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『信じていれば、何か違ったのかもね』
こちらは以下の単語irxs、青、夢小説、バッドエンドを含みます。見覚えのない方、苦手な方はブラウザバックをお願いします。ほぼ青さんは出てきません。
酒呑童子ビジュの青さん、🎲🐿側からすると怖くないですが妖怪という設定である以上、実際に会ってみると美しさの中に恐ろしさが隠れているのではないかな、とあれこれ妄想して作りました。時間軸ははっきりと決めていませんが、着物着ているくらいです。
夕焼けを背景に長い坂を上がっていく。どこに向かっているわけでもなく、目的地は定まっていない。時折吹いてくるぬるい潮風を浴びながら、ただふわふわと歩いていた。
チリン…チリン
ふと、上を見上げると百段はあるのではないかと思われる長い、長い石段があった。大きな木の葉が丸ごと覆い隠しているその道は周囲よりも薄暗く怪しさしかない。それでも、どこからか聞こえてくる微かな鈴の音が、『おいで』と手招きしているように感じられて、いつの間にか苔の生えている小さい階段を1段1段登っていた。
…神社
上にあったものの正体は小さな神社だった。
赤く塗られた鳥居はメッキが剥がれ、所々木の部分が見えてしまっている。小さい拝殿は経年劣化か、地震の影響か、斜めに傾いていて今にも崩れてしまいそうだ。でも階段を登った分見晴らしは良くて、神社の隣は建物に遮られることなく切り立った崖しか見えない。
今が旬なのだろうか、ここには彼岸花の花畑が広がっていて、ここから見える海と一緒に写真を撮ったら、綺麗だろうな…
まさに絶景って感じだ
ここに十何年住んできた自分でさえ知らないのだ、最後に人が訪れたのはいつなのか
近所に住んでいるおばあちゃんやおじいちゃんなら時々来ていそうなものだけど…
賽銭箱は埃を被っていて、少し払っただけでもかなり煙がすごい
お参りだけはしておこうかな、と財布の中にかろうじて残っていた一円玉を投げ入れる。
社も木で出来ていて、築何十年なのだろうかと思わせるほど屋根には大きく亀裂が入っていた
ガラン…コロン
錆びて古ぼけた鐘が重く音を鳴らす
…静かだ
人っ子ひとりいないここでは聞こえるのは木々のざわめきくらないもの。では、先程聞こえたと思っていたあの鈴の音は何だったのだろう。
そうこう探索をしているうちに5時を知らせる鐘が遠くから重く響いているのが聞こえてきた。もうそろそろ帰らないと、過保護な両親は心配するに違いない。
今日の夜ご飯は何だろう、最近は魚続きだったから唐揚げだったらうれしいな、なんて呑気にそんなことを考えていた。
ドンッ
あれ、なんで、
通れない…?
鳥居を潜ろうとすると身体が後ろに弾かれる。透明な厚い壁みたいなものでもあるような…全然進めないい。じわり、じわりと嫌な汗が服の下を伝う。目眩がして、身体が傾きそうになるのをぐっと堪える。なんで、なんでこんな…
わん…わ”ん
聞こえた声にはっと後ろを見やると、白い犬…?狼?がこちらに敵意を持って近づいてきていた。
じりじりと砂を踏みしめて歩く犬は街を歩いているような可愛らしいものではなく、喉を鳴らす姿は狼のよう。獰猛な口から飛び出た牙は鋭く光っていて、飛びかかられたらどうしようと考えると心臓が飛び出そうな程痛い。刺激しないように息を殺して壁伝いに横に二、三歩ずつゆっくりとずれる。
怖い
でも、目を逸らしては駄目
背中を見せて逃げてしまっては余計興奮して飛びかかられてしまうだけだから。
2匹は私の事をしっかりと見ていて、最早襲われるのも時間の問題だ。
ガサガサッ
駄目だ。
木が生えていたのに気づかずにぶつかって体がよろめき、そのままへたりこむ。
嫌…いや…誰か、助けて…!
チリン…チリン
目を閉じて痛みに耐えようと身を縮めるが、いつまで経っても衝撃はやってこない。
目を開けると、綺麗な男の人が2匹の犬の首を鷲掴みにしていた。
『お前たち、少しおいたが過ぎるのではないか?』
地を這うような、怒気を孕んだ恐ろしい声。
「…っ」
この人に比べれば、私がさっきまで怖がっていた犬なんて子犬にすぎない。
瞬間バチッ、と閃光が弾けて2匹の犬は尻尾を巻いて逃げ出していく。私の前に現れたのは、眉を顰めて化け物が去っていった方を見やる青髪の男の人。
その男の人は私の方を振り向いて、続けて話した。
『お前さん、うちの者がすまない。人間がくるのは久しいもので敵だと間違えてしまったのだ、許してくれ』
あなたは、誰。頭の中を恐怖と疑問符が埋め尽くす。
怖い犬から守ってくれたから…味方?でも、角が生えている。深青の瞳はぞっとするように冷たくて、透き通るように白い肌は人間のものと違って血が通っていないことは明白だ。帰りたい、彼ならば帰る方法を知っているかもしれない。
でも、もし悪い人だったら。もしかしたらこれは全部私を安心させる為の罠で、どこか危険な所に連れていくつもりなのかも…この人を本当に信じて、良いのだろうか。
こわくて何も喋れない、声が、出せない
青い髪の人は私が信用していないことに気づいたようで、思案げに少し考えた
『ふむ…』
『仲間を呼ぼうか』
その言葉を聞いた瞬間、堰を切ったように言葉が溢れ出していた。また、あんなのが来たら…異形の者への恐怖はトラウマとなって染み付いている。
お願いします、助けてください、何でもします、どうか…そんな言葉を並べ立てる。
『何でもする、ねぇ…あんまり安請け合いしちゃだめだよ』
こんな妖怪なんかに、そう言ってけらけらと笑った
『じゃあ久々の客人さん、俺を楽しませてみ?』
そうすれば考えなくもないかなと首を傾げると同時にその腰に携えている酒瓶が音を立てて揺れた
楽しませる…
たぶん、オウム返しに聞き返した声は震えていたはずだ
『何でもええよ。何せ、何百年も生きとるから暇で暇で…お前さんが楽しませてくれたら元の世界に返してあげてもいいかな』
私が今できること。何百年も生きている妖怪を楽しませる…
「…今の私に差し上げられるのは、この身体くらいしか…」
意を決して、そう答える。
『ふぅん、それがお前の答えなんやな』
ばさっと音がすると彼はいつの間にか私の目の前まで来ていて。夜の相手、ってことでええやんな?と尋ねる唇に、噛み付くようにキスをした。