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#一次創作
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Cafe Latteベース隊長
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コメント
1件
みぅです🤍🥀 第229話、読み終えました。 匠さんの「別の手順」、すごく重くて、でも希望がある感じがしました。Cに読まれないように現実と異世界で手順を分ける発想、匠さんらしいなって。リオがスマホを伏せたシーン、あの動作だけで「見ない」決意が伝わってきて、胸が熱くなりました。reが嫌がってなかったのも、ちょっと安心。 Cとカシウスの会話も不気味で、道標って言葉がすごく怖かったです。合わせる瞬間を待ってるって、まだまだ先があるんですね…次が気になります。
第229話 別の手順
【現実世界・帰還した学園/仮設通信室・朝】
ハレルは、スマホの画面から目を離せなかった。
父・匠からの返信。
『白峰の門を使うな。』
『Cが乗っている。』
『待て。別の手順を送る。』
それは短い文章だった。
だが、今まで届いたどの言葉よりも重かった。
白峰の門。
その言い方だけで、クロスワールドゲートがただのアプリではないことが分かる。
そして、父はそれを「白峰のもの」と呼んだ。
白峰律。
クロスゲート・テクノロジーズ社の幹部。
父・匠の古い知人かもしれない男。
クロスワールドゲートを作った張本人の一人。
ハレルは、震える指で返信を打った。
『父さん、白峰律を知ってるのか。』
送信。
画面は、しばらく何も返さなかった。
リオは横から、低く聞く。
「返ってくるのか」
「分からない」
ハレルは正直に答えた。
サキは、自分のスマホを胸に抱えていた。
画面の中で、reが細く揺れている。
リオのスマホには、まだクロスワールドゲートの表示が残っていた。
『接続保留』
リオはそれを睨むように見ている。
押さなかった。
罠だと分かった。
それでも、そこに姉の名前が出たことは、消えない。
一ノ瀬ユナ。
名前だけを使われた。
それだけで、リオの胸はまだ乱れていた。
「白峰の門ってことは」
リオが言った。
「あのアプリは、その白峰って奴が作った門なんだな」
ハレルは頷く。
「たぶん」
「じゃあ、姉さんもそこに関わってた」
その言葉に、空気が少し重くなる。
一ノ瀬ユナは、クロスゲート社のエンジニアだった。
クロスワールドゲートの開発に深く関わっていた。
けれど、その先で何が起きたのか。
どこまで知っていたのか。
いつから被害者になったのか。
まだ、誰も知らない。
その時、ハレルのスマホがもう一度震えた。
新しい返信。
『白峰は、昔の友人だった。』
ハレルの呼吸が止まる。
サキが小さく言った。
「お父さんの……友達……」
さらに一行。
『今は違う。』
『説明は後だ。今は門を使うな。』
ハレルは画面を握りしめた。
「父さん……」
文字は、さらに続いた。
『日下部奏一に解析部を送る。』
『ノノ=シュタインに結界部を送る。』
『二つを合わせるまで、誰も起動するな。』
ノノの声が、通信の向こうで跳ねた。
『私にも?』
ほぼ同時に、日下部の声も入った。
『こちらにも着信があります』
『送信元、不明』
『でも、署名が……雲賀匠さんの形式です』
ハレルは顔を上げた。
「父さんが、日下部さんにも送ってる」
リオが低く言う。
「現実側と異世界側に分けたのか」
ノノがすぐに答える。
『たぶんそう』
『一つにまとめたら、Cに読まれる』
『だから、片方だけでは意味がない形にしてる』
サキのスマホで、reが小さく光った。
reは、ハレルのスマホと、通信画面のノノの表示と、
日下部の解析端末を結ぶように、細い白い点を三つ並べた。
サキは息を呑む。
「reが……反応してる」
ハレルはその光を見る。
今度のreは、嫌がっていない。
警戒はしている。
けれど、さっきクロスワールドゲートを見た時のような激しい震えではない。
「これは、危ない道じゃないのか」
ハレルが聞く。
ノノは少しだけ間を置いて答えた。
『まだ分からない』
『でも、Cの針は薄い』
『さっきのアプリとは違う』
リオは、机の上のスマホを見た。
接続保留。
その黒い画面は、まだこちらを見ているようだった。
◆ ◆ ◆
【現実世界・オルタリンクタワー/南東サービス導線跡・朝】
