに、少し着崩そうかな)
そう考えた、そのとき。
ガチャ。
また、部屋のドアが開いた。
「……?」
全員の視線が、一斉に入口へ向く。 そこに立っていたのは、 緑色の髪をした男だった。
黒い制服をきちんと着こなし、静かな表情で部屋の中を見渡している。
「全員、お集まりのようですね」
その声に、部屋の空気が少しだけ変わった。
男はゆっくりと部屋の中へ入る。
そして、らんたちを見回した。
「俺が、皆様にあのDMを送った本人…そして、この会の主催者です」
一拍置いて。
「すちとお呼びください」
「……」
らんは、何も言わずにその男を見つめた。
この人が、 あのDMを送ってきた本人。
そして、この奇妙な集まりを作った人物だった。
すちは部屋の中央まで歩くと、そのまま床に腰を下ろした。
そして、全員の顔を見渡す。
「では、自己紹介からお願いします」
穏やかな声だった。
「自分の名前、年齢、学校名、下の名前だけで結構です。貴方から」
すちが指したのは、水色の髪をした少年だった。 少年は手元のゲームを操作していたが、しばらくするとぴたりと止める。
「……」
少しだけ顔を上げて。
「明蘭中学高…こさめ、12歳……」
それだけ言うと、またゲーム画面へ視線を戻した。
「ありがとうございます」
次に、すちが黄色い髪の少年を見る。 すると、その少年はぱっと笑顔になった。
「海星蛍学院の、みことですっ! 14歳です!」
明るい声が部屋に響く。
続いて、紫色の髪をした男。
「……浄瑠璃中学……いるま……13……」
いかにも面倒そうに、短く答えた。
そして最後。 ベージュ色の髪をした子が、眠そうに顔を上げる。
「浄瑠璃中学、なつ……13」
「!」
みことが目を輝かせた。
「2人は同じ学校なんやね?」
いるまとなつを交互に見て、興味深そうに笑う。
すると
「は? だからなに」
いるまが、面倒そうに言い放った。
「えぇ、そんな言い方せんでもええやん」
みことが少し困ったように笑う。 らんは、そのやり取りを黙って見ていた。
「貴方もどうぞ」
すちに促され、らんは少しだけ背筋を伸ばした。
「あ…らん、です……桜丘中学……14です」
「ありがとうございます」
すちは頷くと、全員を見渡した。
「皆様、自己紹介ありがとうございます」
そして、自分のことを話す。
「俺は、八百万中学、14です」
静かな声だった。
それから、すちは一度だけ間を置く。
「では……ご確認いたします」
部屋の空気が、わずかに張り詰めた。
「皆様は、自殺希望者でお間違いないのですね?」
誰も答えなかった。 こさめはゲーム機を膝の上に置き、 みことは、さっきまでの笑顔を消した
いるまは視線を落とし、 なつは床を見つめている。
そして、らんも、 小さく頷いた。
やがて、全員の首が同じように縦へ動いた。
「……そうですか」
すちは、全員の反応を確かめるように、一人ずつ顔を見た。
「俺も、皆さんと同じです」
その言葉に、らんは少しだけ目を伏せる。
「死にたい理由は聞きません。皆様が話したくないことを、無理に聞くつもりもありません」
すちは淡々と続けた。
「明日の正午に、この会を終える予定です。詳細については、先日のDMでお伝えした通りです」
「…………」
誰も口を挟まない。
「皆様には、それぞれ一人ずつ部屋を用意しております。今夜の食事もこちらでご用意します」
そして、少しだけ声を低くした。
「明日の予定時刻までは、絶対に無理をしないでください。ここで何か起きることは、俺も望んでいません」
「……」
部屋が静まり返る。
そのときだった。
「ちょっと待て」
いるまが声を上げた。
すちが振り向く。
「どうかしました?」
「なつと俺は同じ部屋にしろ」
「……理由を聞いても?」
すちは不思議そうに首を傾げた。
いるまは少し眉を寄せる。
「友達だから……」
「理由になってません」
「…………」
いるまが舌打ちする。
そして、隣にいるなつをちらりと見た。
「俺が、こいつの世話するよう頼まれてんだよ…ちいせぇ頃から」
「……なるほど」
すちは少し考えるように目を伏せた。
やがて、頷く。
「分かりました。許可しました」
「…ありがと」
なつが小さく呟く。 いるまは何も答えず、ただ隣に座ったままだった。
「好きなお部屋にどうぞ」
すちは、にこりと微笑んだ。
その笑顔は穏やかだった。
けれど、らんにはなぜか、その言葉が妙に重く聞こえた。
「28時間…」
すちは、部屋の時計へ視線を向ける。
「どのように生きるか……ご考えください」
コメント
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いっっっつも天才です、!!!! 続き楽しみにしてます‼️
初コメ失礼しますっ!! 天才ですかッ…!?!? なんかもうわぁッ…みたいな(((() 本当に語彙力なくなるくらい、自✗したいこ集めるとか関係性とかを考えるのすごいですねっ!? もうすごい好き(??
読了しました。タイトル「志望希望者」——この「志望」の字が効いてますね。普通なら「♡♡♡希望者」と書くところを、わざわざ「志望」にしている。そこに、すちの思想やこの集まりの本質が透けて見える気がしました。 導入から不気味な空気が漂っていて、それぞれのキャラクターが一瞬で立ち上がる描写が巧みです。制服の細かいデザインや、いるまとなつの関係性、みことの明るさと陰りのギャップ…。「28時間をどう生きるか」という締めの台詞が重く響きました。 続きがとても気になります。