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バスに乗るときはいつも1番後ろの席に陣取ってた。クラブから出てきた勢いで最後尾から最前列に来て、舌を出しあってキスしてた。舌先が痺れるくらい飲んだテキーラのせいで、お互いにガソリンみたいな味が胃からあがってきて余計気持ち悪かった。
サラリーマンたちが文句を言うのを、喧嘩腰に罵りあって。
いつか公務執行妨害になるからな、なんて。冗談を言うたび、世界は2人のもので高笑いした。
そのままきみのぴったりしたミニドレスにひっついたハート型の尻をつかんで、バスのドアに押し込んで。
僕たちはVIPだったんだ。あくまでバスの中でだけ。
1番後ろの席は僕たちのものだった。浴びるほど飲んだジンもウォッカも、僕の膝に吐いたときもきみは楽しそうだった。
僕はそれでも、黄色い唇にまたキスしたよ。だってきみは悪い。悪い子だから。
最近、きみを思い出してどうしようもないんだ。
わざわざバスに乗らなくていい場所に引っ越したのに、ロフト付の物件に住むのをやめられなくて。
今もきみが、上からトイレに行く為に寝ぼけて降ってくるんじゃないかって期待してる。
あの子にも同じようにゲロしてキスする?
最後に来たメールに返事できなくて、だって……どこにいるんだ?
僕は迷子だ。迎えに来てもらわないといけないのに、どうしようもないんだ。
「学校やめる」
「は?」
「向いてないの」
髪が濡れたまま、ソファの下で膝を抱えるきみは…もう何日も学校にも来ないから、除籍になる前に連絡しろと教官に言われていたくせに。
その甘い香りのする髪を乾かして、また指に絡めたいと言ったら?きみは?
またバスでふざけようと思ってくれるのかい?
「…あなたから電話がくるたび、名前を見るのが嬉しいの」
「馬鹿なこと言ってるんじゃない、僕以外も松田もみんなそうだろ…みんなきみをーー」
自分のことみたいに気にかけてる。
きみだってそうだったよね?僕をいつも頭の中の衛星みたいにして。
「…わたしを愛してる?…零」
受け入れられない。躍起になって、その不安そうな瞳を振り払いたいのに出来そうにない。
今もそんな顔してるのか?僕じゃない誰かに。
考えてしまう。バスの1番後ろに乗りながら、真ん中に座って同じ場所をひとりぐるぐるして。
やめなきゃいけないとわかってるのに。夜遊びだって無理やり閉じ込めてるようなものだ。きみがいないのに、誰と酔わせあえばいいんだ?
だって、僕はもう。
思い出すかい?きみは僕と一緒にいた頃のこと……。
「くふっ」
「?」
敬礼していたら、隣できみはにやにやしだす。
「…朝ヤったらパンツはき忘れてさ、食い込むのよ」
「ぶっ」
「降谷!」
教官に目の前で怒られるのは僕だけで、きみはいつもそれを背筋を伸ばして笑いをこらえていた。
ずるくて、悪くて、甘くて……。
「飲まない?」
大量に揚げた唐揚げを奪い合って、炭酸でウィスキーを割る。
春巻きを揚げる力はふたりともなかった。
「いらない。気持ち悪いの、先に寝る」
おやすみ、わたしの夢を見てね…
「馬鹿」
ロフトを見上げて笑っても、きみは顔を出さない。
きみが望んでいたことを叶えられるやつは僕以外にいるの?
きみは悪い子だから、登校するのに朝眠たいのに起こしてきた。セックスしよう、だなんて。
でも、それだけ僕にふれたかったんだろ?
もし、メールに返事を今したら…また連絡くれるのかい?
電話しようとしてくれるかい?
まだ、僕にふれたいかい?
「透!言ったでしょ?」
シンクに空のペットボトル置かないでってーー嫌なのよ!お皿洗うところにごみが……
玄関で聞く文句の声が、ノイズキャンセリングされたみたいに消える。
ばん!とゴミ箱に捨てられた炭酸水を、また拾い上げて天井を見上げるくらいのけぞって一滴飲むきみが、僕には見えるのに。
考えてしまう。きみが、ロフトからまた顔を出さないかって。
バスでふざけてゲロし合って、まずい唐揚げと、朝の怠くて重たいセックス。
まだ…僕を想ってくれてる?
もし…連絡できるなら……してくれるかい…?