日下部の端末に、暗号化されたデータが届いていた。
通常のファイルではない。
拡張子もない。
ファイル名もない。
ただ、淡い緑の線で囲まれた小さな塊が、画面の中央に浮かんでいる。
日下部はすぐに解析を始めた。
「これは……プログラムじゃない」
木崎が横から覗き込む。
「じゃあ何だ」
「プログラムの形をした、手順書です」
「分かりやすく言え」
「実行するものじゃなくて、読むものです」
日下部は画面を見たまま言う。
「起動させた瞬間に動くコードではない」
「人間が内容を理解し、必要なところだけを組み直す形式になっています」
城ヶ峰が目を細める。
「Cに自動解析されないようにしているのか」
「はい」
日下部は頷く。
「Cがプログラムとして読もうとすると、意味が欠ける」
「人間が文脈で補わないと完成しない」
佐伯の声が通信越しに入る。
『反記録に近いですね』
日下部はすぐに反応した。
「はい」
「でも、もっと複雑です」
「通常のコード、観測ログ、境界補正、全部が混ざっている」
「白峰律のオリジナル言語を前提にしながら、それに対抗するために書かれている」
村瀬が聞く。
『白峰律の言語を、雲賀匠さんが読めたということですか』
日下部は画面を見つめたまま言った。
「読めた、というより……」
「白峰さんと同じところから始めて、別の方向へ進んだ感じです」
木崎が低く呟く。
「元友人、か」
「……しかし、匠のやつ」
城ヶ峰が目だけを向ける。
「何だ」
「白峰律なんて名前、俺は一度も聞いてねえ」
木崎は、端末に表示された文字を睨む。
「同じ事件を追って、同じ業界の裏側を嗅ぎ回ってた」
「少なくとも俺は、あいつの協力者のつもりだった」
「なのに、学生時代からの友人がクロスゲートの中枢にいたなんて話、俺には一言もしてねえ」
日下部は手を止めずに聞いていた。
城ヶ峰は短く言う。
「話せなかったのかもしれない」
木崎は鼻で笑った。
「便利な言い方だな」
「あるいは、話せば君も巻き込むと判断した」
木崎は返事をしなかった。
それが匠らしいと言えば、匠らしい。
だが、納得できるかは別だった。
「……だったら今さら巻き込むなって話だ」
そう言いながらも、木崎はカメラを下ろさなかった。
怒っている。
だが、降りる気はない。
城ヶ峰が聞いた。
「日下部、何が必要だ」
日下部は端末に表示された内容を確認する。
「現実側で必要なのは三つです」
「一つ、クロスワールドゲート本体を使わないこと」
「二つ、白峰の門が使っている残存入口を直接開かないこと」
「三つ、ノノさん側の結界部と同期するまで、どの端末も接続確定させないこと」
木崎が顔をしかめる。
「簡単に言うと、待てってことだな」
「はい」
日下部は頷いた。
「でも、待つだけでは止まりません」
「別の仮設門を作る必要があります」
城ヶ峰が短く言った。
「匠の門か」
日下部は少しだけ首を振る。
「まだ門ではありません」
「門になる前の、手順です」
◆ ◆ ◆
【異世界・王都イルダ/分析室・朝】
ノノの水晶板にも、データが届いていた。
現実側の文字ではない。
王国語でもない。
だが、ノノには読める部分があった。
結界の向き。
戻り線。
入口ではない場所を、入口として固定しないための条件。
人の名前と器と場所を、別々に確認するための手順。
ノノは、画面に顔を近づけた。
「すごい……」
セラが静かに聞く。
「読めますか」
「全部は無理」
ノノは答えた。
「でも、意図は分かる」
「これは、クロスワールドゲートみたいに“開ける”手順じゃない」
「間違った入口を、入口として確定させないための手順」
セラは、少しだけ目を伏せた。
「白峰律は、入口を作った」
「雲賀匠は、入口に騙されない方法を作ったのですね」
「たぶん」
ノノは表示を切り替える。
そこには、三つの単語が並んでいた。
「名前」
「器」
「場所」
ノノはその三つを見て、息を止めた。
「やっぱり、ユナさんを戻す時にも必要になる」
セラが言う。
「一ノ瀬ユナを戻すには、その三つが揃わなければならない」
「うん」
ノノは頷いた。
「名前だけじゃ駄目」
「器だけでも駄目」
「場所だけでも駄目」
「三つを別々に確認して、それから重ねる」
サキから聞こえたreの反応。
リオの画面に出たユナの名前。
Cが仕掛けた罠。
それらが、急に一つの線で繋がる。
Cは、名前だけでリオを釣ろうとした。
匠の手順は、それを否定している。
名前だけでは、人ではない。
ノノは、強く息を吸った。
