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『8月7日』陽斗が戦場に行く日。あと1ヶ月。いや、1ヶ月も無いかな…陽斗と過ごす時間は今まで以上に大切になっていた。
「柊奈!その菓子くれー!!」
「…いいよ。」
「…あ、ありがと、」
2人とも距離を感じているのか今まで以上に気まずくなっている様子だった。
夜2人が寝静まってから旦那と一緒に話す。とても空気が重く感じる。
バンッ
机を叩く音が静かな部屋に響く。目に涙を溜めて、、旦那は障害があるから戦場に行けない。でも自分の息子は行くことになる。それがどれだけ旦那にとって辛いことかは、、私には計り知れない…
「なんで、、俺じゃねぇんだよ…」
悔しそうに言う。私はそれをただ、なだめることしか出来なかった。本当なら私だって、陽斗には戦場に行って欲しくない、ずっと傍で笑って幸せに暮らして欲しい。ただ、そんな願いなのに、どうして叶わないんだろう?
私たちは何をやったっていうの?なにの罰を受けているの?なんで国の人達は私たちの幸せを奪っていくの?どうしてよ…
「母ちゃん、父ちゃん…」
気づいたらふすまの扉がそっと開いていた。陽斗は怪訝(けげん)な顔でこちらを見てる。
「陽斗…起きてたのね…」
「おう…」
「なんだ、早く寝ないと行けないだろ!…」
少し強めの口調で言っていた。でも、微かに震えた声で言っていた。
「父ちゃん…」
「なんだ、」
「父ちゃん、母ちゃん、こんな俺でごめんな」
急な言葉に戸惑う私たち。陽斗は微かに目に涙を溜めていた。なんで、陽斗は何も悪くないのに、悪いのは国のトップの人たちなのに、、
「陽斗、急にどうしたのよ…?」
「俺、父ちゃん、母ちゃんの子でほんとに幸せだったよ。」
「俺さ、何度も父ちゃん、母ちゃんの事をウザイって言ったり、イタズラしたりして困らせてた。」
途中途中言葉が途切れながら話す。私は陽斗が生まれたばかりの時のことから今日までのことが一瞬で脳内に浮かんだ。陽斗はイタズラをしてよく怒られていた。でも、無邪気に笑う顔も私たちは大好きだった。
「でも、こんな俺をここまで立派にしてくれたことにめっちゃ感謝してる。」
陽斗がここまで言うようになったんだって今更感じていた。ほんとに幸せが崩れようとしている時に今までの普通が一番の幸せだってことに気づく。
「でも、まだ、俺未熟みたいなんだ。本当は戦場になんて行きたくない…自分の手で他の人を殺したくない。俺自身もまだ、死にたくない。もっと幸せになれるならなりたかった。」
「俺、、”もっと生きたかった”よ」
その言葉がどれだけ重かったのか考えるだけでさらに胸が痛くなる。最近は陽斗は戦場に行くために練習をして帰ってきている。日に日に暗くなる陽斗の顔を見るのがとても辛かった。
「お前馬鹿か!!」
急に旦那が怒鳴った。その拍子に机を思いっきり叩いた。陽斗と私はびっくりして一斉に陽斗の方を向く。
涙をずっと溜めていたせいか1粒の涙が頬をつたっていた。
「お前は生きて帰るんだろ!!何が死ぬだ!怖いだ!!俺が立派に育てたんだ!」
陽斗ももらい泣きしそうにうるうるしながら聞いていた。
「だから…大丈夫だ、、俺を信じろ…」
そう言うと立ち上がり陽斗に抱きついていた。旦那の方からするのはめっちゃ珍しかった。でも、これが最後かもしれないって悟ったんだろう。
それに、いつしか陽斗の方が身長は高くなっていて、旦那の方が少し身長が小さく見えた。その姿はまるで昔の旦那を見てる気分になってきて…本当にこの子を手離したくないって思った。私たちの周りにも戦場に行った子たちは沢山いる。でも、誰一人として生きては帰ってこなかった。両親は泣いていた。でも、国のために無くなった。そう信じていた。ラジオなどではよく、
『日本は勝っている』
そう書かれていた。だからこそ、それが唯一の救いだったんだろう。