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死闘と誓いのあの日から数日―
パンナコッタ・フーゴは歩を進めていた。理由は勿論ボス、彼が忠誠を誓ったジョジョからの招集だ
一番最後に彼の元恋人、グイード・ミスタに会った時に比べると、月とすっぽんのように凛々しい顔をしている
靴音が静寂へと響いていく。真っ直ぐ見ている瞳の先には、重々しくそびえ立つ扉が1枚あった。耳元のピアスがキラリと朝日を跳ね返し、彼は扉に手をかけた
「ジョジョ、ただいま参りました」
目線を向けると色素の薄い儚げな少年が1人、座っていた。新緑の目を細めて微笑む
「フーゴ、きてくれたんだね」
声色は暖かく、日溜まりと同じ色をした髪が揺れた。フーゴは「えぇ、ジョジョの頼みですから」と返すと嬉しそうに自身の顎に指をかけ、フーゴに問いかけた
「実は君に会わせたい人がいてね、今こっちにきてくれてるんだ」
「僕に…?」
フーゴは一旦首を傾げたが、ジョジョの様子からそう考える必要もなかった。脳裏に映る黒目と黒髪。自分とは違った硬い髪質が指先にふんわりと蘇る。きっと、
「ジョジョ、それはもしかして―」
言葉を掻き消すように勢いよく背後から扉が開く音がした。ボスの部屋だというのに礼儀礼節の態度もないガサツな音だ。風が入り込んでフーゴの髪を逆撫でる
混じって鼻孔に広がる懐かしい香り、ベルガモットとカモミールが混じったトップノートが通り過ぎる。床に敷かれる高貴なカーペットに似つかわしくないブーツの音が背後から鳴った。半年前の記憶を思い出す。“楽しかった”なんて浅い気持ちじゃ言い表せないほど濃く、甘く、苦しい。その中に一番強く香る彼が、あの日フーゴに銃口を向けていた彼が、今、後ろに立っている
近づく足音と同じリズムで振り返ると、目の前には数日前と同じ、思い出の中だけにいたミスタがフーゴを見ていた
「ミスタ…」
落ちると同時、叩き付けられた花束のようにフーゴの髪が空を舞う。肩には見慣れた帽子が項垂れていた。体いっぱいに長い腕が回され、これでもかと強く強く締め付けている
フーゴは次の行動が分からずチラリとジョジョの方を見る。しかしこちらも何も言わない、だけど頬杖を付き人の恋路を楽しんでいるのだけは伝わる。行き場を失った両手は抱きしめるかどうかの決断を協議していた
「あの…」
小さく鼻を啜る音がしてミスタが顔を上げた。腕を離し、少しだけ距離を開けてフーゴのことを真っ直ぐ見つめる。途端ほんのすこし赤く染まった目元と頬が歪んだ
「おかえり、フーゴ!」
自分より2つ上とは思えない無邪気な笑顔がパッと花開いた。それにつられて思わずフーゴにも笑みが移る
ドラマみたいな“再会を誓い合った恋人”なんて甘い関係ではないけど、それでもこの運命は決まっていたのだろう。2人の指先は甘く解ける。フーゴは自分の恋人の目元で涙を掬い、ミスタは最愛の相手の顎をそっと撫でた
瞬きのモールス信号。そこに意味なんてないけど、確かに会話が成立してた
音はいづれ落ちて霧となる、見るものは全て無くなることだって分かってる。だけどこの瞬間だけは、2人の思い出として留まるだろう
「なに泣いてるんだよ、」
フーゴは少し爪先を上げて、濡れた睫毛に優しく口付けした
コメント
3件
第1話、読み終わりました。パンナコッタ・フーゴとグイード・ミスタの再会、すごく良かったです。銃口を向け合った過去を経て、それでもこうして「おかえり」と言える距離に戻る運命——その関係性の再構築が、ベルガモットとカモミールの香りや、ピアスに反射する朝日といった細やかな描写で静かに彩られていて、胸に染みました。ラストの瞬きのモールス信号、言葉にならない会話が成立している感じが、2人の間にしかない空気を完璧に閉じ込めていて、素敵でした。続きが気になります。