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PCショップ『アマノイワド』はすぐに見つかった。やたらと目に付く大きな看板が、木製のドアの上にデカデカと掲げられていたからだ。アマノイワドは昔話や絵本で見るかのような古風な日本家屋だった。お世辞にも店という雰囲気はしない。なんだか、ド田舎のお婆ちゃんの家に遊びに来たような気分だ。もっとも、木造の建物はアマノイワドだけではなく、この通りの店は殆どが古めかしい木造建てだ。


一度深呼吸をした典晶は、溜息をついて左右に延びる道を見渡す。南を向けば見知った商店街へ通じており、北を見ると真っ直ぐな一本道が緩やかな傾斜となって小高い山の上まで続いている。


先ほどまで晴れていた空も、薄く雲がかかったように乳白色に染まっており、山奥に入り込んでしまったかのように、空気は冷たく透き通っていた。しなびた温泉街に来たような、過去の日本にタイムスリップしたかのような、形容しがたい不思議な雰囲気の商店街だった。


「お邪魔します~」


典晶はドアを開け中に足を踏み入れる。


店内は外観そのままに古色蒼然とした日本家屋だった。ただ、外観とは裏腹に店内は驚くほど広い。いや、広いというレベルではない。郊外に建てられた大型電気店以上に広いスペースに、様々な種類のPCが所狭しと並べられている。外から見た建物の広さと、内部のスケールが合致しない。


上を見ると幾つもの梁が複雑に交差して天井を支えており、彼方に見える壁は土壁だった。入口の正面には、一面障子の張られた襖があった。


典晶と文也は、眼前に広がる光景に目を丸くしながらも、正面に見える襖へと近づいていった。襖の前には銭湯などで目にする番台が置かれており、そこに一人の少女がチョコンと腰を下ろしてタブレット型PCを弄っていた。


年の頃は、典晶よりも若干下だろうか。顔の三倍はあろうかと思われる大きな帽子を被っており、正面には大きな瞳が描かれていた。長い髪は艶やかで、白い肌に切れ目を入れたかのような小さな唇は結ばれていた。


「あの~……」


典晶が恐る恐る声を掛ける。


ギョロリと、帽子に描かれた瞳が動いた。ビクリと、二人は後ずさった。少女はゆっくりと顔を上げた。幼さの残る愛くるしい顔が不愉快そうに歪められる。


「なんじゃ? 定命の者が高天原に迷い込んだか?」


少女が話すと、帽子の瞳が探るようにこちらを見てくる。


「あ、いや、その、ちょっと用事があって……な?」


「ああ、そうそう……。あの、スマホのアプリを譲ってくれるって聞いたんだけど……」


少女が眉間に深い皺を寄せ、不機嫌そうに唇を突き出す。


「譲るじゃと? 馬鹿も休み休み言え。何故、儂がそなたに売り物を譲らねばならん!」


歌蝶と宇迦の話だと、八意と呼ばれる少女に頼めば便利なアプリを譲ってくれると言っていた。もしかすると、歌蝶から話がいってないのだろうか、それとも、彼女は八意ではないのだろうか。


「あの、八意って方がいるって聞いたんだけど?」


恐る恐る典晶が尋ねると、少女は「無礼なヤツじゃな」と眉根を寄せた。


「儂は別天神(ことあまつかみ)のタカミムツヒの子、八意思兼良命(やごころおもいかねのみこと)じゃぞ! 八意(やい)などと人間如きに呼び捨てにされる覚えはないわ!」


バンッと、八意は小さな手で番台を叩いた。可愛らしい顔に怒気が含まれるが、年の離れた妹を相手にしているようで、全く怖くはなかった。


「………」


「………」


典晶はどうした物かと文也を見た。バックではイナリが大きなアクビをしていた。


八意思兼良命と言えば、天岩戸神話や国譲りで活躍する神様のはずである。現代では学問や文神として有名だ。そんなメジャーな神様が、こんな寂れた商店街でPCを売っているなど、誰が想像できるだろう。

狐の嫁入り ~其の壱~ 許嫁は『妖狐』!?

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