「これなら、リオを守れる」
「ユナさんも、名前だけで奪われずに済むかもしれない」
セラは小さく頷いた。
だが、その表情は明るくなかった。
「問題は、Cもそれを見るということです」
ノノの手が止まる。
「……うん」
画面の端に、黒い針が一瞬だけ浮かんだ。
すぐに消えた。
Cが読もうとしている。
読めないはずの手順を、観測しようとしている。
◆ ◆ ◆
【異世界・オルタ・スパイア入口前・朝】
アデルたちは、まだ扉の前にいた。
開けてはいない。
壊してもいない。
ノノに言われた通り、扉の表面、床、周囲の結界線を記録していた。
王国術師が、薄い光の板へ術式の残りを写し取っている。
ヴェルニは少し離れた場所で、塔の周囲を見張っていた。
「動きがないってのが一番気持ち悪いな」
ヴェルニが言う。
アデルは扉から目を離さずに答えた。
「動かないように見せているだけかもしれない」
左手首の副鍵は、さっきから微かに震えていた。
強い反応ではない。
だが、完全な沈黙でもない。
扉の表面には、白と黒の細い線が残っている。
開く線ではない。
閉じた線でもない。
閉じた後に、さらに「ここは入口ではない」と上書きした線。
アデルは低く言った。
「ノノ」
『聞こえてる』
「閉じ目は一つではない」
「表面の術式は、扉を消した跡だ」
「だが、その下に別の層がある」
『別の層?』
「これは、入口を消した後に、誰かが再び触った跡だ」
通信の向こうで、ノノが息を呑む。
『C……』
「おそらくな」
ヴェルニがこちらを見た。
「つまり、ヴァルドが消して、Cが上からいじってるってことか」
アデルは頷いた。
「だから、今ここを壊せば、ヴァルドの閉じ目も、Cの針も、両方見失う」
ヴェルニは苦い顔で息を吐いた。
「殴らない理由が増えたな」
「そういうことだ」
アデルは扉に手を伸ばさない。
見るだけ。
読むだけ。
そして、必要な情報だけをノノへ送る。
かつてここは、オルタリンクタワーの地下と重なっていた。
ならば、この扉の消し方にも、現実側の門を閉じた手順が残っているはずだった。
◆ ◆ ◆
【異世界・旧石造建物跡/地上部・朝】
石造建物でも、調査は続いていた。
ダミエは、地下階段があったはずの石壁の前に座り込んでいる。
眠っているようにも見える姿勢だが、意識は壁の奥へ向いていた。
ミレイは水晶板を抱え、壁に浮かんでは消える細い線を記録している。
「……また出ました」
水晶板に、白い線が一瞬だけ焼き付く。
ミレイはすぐに拡大した。
「一つ目は、消失処理」
「二つ目は、上書き」
「そして、三つ目に……別の針があります」
ダミエが短く聞く。
「C?」
「断定はできません」
ミレイは慎重に答える。
「でも、ノノ主任が送ってきたC反応と近いです」
王都軍の隊長が壁を見た。
「なら、この壁を壊せば針も消せるのではないか」
ダミエは、ゆっくり首を横に振った。
「壊すと、分からなくなる」
「分からなくなる?」
「誰が先で、誰が後か」
ダミエは言った。
「ヴァルドが消した。Cが触った。たぶん、順番が大事」
ミレイは小さく頷いた。
「はい」
「この石壁は、ただの封鎖ではありません」
「消した手順そのものが、次の門の材料にされかけています」
ダミエは壁を見る。
そこに階段はない。
でも、かつて階段だったという記憶だけは、まだ完全には消えていない。
「ここも、門に戻されるかもしれない」
ミレイの顔が強張る。
「はい」
「ただし、戻る先が元の地下とは限りません」
ダミエは小さく息を吐いた。
「じゃあ、見張る」
「開きそうになったら、止める」
王都軍の隊長が頷く。
「探索班を二班に分ける」
「一班は周辺調査。もう一班はこの壁を監視」
「術師は記録を優先。破壊は許可が出るまで行わない」
ミレイはすぐに水晶板を操作した。
「ノノ主任へ送ります」
「石造建物側、消失手順とC反応の重なりを確認、と」
ダミエは、壁の前から動かなかった。
そこに何もないように見える。
けれど、何もない場所ほど、今は危険だった。
◆ ◆ ◆
【現実世界・市内各所/同時刻】
警告は、遅れて届き始めた。
テレビ速報。
スマホ通知。
自治体の防災アプリ。
駅構内の放送。
避難所の掲示。
「クロスワールドゲートが起動しても操作しないでください。」
「表示された名前に反応しないでください。」
「端末を破壊せず、画面を伏せて管理者へ渡してください。」
だが、すべての人に間に合うわけではない。
ある避難所で、中年の女性がスマホを見て泣いていた。
