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朝から何度もスマホを確認していた。
通知は来ていない、、か。
でもまだ気にしないでおこう。
ユウマくんが忙しいのは分かってるから。
――今日は、付き合って一年の記念日。
ユウマくんは覚えてるだろうか。
あの冬の夜に震える手で「好き」と言われてから、もう一年。
ポケットの中の小さな箱をそっと握った。
中には、ユウマくんに似合いそうな細いチェーンのブレスレット。
名前も日付も刻んでいない。
ただ「ユウマくんがつけてたら嬉しいな」という思いだけで選んだもの。
これを渡す時、どんな顔するだろう。
驚くかな。照れて笑うかな。
想像するだけで胸がふわっと温かくなった。
けれど、その温度はゆっくりと冷えていく。
昼になり、
リハーサルが終わって、
メンバーが次々と楽屋で休憩し始めても──
ユウマくんは私の前を素通りするように、スタッフと会議へ向かった。
NC「……妃夏、今日静かだね」
ニコラスくんが声をかけてくる。
「うん、大丈夫。ありがとう」
NC「ユウマ、まだ話してるみたいだね」
その言葉が、心臓の奥をチクリと刺す。
分かってる。忙しいのはいつも通り。
それでも、今日だけは……期待してしまっていた。
夕方。
撮影前のメイク中、
背後から聞き慣れた声が聞こえた。
HR「ヌナ~、次の衣装合わせ一緒に行こう!!」
ハルアが明るく声をかける。
「うん、ありがとう」
その時、鏡越しにユウマくんが視界に入った。
スタッフと話しながら笑っている。
私の存在に気づく気配は、、、ないか。
胸がぎゅっと締めつけられた。
「……違う、ユウマくんは悪くない。忙しいだけ……」
そう言い聞かせても、涙がこみ上げる。
でも、泣くわけにはいかない。
仕事だし、アイドルだし、恋人関係は秘密だし。
そのまま、ゆっくりと目を閉じた。
夜。
スケジュールがすべて終わった後、
宿舎のベランダにある小さな椅子に私はひとり座っていた。
冬の空気が冷たくて、指先がかじかむ。
――もしかしたら、ユウマくん、来てくれるかな。
根拠は何もないのに、
どうしても諦められなかった。
10分、20分、30分……
時間だけが静かに流れる。
YM「妃夏……?」
声が聞こえたのは、1時間が経った頃だった。
ユウマくんが息を切らして走ってきた。
髪は乱れ、頬は赤く、手には何も持っていない。
何も、持っていない……。
YM「どしたん、こんなとこで……寒いやろ」
ユウマくんが近づこうとする。
私は、小さく首を振った。
「ゆうまくん……今日、何の日か知ってる?」
YM「え?今日?」
一瞬考える素振りをするユウマくん。
その沈黙が、胸に突き刺さる。
YM「……ごめん。覚えてへん」
その言葉は残酷なほど素直だった。
だからこそ、痛かった。
笑った。
泣きそうなのに、無理やり笑った。
「ううん、いいの。私が、、、勝手に期待してただけだから」
YM「妃夏……」
ユウマくん声が震えてるのがわかる。
「1年……一緒にいれて嬉しかったよ。今日言いたかったの、それだけ」
ポケットから小さな箱を取り出した。
渡そうとしたけど、指が震えて開けられなかった。
その時、
ユウマくんがそっとその箱を受け取った。
YM「……ひなつがくれたもん、大事にする」
声がかすれていた。
YM「ありがと。ほんまに……ごめんな」
その謝罪は本気だった。
本気だからこそ、簡単には消えない痛みになった。
その夜。
帰りの道は、いつもより静かで長かった。
一年記念日は、
笑顔では終われなかったけれど、
それでも私たちの関係はまだ強く繋がっていた。
ただ──
胸のどこかに、
小さな不安の影が落ち始めていた。