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電話を切ってから、長い沈黙が続いた。
私は何も言わず、ヤマは小さな声で話し始めた。
全部、話すから。
そう言って、一つずつ説明した。
バレンタインの日。
駅までチョコを持ってきていたこと。
あの日、私についた嘘。
それから飲み会に来るようになったこと。
帰りに家へ来ていたこと。
風邪を引いた日に、看病をしてもらっていたこと。
聞けば聞くほど、息が苦しくなった。
私は立ち上がり、トイレへ駆け込む。
何度目かも分からないくらい吐いた。
戻ってきても、涙は出なかった。
聞きたいことは、一つだけだった。
「なんで、浮気したん?」
ヤマは俯いたまま、小さく答えた。
「……物理的な距離。」
その一言だった。
私は、その言葉を何度も頭の中で繰り返した。
人として負けたんじゃない。
女として負けたんじゃない。
最初から分かっていた。
私たちの間にあった、二時間の距離。
私は、それに負けたんや。
許せなかった。
苦しかった。
それでも。
好きだった。
ヤマは何度も頭を下げた。
「別れたくない。」
「バイトも辞める。」
「仕事も変える。」
「もう二度とせん。」
必死だった。
私は黙って聞いていた。
今別れたら、この人は楽になる。
傷つけられたまま終わるだけや。
そう思ってしまった。
だから私は、自分の心に蓋をした。
「……私が冷めるまで、一緒におろう。」
その言葉が、本当の意味で私たちを救ったのか。
それとも壊したのか。
あの時の私は、まだ知らなかった。
コメント
1件
(読み終わって、しばらく動けなかった…) 「物理的な距離」って言葉、めっちゃ刺さった。距離が原因って分かってても、許せないし苦しいし、でも好きなんだよね…。最後の「冷めるまで一緒におろう」のところ、心臓がギュッてなったよ。その選択が正解かどうかは、まだ分からないけど、その気持ちはすごくわかる気がする。 イツカさんの書く、重くて繊細な感情の描写、本当に好きです。