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太「…吉田さん、何しとるん?」
背後からそっとかけられた穏やかな声に、仁人はビクッと肩を跳ね上げた。
慌てて床の花弁を隠そうとしたが、もう遅かった。
振り返るとそこにはレッスン着姿の太智が、心配そうに佇んでいた。
仁「太智……? なんで、戻って……」
太「忘れ物取りに来てん。……それ…」
太智は静かな足取りで仁人に近付くと、目の前にそっと屈み込んだ。
静かな空間に太智の布擦れの音だけが響く。
仁「何でもない……っ…」
仁人が慌てて右手を背後へ隠す。
こんな醜い花弁なんて、誰であろうと見られたくはなかった。
太「……、吉田さん。大丈夫やから、な?」
隠さなくて良い、と太智は優しく微笑む。
壊れ物を扱うように仁人の掌を優しく包み込んでは、目の届く位置へと持ってきて、その手をゆっくりと開かせた。
仁人の掌の中にあったのは、潰れかけた青白いピンクの水仙の花弁。
それを見た瞬間。
太(っ……これは、苦しいやろなぁ…)
実は、太智は最初から気付いていた。
仁人がずっと勇斗を想って、1人苦しみ、胸を痛めていることを。
仁人が花吐き病であることは太智も今初めて知った。
しかし花吐き病がどういうものかは聞いたことがあり、この花弁が勇斗を想ってのものだとすぐに理解してしまった。
けれど太智は、その名前を敢えて口には出さない。
それが仁人をどれほど傷つけるか分かっていたから。
だから太智は、目の前で本物の花を吐き出す仁人を見ても、驚くことなく、その秘密を自分の胸だけに優しく仕舞い込むことを決めた。
太「1人で抱え込んで、そんなに落ち込まんといて。吉田さんのしんどい姿見るの、俺辛いわ」
太智の口調はどこまでも柔らかく、その瞳には溢れんばかりの愛おしさが滲んでいた。
太智はそのまま仁人の前に膝をつくと、床に散らばった花弁を一つ一つ大切そうに拾い集め始めた。
太「このこと絶対誰にも言わんから。ちゃんと秘密にしたる。……だから、そんなになるまで1人で泣かんといてな」
仁「……太智……っ…」
太「俺がずっと隣におるから。」
全てを分かっていながらも、仁人の隣で秘密を守り、静かに支え続けようとする太智の優しい寄り添い。
仁人はその言葉に、こくりと小さく頷いた。
その日を境に、太智は宣言通り、仁人の歩幅に合わせるようにピタリと寄り添うようになった。
ある日の太智は仁人の喉を気遣った温かい飲み物をそっと手渡して、その痛みを一緒に分かち合おうとした。
太「ほら、吉田さん。これ、喉にええからゆっくり飲み」
仁「……なにこれ超美味い。ありがとう、太智」
太「どういたしまして。辛かったらすぐ言ってな」
ダンスのレッスン中も、仁人が勇斗の方を見つめて切なそうな視線を送ろうものなら、太智はそっと二人の間に立ち、仁人の視界を優しく遮った。
仁人の手をそっと優しく握りしめて、自分の方へ意識を向けさせ、ふわりと優しく笑う。
大丈夫だと伝えるように。
繋がれた太智の手は驚くほど温かくて、凍りつきそうになっていた仁人の指先を、いつも静かに溶かしてくれた。
そして、そんな太智の優しさは仁人が花を吐く瞬間にも及んだ。
仕事の休憩中、どうしても抑えきれずに楽屋の外のトイレに駆け込み、激しく咳き込む仁人。
その背中を、いつの間にかついてきていた太智が、優しくトントンと叩いてくれる。
太「しんどいなぁ…無理に堪えんでええよ、全部出して」
太智は嫌な顔1つせず、仁人が掌に吐き出した水仙の花弁を、小さな水を入れたガラスのボトルの中にぽとりと入れた。
仁「……そんなの、なんで集めるんだよ」
太「これ自体は綺麗やし、なんか捨てるの勿体ないなぁ…ってな」
仁「変なやつ…」
ボトルの中でゆらゆらと揺れる花びらを見つめながら、太智は慈しむように微笑んだ。
恋の痛みにもがく仁人の心に、太智の存在が少しずつ、だけど確実に染み込んでいっていた。
コメント
1件
更新ありがとうございます😊辛そうな💛さんを助ける💙さんイケメンすぎました😭どういう結末になるのかとても楽しみです😆︎💖