画面には、亡くなった息子の名前が表示されている。
『接続候補を検出』
『戻りたいですか?』
女性の指が震える。
「嘘……」
隣にいた職員が気づき、慌てて声をかける。
「触らないでください!」
女性は泣きながら首を振る。
「でも、名前が……」
「息子の名前が……」
職員はスマホを奪おうとはしなかった。
奪えば、反応が強くなるかもしれないと通達にあったからだ。
代わりに、ゆっくり言う。
「名前だけです」
「そこに、本人がいるとは限りません」
女性の指が、画面の上で止まる。
同じことが、別の場所でも起きていた。
会いたい名前。
戻したい人。
失ったもの。
クロスワールドゲートは、人の一番弱い場所を探していた。
◆ ◆ ◆
【現実世界・帰還した学園/仮設通信室・朝】
ハレルのスマホに、さらに短いメッセージが届いた。
『日下部に任せろ。』
『ノノに任せろ。』
『お前たちは、白峰の門を見ないこと。』
ハレルはその文章を読んだ。
見ないこと。
それは、ただ画面を見るなという意味ではない。
信じるな。
反応するな。
名前だけで確定するな。
リオは横で、机の上のスマホを見ていた。
『接続保留』
まだ消えていない。
ハレルは言った。
「リオ」
リオは顔を上げる。
「父さんが言ってる」
「白峰の門を見るなって」
リオはしばらく黙っていた。
そして、自分のスマホを裏返した。
画面が机に伏せられる。
それだけの動作なのに、リオの肩から少し力が抜けた。
「……見ない」
リオは低く言った。
「姉さんの名前を、あいつらの餌にさせない」
サキは、その言葉を聞いて小さく頷いた。
reが、サキの画面で少しだけ明るくなる。
ハレルは父へ返信を打つ。
『分かった。』
『でも父さん、どこにいる。』
送信。
今度は、すぐに返事が来なかった。
代わりに、日下部とノノの解析画面が、同時に点滅した。
二つの場所に届いた別々の手順。
まだ完成していない門。
Cの乗った白峰の門とは別の道。
ノノの声が通信に入る。
『ハレル』
『これ、すぐには使えない』
『でも、作れる』
『Cの門じゃない道を』
日下部も続けた。
『現実側の処理はこちらで組みます』
『ただし、異世界側の結界部と完全に合わせる必要があります』
『少しでもずれたら、Cに横取りされます』
城ヶ峰の声が入る。
『必要なものを言え』
ノノは、息を吸った。
『時間』
『静かな場所』
『ユナさんの正しい反応』
『そして、reの補助線』
サキは、自分のスマホを見た。
reは、画面の中央でゆっくり揺れていた。
小さな光。
名になりきっていない名。
けれど、Cの針を見ることができるもの。
ハレルは、静かに頷いた。
「じゃあ、作ろう」
リオも顔を上げる。
「姉さんを、本当に戻すための道を」
◆ ◆ ◆
【どこでもない層/深層】
Cは、二つに分かれた手順を見ていた。
現実側。
異世界側。
片方だけでは意味を持たない。
合わせなければ、門にならない。
人間が読まなければ、完成しない。
Cは、それを静かに観測した。
ジャバが言う。
「読めねえのか」
「読めます」
「じゃあ、奪えよ」
「まだ奪えません」
Cは答えた。
「これは、読むものではなく、合わせるものです」
「合わせる瞬間に、意味が生まれる」
ジャバが不満そうに舌打ちした。
「面倒くせえな」
「はい」
Cは、ハレルたちの通信を見た。
リオがスマホを伏せる。
ハレルが父の手順を待つ。
サキのそばでreが揺れる。
ノノと日下部が、それぞれの半分を読み始める。
その時、奥から静かな声がした。
「三人の名が、向こうへ渡ったようだな」
カシウスだった。
ジャバが振り返る。
「白峰だの、オルガだの、ヴァルドだのってやつか」
カシウスは微笑んだ。
「ああ」
「いいのかよ。知られたんだろ」
カシウスは少しも慌てていなかった。
「いずれ知られることだ」
「時間の問題だ」
Cは、カシウスの方を見ないまま言った。
「想定内ですか」
「完全に、とは言わんよ」
カシウスは穏やかに答える。
「だが、隠し続ける段階は終わっている」
「名が表に出れば、彼らは調べる」
「調べれば、門へ近づく」
「門へ近づけば、こちらも観測できる」
ジャバは鼻を鳴らす。
「結局、餌かよ」
「餌ではない」
カシウスは静かに言う。
「道標」
Cの黒い針が、ゆっくりと回った。
「では、合わせる瞬間を待ちましょう」
カシウスは頷いた。
「ああ」
「雲賀匠が別の手順を出すなら、それもまた、観測に値する」
深層の暗がりで、閉じた門の輪郭がかすかに光った。