イヲンから帰る途中、紗月 (さつき) につかまってしまった俺はスーパーでの買い物につき合わされたあと、揃って神社に戻ってきた。
「「ただいまー!」」
引き戸をあけ玄関から家の中に入った俺たち。
上がり口の先を見ると、廊下を塞ぐように大きなダンボール箱が置いてあった。
「おとーさーん。コレなーに? 通れないよぉ」
いやいや、たぶんそれって空のダンボール箱だよね?
避ければいんじゃねっ、て思ったが黙っておく。
こっちにふられても困るし、俺は両手が塞がっているからね。
すると茂 (しげる) さんは居間からひょいっと顔だけだして、
「みんなお帰りー。いや、ごめんごめん。すこし立て込んでいてねぇ。ゲンさん、ちょっと手伝ってくれると助かるんだけど」
「はい、勿論良いですよ! じゃあ、まずはこの大きなダンボール箱をなんとかしますねー」
俺は手に持った荷物を靴箱の上にあげると、ダンボール箱を玄関から外へひっぱり出す。
こっちがテレビのやつで、そして向こうのが……、ああ、テレビを置くローボードのやつか。
どおりでデカいはずだよ。
とりあえずはポイポイ外に放っておく。
そして急いで家に上がり居間に向かうと……。
「…………」
――ありゃりゃ。
一人でいろいろ動かしたようだね。
ごっちゃごちゃしてて、収集がつかない状態だ。
よし、やりますかっ!
ここがかたづかないと焼肉どころではないし。
あとは二人でホイホイやってかたづけた。
二人でやればこんなに早いのにどうして俺が帰るまで待てなかったのだろうか。
茂さんは直観型なのかな?
これじゃあ紗月も大変だろうね。
俺は買ってきたホットプレートを箱からだしてテーブルの上においた。
上部のテフロン・プレートを外して台所へもっていき、洗ってくれるよう紗月に渡した。
そしてそのまま台所に立った俺は、まな板を一つ借りるとインベントリーから肉を出していった。
今日はワイバーンの肉がメインだが、ドラゴンの肉も少し出してみようか。異世界の定番だしな。
あとは女神さまにもらった ”ミスリルナイフ” の出番だ。お肉を食べやすい大きさにスライスしていく。
なぜ、ここで女神さまナイフを出したのか? それはこのナイフの切れ味だな。
切るときに肉が潰れないし、切り口も滑らかになるのだ。
そうすると、食べたときの食感というか舌触りがぜんぜん違ってくるんだよなぁ、これが。
ついでだから玉ねぎやピーマンといった野菜もサクサク切っておく。
肉と野菜を別々の大皿に盛り、上からラップをかけておいた。
さ~て、ご飯が炊けるまでの間はお風呂に入ってきますかね。
『シロおいで~』
………ぴちゃぴちゃジャブジャブたのしいお風呂………
俺とシロは風呂から上がった。
シロの毛も拾ったし、浄化もかけてきたからお風呂場は快適空間です。
ていうか、シロが浄化をかける玄関やお風呂場では、床のタイルはおろか窓枠の黒ずみまでキレイにピカピカ。
ここは家屋が古いため、対比が凄いことになっているけど……。気にしない気にしない。
「先にお風呂いただきましたー」
タオルを首にかけたまま、居間の座布団に座る。
やはりテレビがあると部屋が明るくなったように感じるなぁ。
――するといきなり!
キュイ! キュイ! キュイ! 地震です。 キュイ! キュイ! キュイ! 地震です。 キュイ! キュイ! キュイ! 地震です。 キュイ! キュイ! キュイ! 地震です。 キュイ! キュイ! キュイ! 地震です。 キュイ! キュイ! キュイ! 地震です。
おおおっ、なんだ!
