テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
こんな時、お母さんだったらもっと朗らかに場を盛り上げられるのに。
私とお母さんは正反対で、場を仕切ってくれる彼女に頼りっぱなしだった私は、いつも何もできない。
「桐子さんの声によく似ている」
絵画に向かって、社長がつぶやいた。それでようやく、喉のつかえがとれた気がした。
「母を、……ご存知なんですか?」
「知っているよ。咲坂静乃さん」
「……私のことも?」
「ああ」
ようやくしっかりと振り向いて、ゆっくり笑う社長。目の形が私とおんなじ。そう思ったら、胸の奥で、なにかが爆発したみたいにはじけた。
「……だったらどうしてお葬式に来てくれなかったの?」
社長の表情は変わらない。それがますます私の心をかき立てた。
「私の、……父なんですよね? 娘が天涯孤独になったというのに、無視したのはどうして? 愛人の子だから? 既に清算した関係だから? 成人していて後継人が必要なわけでもないから、放っておいていいって思ったんですか? あまりに薄情なんじゃないですか?」
恨み言は、どんどん口から湧き出してくる。
母が生きていたころ、父に会いたいなんて思ったことはなかったのに。
どうしてこんなに悔しいんだろう。
“母さんは静乃がいれば幸せだから”
頭の中に、母の言葉がよぎる。ことあるごとに、何度もそう言っていた。まるで私に、……自分に、言い聞かせるように。
そんなの嘘。知っているもの。
夜中に起きて、お母さんが泣いているのを見たことがあるの。
私が寝ていると思って、安心していたんでしょう。
誰にも気づかれないように静かに、カーテンの隙間から空を見上げて、泣いてた。
ただ静かに流れた涙を、月明かりが照らしていて。
私は見てはいけないものを見てしまった気がして、気付かれないように部屋に戻った。
お母さんはきっと、あなたに会いたかった。
なのに最後まで会いに来てくれなかったのはなぜ?
お母さんが好きだったのなら、お金なんかより、傍にいてほしかった。
逆に別れられないくらい奥さんが好きだったのなら、他の女に手を出さないでほしかった。
私はいい。母がたっぷり注いでくれた愛情で満たされていたから。
だけど母は、きっと寂しかったに違いないのに。
鷹槻れん

17,797
鷹槻れん

34,256
#年の差
水無月 京
84
#大人の恋
月詠 涼
1,024
コメント
1件
桐子さんの感情が一気に溢れ出した回、すごく胸にきました。お母さんが月明かりに照らされて泣いていたっていう描写が特に印象的で、娘だからこそ知っているその孤独がつらくて。それでも母は自分に愛情をたっぷり注いでくれたっていう桐子さんの言葉に、母親の複雑な想いも透けて見えるようでした。社長がどう答えるのか、次が気になります。