テーブルの上に置いてあった茂さんのスマホから警告音が鳴り響いた。
ピロリロリン♪ ピロリロリン♪
こんどはテレビからもだ。
テレビ画面に地震警戒のテロップが流れている。
「緊急地震速報です! 大きな揺れに備えてください。落ち着いてください。緊急地震速報です! 大きな揺れに備えてください。落ち着いてください」
テレビでは番組が切り替わり、報道部のアナウンサーが注意を呼び掛けている。
――そして数秒後。
・・・カタッ カタッ カタタッ ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ カタタ カタ・・・
40秒ほど揺れただろうか。
「おおおっ、結構デカかったよなぁ。紗月は大丈夫だったか?」
「は、はい。 だいぶ慣れてきましたから」
「…………?」
ん、だいぶ慣れてきた? どゆこと。
俺が困惑したような顔をしていると、
「あっ、そっか、ゲンさんは知らないんだ! 最近は地震が多いの。今ぐらいの揺れなら先月だけでも5回はあったよ。電車なんかも止まっちゃうし学校のみんなも大変だっていってた」
なんだって!? 今ぐらいの地震が5回も……
「そうなんだよ。ここ半年ぐらいなんだけどね。徐々に回数も規模も大きくなってきてるみたいでね」
紗月に続いて茂さんも説明してくれた。
(なんか嫌なかんじだな)
話によると殆どが直下型の地震で、日本国内数ヶ所で頻繁に起こっているそうだ。
ここ福岡市もそのひとつであり、震源地は市内あちこちに散らばっているという。
それで徐々に大きくなっている?
以前から噂のあった南海トラフ大地震の前兆なんだろうか?
――訳わからん!
まあ、俺が考えたところで解るわけがないので、その辺はお偉い学者さんに頑張ってもらうとしよう。
さ――――て、気を取りなおして焼肉 焼肉!
みんなで居間のテーブルを囲む。
シロも俺の隣りに居るよ。取り皿をまえにお座りしている。
わかめスープとご飯を紗月から受け取り、シロの前には水が入った器を置いてあげる。
ホットプレートの温度上昇、圧力臨界に!
よし、セーフティーロック解除! ……あ、そういうのはどうでもいい。
肉だ! お肉投入だ!
ジュジュジュー、い~ぃ音だぁ。
よし、今のうちに取り皿にエバ○2号機アスカ頼む。
トクトクトクトクトク。それに練りニンニク。
――準備して!
はい! 赤木しゃま。
――いっけー!
パクッ。そして、ご飯をもぐもぐもぐ。 かぁ――――っ、もうひと口もぐもぐもぐ。
ぷっはぁ~、はぁはぁはぁはぁ。チアノーゼを起こすところだったー。
ぺしぺし! ぺしぺし!
(おお~、すまんすまん。使徒のヤローが手強くてなぁ)
シロと念話を交わしながら、炙っただけの肉を取り皿に入れてやる。
「…………」
う――――ん、静かな食卓だねぇ。
ただ、お肉とご飯をかき込む音だけが聞こえてくる。
ヒョイ・パク・カカカカカ。 ヒョイ・パク・カカカカカ。
二人は無言で機械のように繰り返している。
(なにこれ、面白い)
それから5分ほどが経ち、ようやく二人は通常に戻った。
「いやー、もう言葉がないねぇ。こんな旨い肉初めて食べたよ」
「そうそう、口に入れた瞬間『あれ、どこ行ったの? 私のお肉~~~』てなるのよ。これは反則だとおもう!」
茂さんと紗月がそれぞれに感想を述べている。
なにが反則だったのかはよく分らないが、喜んではもらえたようでなにより。
「今更なんですが、このテレビはいつ買われたんですか?」
「ああこれね。私が姉に頼んで届けてもらったんだよ。きのう電話をもらった時についでにお願いしてね。姉の職場はこの近くだし、乗ってる車はハイエースだから」
「へぇ~、結構大きなテレビですよね。高いんでしょうね」
「いやいや、そうでもないよ。国内メーカーT○SHIBAの40インチ、そこのヤーマダ電機で39,800円だったよ。安くなったもんだよね。ちなみにテレビ台は15,000円だったけど」
ホントに安いよなぁ。置く場所があるなら俺も1台欲しいよ。
そのあとも会話をしながら、楽しく夕飯は進んでいった。
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